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「それでは最初の話題! “好きな料理は?”」


 参加者全員がスケッチブックに解答を書く。この時、嘘を書けるのは、嘘つきのみ。


 スケッチブックに解答を書く音が体育館に響き渡る。一つ一つが小さな音でもそれが集合体になれば、この体育館にも響き渡る。


 私の配布カードは○。他の三人も同様に○だった。当たり前といえば、当たり前。一万人近い人数のなかで、たった一枚の当たりを引くのはそう出来ることじゃない。



「全員、解答を前へ」


 私は、チキンカツと書かれたスケッチブックを前と出す。そして、前を見据える。


 そこにあるのは、無数のスケッチブック。全員が全員のスケッチブックを把握できるようになっているのだが、そこにあるのは、もはや壁といってもいいほどのスケッチブック。



「それでは質問! “その料理に使われる具材は?” 解答者が多い為、手短に願う!」

「それでしたら、一番から四番までの方は答えなくてもいいですよ」


 漣さんの声に反応したのは、ラフィーさんだった。



「そちらにないのは分かっています。私たちの中からどうぞ見つけてください。見つけられるものなら」


 平坦な声、仮面のような表情。

 それは、私と対立していたラフィーさんそのものだった。


 そうせざるを得ないのだろう。対立している相手に優しい態度をとれば、このゲームは一気に茶番になる。成り下がる。それだけは、何があっても避けなくてはいけない。


 彼女の握りしめた拳が、その事実を雄弁に語ってくる。

 後ろにいる人たちを見捨てられなくて、私も救おうとして、ここまで自分を追い込んでしまった彼女だ。それはきっと、どうしようもない鎖となっているんだろう。



「シェ、っ」


 堂島さんが、ラフィーさんを呼ぼうとして、堪える。その声に僅かに反応したラフィーさんがまた痛ましかった。


 あぁ、分かってる。こんなのきっと望んじゃいない。望んでるのは一人の大馬鹿だけだ。あの不敵に嗤う教授だけだ。



 ああ、見てろよ、教授。

 しっかりと、目を見開いて見ておけよ。

 見せつけてやる、どんな奴を陥れようとしたのか。

 どんな奴の喧嘩を買ったのか。


 これが()だ。



「ありがとうございます。では、全員一斉に仰ってください。時間もありませんし、午後から予定入ってるんですよ」


 一瞬だけ、静寂が訪れた。


 そして、響き渡る罵詈雑言。大音量のそれは、私のなめた行動を非難するものだった。当然だ。目の敵にしてる相手がこんな風に煽れば、人は乗っかってくる。それは理性を押し通す感情の爆発だ。


 それでも後ろの三人は何も言わない。私の愚行に対して、非難の声を上げない。それがどれだけ心強いか。



「静かに!!」


 ゲームマスターが諫めても留まることがない。しかし。


 一人の女性が右手を上に挙げただけで、その罵詈雑言は静止する。場が静まり返る。



「いいんですね?」


 ラフィーさんがこちらに尋ねる。


 ダメですよ、ラフィーさん。そんな心配そうな目を相手に向けちゃ。なんて思いながら、私は宣う。



「いつでもどうぞ」

「では」


 私の声が終わった途端、体育館を揺らすほどの声量が木霊する。爆撃のような音声は、私を確かに狙い撃つ。


 その中で、私は照らし合わせる。


 口の動き、挙動、スケッチブックの内容。違和感だけを探す。人はどうしても嘘を吐くとき、拭えない不和を生み出す。身体と心が分離するからだ。一致しない。私自身に嘘を吐いてきた私はよく分かる。だからこそ、他人の嘘にもそれが生じるのを知っている。



 身を持って知っている。



 だから、どうしようもなく、簡単でたまらない。 



 声が止む。



「御剣さん、堂島さん、万城目さん。1175番の料理名だけ分かんないですけど知ってます?」

「あ? ありゃ、ベトナム料理だ」

「美味しいんだよー。甘味のあるスープが特徴でねー」

「何? アンタもしかして大見得切って分かんなかったの?」

「いえ、確認です。知識に関してはどうしても怠けてた分弱くて」

「頼りねぇ大将だなオイ」

「すみません。でも、貴方たちがいるから私はこうやって、確証を得られる」

「人使いの荒いヤツ」

「で、何番指摘するのー?」

「9047番です」


 私が、そう言ったともに三人が指摘の用紙にその番号を記入する。



「なんで、とか聞かないんですか?」 

「聞いて欲しいワケ?」


 堂島さんがこちらを見ずに答える。他の二人も同じような感想らしく、すこしだけ嬉しい感情と共に溜息が出た。



「それでは指摘に移る! 全員、指摘する番号を前に!」


 漣さんの声とともに、参加者全員がスケッチブックを前に出す。



 全員が、9047番を指摘していた。

 9047番でさえも、9047番を指摘していた。



 それを微塵も不思議とは思ってないのだろう。9047番はこちらに憎悪の籠った瞳だけを向けてくる。


 自分が生贄になったにも関わらず、私たちだけを睨んでくる。



「やっぱり、こうなりましたか 


 私は、一人呟く。天才と、そう称される貴方たちが何故、と思わずにはいられない。

 ゲームは楽しくあるべきなのに。



「お願いします、白銀さん。貴方が頼りなんです」


 こちらに居ない友達の名前を私は言う。2回目のゲームが始まろうとしていた。



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