始まりの出合い
ある晴れた夏の日。私は彼に出会った。
あんな偶然がなければ、きっと私達は出会わなかっただろう。もしも会ったとしても、それはきっとすれ違ったりするだけで関係を持つことはなかっただろう。
そんな中で私達は出会った。
きっと運命に導かれたからだと思う。そうであって欲しいと願う。
「晴美さん。今日、夏奈が風邪で休んでしまっているので変わりに受付をやってくれませんか?」
「はい、わかりました」
そうやって私は二つの返事で了承する。
私の名前は、新橋晴美。白峰コーポレーション事務の仕事をやっています。
白峰コーポレーションは、数年前に設立されたばかりながら今や、知らない人はいないというほどの大企業になっている。
今、私は19歳でこの会社に入社一年という新米として働いている。なぜ高校を出たばかりの私がこんな大企業に入社できたかは、とりあえず今は気にしないで欲しい。
午後になって、私は今日休んだ同僚で友人の夏奈の変わりに受付の仕事をやっている。
受付の仕事は、大体会社に来た来客の確認と案内だろう。それ以外の時間は別のできる仕事をしている。
「すみません、予約していた霧崎コーポレーションの者ですが」
そう言って眼鏡の男性が来た。うしろにも男性がいる。恐らく、話しかけて来た人はあの人の秘書か何かだろう。
「かしこまりました。霧崎琢磨様でいらっしゃいますね。今、案内の者が参りますので少々お待ち下さい」
霧崎コーポレーションは、何代か続く大企業だ。確か、霧崎琢磨という名前はそこの社長だったはずだ。
少しして、副社長の秘書が来て二人を案内していった。
「お待たせいたしました。霧崎様でいらっしゃいますね。ご案内致します」
しばらくして、交代の時間になった私は通常の仕事に戻っていった。その途中で彼と会った。
「霧崎様?このようなところでどうされましたか?」
彼は今、副社長と商談をしている筈なのに廊下にいる。しかも、商談の場所とは結構離れていたため、不思議に思い声をかけたのだ。
「君のは確か受付にいた……。用があって出てきたんだが迷ってな。悪いが、案内してくれないか」
「かしこまりました」
成る程と思って返事をしたが納得したわけではない。
案内している途中で、話すつもりはなかったが相手から話かけてきた。
「ところで、君は、社長を知っているかい?」
(そんなところだろうと思った)
白峰コーポレーションの社長は謎に包まれている。会社設立してからたった数年で世界に名だたる大企業にした凄腕でありながら、顔を一切出さずにいる謎に包まれた人物だ。
そのため、裏では「黒の社長」と言われている。
「申し訳ございません。社長につきましては口外を禁じられておりますので、お話できません」
「やはり、社内でも知られていないんだな」
(今の話でそこまでは断言できないはず。誘導しようとしてる?)
「社長についてですと、噂ならございますよ」
「噂?どんな?」
「いろいろです。例えば、若いイケメンの男性だとか50歳くらいのいい感じのオジサマだとか美人の女性だとかですね」
「それはまた……。極端なものだな」
確かに、イケメンだとかいい感じだとか美人だとかがいいような噂になっている。だが、噂とは人がいいと思う方向に広まっていくものだ。
それ以降は特に何も話すことなく、目的の場所についた。
「つきました。こちらですよね」
念のため、確認だけはしておく。
「ああ、助かった」
(はあ、疲れた。いったい何考えてるんだか)
そうやって、疲れた気持ちで本来の仕事に戻っていった。
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