二回目の食事の誘い
遅くなってすみません
いきなりだが、私は二つのスマートフォンを持っている。
一つ目は、社長として使っている物で青色を使っている。もう一つが事務の仕事やプライベートとして使っていて、色は白だ。
例えば、副社長には青色の方で、事務の同僚達には白色の方の番号を教えてある。
そのうちの一つのスマホの着信が鳴った。白色の方だ。
今は、仕事が終わって家についたばかりだ。一体何の用だろうか。
知らない番号だった。
誰かが番号を変えてかけてきたのだろうか。
「はい、新崎です」
「もしもし、霧崎です」
「霧崎……。えっ、霧崎社長!?」
一瞬、誰だか分からなかった。少し間を置いて誰だか分かると頓狂な声を上げてしまった。
おかしい。彼には番号どころか名前さえ教えていなかった筈だ。名前は、聞かれていなかった為名乗っていなかった。
「どうして、番号を知っているんですか?」
「調べました」
そうですか。一体、どこ(誰)から漏れたんでしょうね?
「それで、何か御用でしょうか?」
とりあえず、番号を知っている事については無視しようと思った。尤も、例え聞いても教えてくれないだろうと思ったからだが。
「晩ご飯をご一緒にどうかと思いました」
「仕事が終わったばかりで疲れているので、ご遠慮させていただきます」
これ以上余り関わらない方がいいだろう。
「では、明日の帰りにまた誘います。退社はいつ頃でしょうか?」
(会社に来る気か!!)
「どうして、そうなるんですか」
「きみが来られないなら迎えに行って差し上げようと思っただけです。どうしますか?」
(この人性格悪っ!!)
「分かりました。行けばいいんでしょ、行けば」
「では、迎えに行きます。どこへ行けばいいですか?」
「A駅でお願いします」
場所は、家から少し離れた場所にした。それは、社長としてそこそこいいマンションに住んでいた為、少しでも怪しまれないようにするためだ。
尤も。既にばれているかも知れない。だが、念のため用心するに越した事はないだろう。
数十分後、準備が出来て、A駅へ出発した。
その時には、既に迎えの車は来ていた。そして、当然のように霧崎社長も後部座席にいた。運転席には、また別の男性がいた。
「来てくれて.ありがとう。前にいるのは、運転手の原田だよ」
気を効かして、紹介してくれた。
「よろしくお願いします、原田さん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ありふれた、初対面での挨拶だ。
「原田、向かってくれ」
「はい」
そのまま、原田さんの運転でどこかへ向かう。
(そういえば、どこへ行くのか聞いてなかったな。)
そんな、今更な事を思い出した。
「あの、今更ですけどどちらへ向かっているんですか?」
「ABイタリア料理店です」
そこ、高級店なんですけど……。
「あの、霧崎社長?そんな所、いいんですか?」
「私が払いますので、問題ありません。ああ、それと社長付けはやめて下さい。いっそ、名前で呼んで頂いてもかまいません」
だから、それがいいのか聞いているんです。そして、名前呼びはしません。
しばらくして、ABイタリア料理店に着いた。
高級店に相応しい外装だ。外から見える範囲の内装もなかなかの店だ。
「いらっしゃいませ。霧崎様でいらっしゃいますね、お待ちしておりました」
どうやら、予約を取っていたらしい。問題はいつ取ったのかだが……。
そのまま席に案内された……と思ったが、何故か奥の方へ向かっている。
「霧崎さん?」
「奥の個室で予約してあるんです」
何を言いたいのかは察してくれたようだが、個室をわざわざ予約するってどうなんでしょうか?
個室もまた、凄い内装だった。普通の席でもなかなかの物だったが、個室はそれ以上だった。
二人で使うのには、十分すぎるくらいの広さだ。
「どうぞ、座って下さい」
そう言って席を進めると、霧崎さんは向かいの席に座った。