ネット上の仮想空間
「ネット上の仮想空間に飛び込むってどういうことですか……?」
先生は俺の事を馬鹿にしてるのか?
俺には何が何なのか全く理解できなかった。
ネット上の仮想空間に飛び込むなんてできる筈がない。そう思ったのだ。
「多田君は20年前のIIDS事件を知っているかい?」
「たまにテレビで特番をやっているやつですよね。確かインターネット情報破壊システム(Internet Information Destroy System)の略ですよね。そういう特番とか見ないから詳しくは知らないですけど」
「そうだよ。そういうのに興味がないなら無理はないか……」
「で、それとの関係って何なんですか?」
「IIDSっていうのはネット上の世界に入って情報を内部から破壊するシステムのことでネット上に個人情報を晒してしまった人がその情報を消すために開発されたんだ」
「つまりそのシステムを使って俺の昨日晒した画像を消去しろってことですか」
「そういうこと」
秋見先生はうなずいた。
「そういえば20年前の事件って何が起こったんですか?」
「事件のこと……聞きたい?」
秋見先生は急に声のトーンを低くする。
「20年前2032年の夏にネット上にアップした情報を内部の空間に入って管理人の権限を無視して消す事ができる機械が開発されてネット上で話題になったんだ」
「それがIIDS……ですね」
「うん。それの開発されたという情報がインターネット上で広がっていった。そしてインターネット上で発売されたんだ」
「それでどうなったんですか」
「発売価格10万円という値段にも関わらず、インターネット上にアップした情報を消したい人だけでなくインターネット上の世界への興味本意で買う人が続出した。当時小学生の僕も貯めておいたお年玉を全部使って買ったよ」
そこまで言うと先生は深いため息をついた。
「でも事件はここから始まった。インターネット上の世界に入ったのはいいけど、時空の狭間に閉じ込められて一生意識が戻らない人が出たんだ。でもそれだけじゃない。インターネット上の世界で何者かに襲われて脳が死に帰ってこれない人も現れた。それにその事件が明るみになる以前から管理人の権限を無視していることに対して風当たりも強くてね。この事件が決め手となってこのIIDSは販売禁止へと追いやられたんだ」
「なんでネット上の仮想空間で脳が死ぬなんて事があるんですか?」
「あの空間内で脳はデータ化される。つまり空間内でデータ化した脳が、深刻なダメージを受けると現実世界に戻ってこれなくなってしまうんだよ」
「先生はそんな危険なことを生徒である俺にやれと言っているのか⁉︎ 冗談じゃない!」
俺は感情的になり、先生に怒鳴った。
俺は晒した画像を消去したい。でもそのために命を危険にさらすなんて嫌だ!
俺はまだ中学生だ。まだやり残したことはたくさんある。
好きな漫画も最終話まで見たいし、彼女も欲しい。まだ行ったことのない外国にも行ってみたい。
俺はまだ死にたくないっ!
「先生は教師失格だっ! そんな危険な事を生徒である僕にやらせようとするなんて!」
「もちろん、無理にとは言わない。けれど、もしインターネットに情報が残り続けたら、君が思い描く未来は一生やってこないかもしれない」
確かにそうだ。俺が何もしなければ、俺の晒した顔写真はデジタルタトゥーとなり、インターネット上に残り続けるだろう。そしてそれが、進学や就職、結婚といった人生の岐路で足を引っ張る可能性は大いにある。
「それにこれを勧めているのは何も僕だけじゃないんだよ」
「えっ⁉︎」
「実はな……インターネットの世界に入って情報を消すように頼んできたのは君の母親なんだよ」
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