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『探し出してください』


 私が白銀さんにお願いしたことだった。



『電子機器の持ち込みは出来ない、つまりは連絡を取り合う手段がないってことなんです。その中で、何千人にランダムで配られる噓つきカードを持つ一人を指摘するには手段が必要になってきます。例え、結託している仲だったとしても』


 それが全員共通のサインになる。恐らく、あちらが取ってくる手法だ。問題は、それをどうこちらに露見しないよう隠すかだ。



『嘘つきを指摘する場合だね。あちら側は一人も犠牲を出さず、こちらに露見しないよう嘘つきを指摘する。そうすれば、こちらは何千といる相手から一人を見つけないといけなくなるし、単純に人数もキープできる。絶対的な勝ち筋だ』

『ええ、それをやられている限り勝てません。だからこそ、そこを突きます』


 共有の手段と隠す方法。これについてはあたりがつく。ルール上、電子機器の持ち込みが出来ないのであれば、短い時間の中で、一々誰に嘘つきのカードが結託するメンバーの誰に渡ったかを特定するという手法は取りづらい。なら、逆転の発想である。



『連絡が取れないなら、あらかじめ相手に分かりにくいよう番号を決めて、そこに嘘つきカードをチェンジングさせる。早い話が、最初から生贄の番号を決めておく流れになるはずです』


 あらかじめ、ゲームから離脱するメンバーを決めておく。そうすれば、そもそも共有するという行為自体を省くことが出来る。


 後は、簡単だ。生贄に決まっているメンバーのところに嘘つきのカードが来なかった場合、その生贄が何らかのアクションをすればいい。なんだったら、大きな声でこっちにない、とでも叫べば共有は完了。後は、こっちにいるメンバーをそれぞれが適当に指摘すれば、こちらは間違いなく一人が削られる。


 それを繰り返す必勝パターン。



『その番号を見つけてほしいってことかい?』


 白銀さんは苦笑しながら、頬をかいた。これから、どうやって言葉を告げればいいのか悩んでいるようだった。



『反論が二つほどあるけど、いいかい?』

『どうぞ』

『まず、ひとつめ。その生贄決めが番号によって決められているとは限らないってことかな。それこそ、苗字、所在地。あとは単純に、この学部の人を生贄に、なんてのも考えられるよね?』

『その可能性は限りなく低いです。考慮しなくていいくらいには』


 私がそう言うと、白銀さんは微笑んだ。この人は、わざと分からないフリをして、相手に話しを促す節がある。それは、コミュニケーションを円滑に行うための手法なのだろう。これから私が言う内容など見当はついているにも関わらず、相手の聞き手に回る。それは、私にはない、コミュニケーション手法だった。



『一万人ですよ? 互いの苗字や学部を確認するという莫大な時間を要することよりも、確実なものがあるのにそれを使わないということはしないはずです』

『なるほど、確実なものか。既に振り分けられている数字なら確かに確固としたものになるね』


 白銀さんは、名前などより数字の方が好きだと語った。その会話の続きでもある。振り分けられた数字なら変動はない。確かにそこに存在し、不変である。



『それじゃあ、二つ目。これは反論というより、根幹そのものについての問いなんだけど、本当にあちらはそんな手法を取ってくるかい? 全ては君の憶測だろう?』

『そう、ですね。もしかしたら、普通に相手が勝負してくるかもしれません。違う、手法でこちらを陥れようとするかもしれません』


 ですが、と私は続ける。



『考えうる限り、こちらにとって最悪の手法がこれなんです』


 言葉を口にし、私は思わず笑ってしまった。

 高校時代、いや、弓弦さんとの件以来、私の癖になっているようなもの。最悪のケースについて想いを馳せる。それがどんな突飛なものでも、もし、それを否定するに足りる根拠がなければ、世界はそれを望むということを、私はそう考えてしまっている。



『いいんです。もし、あちらが正々堂々と普通に勝負してくれるなら、それはもう、こちらもただ闘うだけ。そのほうがよっぽどゲームとして正しいんですよ。違う手法で、こちらを陥れようとしているなら、それでもいいんです。その時点で、きっとこれ以上の最悪の手ではないので、その場で何とか出来ると思うんです』


 とどのつまり、私とはこういう人間なのだ。対応出来る事柄は無視、それ以外のパターンについて考える。それは、高校時代、天才と言われていた()の面影でもある。傲慢な、それでいて不遜な輩の考え方である。それを笑って言えるくらいの人間にはなりたい。それもきっと、私で間違いないのだから。


 私の言葉を聞いて、白銀さんは、目を見開いた。

 それから、何が面白いのか、声を抑えて笑う。



『驚いたよ。うん、違うかな、見違えたというべきなんだろうね』


 私は少し照れくさくなり、足早に次を話す。



『話を戻しますね。指摘する番号が何千もあるなら、番号を事前に指定していたとしても、確認手段を用意しているはずなんです。指摘が万一にも間違ってしまわないように。それが何かしらの意味を持つ数字の羅列であることは間違いないと思います。何千人という人達でも共有できる、絶対の答えがある数列が』

『それを君たちがゲームオーバーになる前に探し出す、ね』

『難しい、でしょうか?』


 いや、と私の友達は笑いながら言う。人懐っこい笑みで言う。



『簡単だよ』





 静寂だった。


 指摘が終わった後の体育館は、体育館を温めるエアコンの音だけが鳴り響く。そこには、怒号も嘲笑もありはしなかった。



 四番である万城目さんは、高々とそのカードを掲げる。


 静寂の中、ただ天高くと、ピンと張られた右腕はどこまでも伸びているように錯覚する。



 そのカードの中心の記号は、×()だった。




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