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「もし、少数相手に大多数の人間が結託して、嘘つきゲームをしたらどうなると思います?」
三日前。
場所は食堂。そこに集まっていたのは、御剣さん、堂島さん、万城目さん、白銀さんと私の5名。
全員がそれぞれ好きなものを頼んだ後、昼食兼顔合わせの意味も含んだ会合が持たれていた。
その中で私は口火をきる。
「取れる方法が広がるね。結託という意味でいえば、君たちがやったようにカードをチェンジすることもも可能なはずだ。もっとも、結論だけ言えば、パワープレイで敗けるってとこかな」
それに反応したのは、白銀さんだった。すぐに私以外のメンバーと足並みを揃えているところを見ると、この人はやはり、コミュニケーション能力がずば抜けている。
「そうだねー。結論はそこに行き着いちゃうよねー。こっちとしては嘘を見破る対象が増えるわけだし、仮にこちらが嘘つきのカードを持っているってばれたら、指摘も避けようがないからねー」
万城目さんは、痛い本質をすぐにつく。
そう、このゲーム、嘘つきカードの所在がものを言う。
「そうなんです。そして、それは必勝の手になります」
「相手側に嘘つきのカードがあった場合、相手が何かしらのサインを使用して全員で共有、人数の減少を抑えるのがこちらを刺すには最もいい手ね。こっちが指摘出来ない可能性が高い訳だし、勝手に自滅も十分あり得る」
「加えて言うなら、もし自分たちに嘘つきのカードがないと共有出来た場合、例えこちら側の嘘つきを特定できなかったとしても、適当に分散してこっちを全員指摘すれば露見するっつー訳だな」
堂島さん、御剣さんがその概要を語った。
簡単な話だ、あちら側にカードがあったら身内を切り続け、こちら側にカードが来たら全員を指摘する。それだけの話。
このゲームの本質は、結託にある。
人数が多い方が単純に強い。人数が少ない方が単純に弱い。
自分の勝ち負けを度外視すればの話であるが。
「間違いなく、堂島さん、御剣さんが言った展開になると思います。だから、こちらは指摘を間違えた瞬間にゲームオーバーです」
「そもそも、何千といる向こうのなかにいる嘘つき一人を指摘出来んのかよ。人数から考えてこっちにカードなんてきやしねぇぞ」
「私が嘘つきを見つけます」
強く言い切った。その言葉は思いの外、ここにいる全員が驚きに値するものだったらしい。
だが、誰一人としてそれに否と言う人物はいなかった。
それどころか、御剣さんは楽し気に嗤い、
「しくじんなよ」
一言だけ言い放つ。
しくじるわけないだろう。
私は言葉に出さず心で宣う。貴方達が私を信じてくれるなら、しくじるわけがないだろうと。
「皆さんには他のことをお願いしたいんです。そして、それが勝つために必要なことで、手順になります」
私は私という人物について、この一年間で痛切に学んだ。どこが限界で、何が出来るか、そして出来ないか。
だから、勝つために必要なことを、私が出来ないことをお願いする。
御剣さんに。
万城目さんに。
白銀さんに。
話を聞いた三人は、深く考えているようだった。
正直、三人にお願いしたことを達成する方法は、私では考えられなかった。思いつかなかった。
つまりは、私では出来ないということに直結する。
言うなら、全員がキーパーソンで、誰が欠けてもこのゲームは勝てない。
その中でも特に重要なのが、
「難題だね。本当に君は無茶を言う」
白銀さんだった。
「お願いします、白銀さん。ミスなく指摘したとしても、こちらは勝てないんです。ただ貴方がいれば、話は違う」
「僕が必要な理由がやっとわかったよ。嘘つきゲームなんかやったことないのに、呼ばれたこと自体が疑問に思ってた」
彼は柔和な笑みを浮かべると呟く。仕方ないか、と付け加えて。
「友だちの願いだからね」
彼とこの一年間で話した時間は、本当にごく僅かだ。話した回数もこの中では断トツで低い。
それでも彼は、こんな私を友達だと言ってくれた。
あんな別れ方をした私を友達だと。好きな人さえ、一緒なのに。
どう、応えればいいのだろうか。
こんなに言葉を尽くしてくれる彼に、私はどう応えればいい。
その答えは随分前から知っていたはずだ。彼との決着の際に、言われていたはずだろう。
「頑張ります。向き合うために」
自然と口から出た言葉は、彼を納得させるには十分なようだった。
「なら、僕も頑張るよ」
ありがとうございます。と喉まで出かかって、結局私は言うのを辞めた。そんな言葉が彼の言葉に報いることが出来ないと思って。だから、頷く。目を逸らさずに頷いた。
「それじゃあ、流れを初めから説明します」