最後の戦い
『
「これならいける!」
ハインはロイスの裏魔法を見て革命の成功を確信する.
「革命…,国王を殺すのですか?」
「そんな畏れ多い.戦う軍隊と抗う政治家を殺すだけだ.多少汚れていても重要な人脈を持っていることがある,慎重に選ばなければならない」
「なぜ国王はそのリストに入らないのです?頂点が変わるというのは大きな影響があるように思いますが…」
「理由は3つ.1つ目は,あの方はいい人だから.2つ目は,政治的に利用価値があるから.ルール無用の殺し合いが始まると,互いの組織が偽装工作を始めるだろう,人々の心は疑心暗鬼になり,どの組織に属すべきか分からなくなる.しかし,長い看板を持ち,常日頃高貴な振る舞いの国王なら大丈夫だろうと国王派へ向かいやすくなることが予想される.そこで大人しくしていて貰う方がやりやすい.また,将軍や宰相は国王の任命で決まる.儀礼的なものに過ぎないとはいえ,その儀礼を力のある多くの人が認めればそれは効力があるということだ.使わない手はない.3つ目は,最後の最後に拘束力が発揮できるからだ.騙しあい,殺し合いをしていては,調停を結んでこれで終わりにしようというのが難しい.国王の名において調停を結べば,その調停は拘束力が増す.もし破った場合は,それを理由にしてそれ以外の組織で破った組織を袋叩きにできるのだから.もし一緒に破ろうとする場合は,十分な時間と資金がいるため,簡単にはできない.最終的に戦いを終わらせようと思っている者がいれば,この可能性を潰すような真似はしまい」
「なるほど.しかし危ういバランスの上に成り立っているような気がしますね」
「知った直後はそう思うが,案外頑丈なものだ」
「そうですね.少し様子を見てから結論を出します」
「そうか.まあいい,私を王都から追い出した奴らをあの世へ追い出してやる.フハハハ…」
』
ソヴェリアとエコールは相談する.2人の会話は省略された単語の嵐だ.すぐに終えて2人はロイスへ向かって走る.ソヴェリアはエコールの前に立って,杖を突き出し,その先から強力な水流を出して攻撃する.ロイスは前に踏み込んで左手の剣で杖を横に払って逸らし,右手にナイフを持ってソヴェリアの胸目掛けて突く.直後にソヴェリアの腹に前後からナイフと風の剣が突き刺さる.
「ぐっ…」
風の剣はロイスの右腕を刺し貫き,エコールはソヴェリアを受け止めて後ろに下がり,渦を作ってロイスに攻撃する.ロイスは左手の剣で渦を破壊し,後ろに下がる.
エコールはソヴェリアを地面に下ろす.
「…成功,やったね…」
ソヴェリアは苦悶の表情を抑えつつ,必死に笑って勇気付けた後,目を閉じる.
「(達人級でも突然の仲間ごと斬る攻撃は予想できない,そこを突いたか.だが相手は戦力マイナス1,一方こちらは相応のダメージとバランス制限,片手で扱える武器に限定されたにすぎない)」
ロイスは魔法で包帯を操って右腕に巻きつける.エコールはソヴェリアの杖を手に持ち,水平に構える.
「裏魔法の真の姿.始まりの姿に戻れ,裏征」
エコールの周囲の砂が魔力で吹き飛ばされ,直後に静止する.
「(何?既に裏魔法の封印は解いているはず.それがなぜ,もう一度解ける?それも他者の武器を用いて)」
ロイスは別の剣を呼び出して振り上げる.振った先の地面が切リ裂かれ,宙に舞う蝶は真っ二つになる.エコールが杖を振ると軌道がそれて横に曲がった.
「風じゃないのかそれ.へえ,面白いじゃん」
ロイスはナイフを取り出して投げ,剣を出して振る.ナイフは分身してエコールに襲いかかる.エコールは前に杖を突き出す.ナイフは動きを止めて空中に静止する.ロイスはエコールの背後に現れて切りかかる.エコールは前に避けてナイフが刺さり,背中も軽く斬られる.ロイスは返す刃でエコールに切りかかる.エコールが振り向き,剣は空中で止まり,ロイスの体も腕から止まり始める.ロイスは足元から剣を出して蹴り,エコールは杖で防ぐが,わき腹を裂く.ロイスの体は動き出し,空中を切ってまた遠くにテレポートした.
「(なるほど,止める力と動かす力を操るのか.風を操る力の根源のようなものか.裏魔法の真の姿とはそういう意味なんだな.…発動には意識を向ける必要があるようだ.いや,魔力の消耗を抑えるためにやっているのか.反射技も使えると考える方が妥当だな)」
ロイスは剣を水平に突き出し,拳の先から炎を放射する.エコールは炎の中にナイフを隠して飛ばし,杖の先から水を放出して炎を消す.ロイスは剣にオーラを纏わせ,一振りでナイフを全て弾き飛ばし,もう一振りして空間を裂いてエコールの上空にテレポートし,剣を取り替えて太陽の光を受けた黄金の剣を振り下ろす.エコールは上に手を伸ばして攻撃を反射する.ロイスは上に吹っ飛び,上から槍をエコールの四方に投げる.エコールは上に向けて停止の力を働かせ,真上に落ちるのを防ぐ.
「…しまった!」
槍はお互いに共鳴しあい,エコールの横から音波攻撃を仕掛ける.エコールはその1つを停止させ,転がって囲いから脱出する.ロイスが囲いの中央に落下する.
エコールは右手の杖の先に渦を起こし,前に倒れるほどの勢いをつけて突く.エコールはまた別の剣で受ける.
「(この剣は停止の力は受けんよ…)何っ?」
渦によって剣は吹き飛ばされ,ロイスの体を渦が抉り取る.
「馬鹿な…なぜ,攻めに回す…ありえない…」
ロイスは力尽きて死んだ.
「達人というのは流れが読めて攻め時と守り時が分かるんだろう?だったら人知を超えた運にすがるしかないじゃないか.いや,運だけじゃない.この重要な局面で気迫負けして勝負にも負けるようじゃ皆に申し訳ない…」
エコールは膝を着いて倒れる.裏魔法が消えて周囲の流れは正常に戻る.
血まみれの男が部屋の扉を開ける.
「やあ,良く着けたね,キョウ」
「俺を嘗めるな.死ねえ!」
キョウはハインに向けて光の矢を放つ.ハインに当たり,ハインは灰になった.キョウは電撃を受けて倒れる.
「同じ研究室で一緒に学んだのに,今は違う陣営で敵同士」
ハインはキョウの横から現れる.さっき灰になったのは偽物だ.
「俺は説得したはずだ」
「到底聞き入れられない.あのまま研究が進めば私の息子は死なずに済んだはずだった.しかしお前達のせいで助からなかった.お前たちは,魔法使いが十分な教育を受けずに世に出るのが危険だからよせと言ったが,嘘だ.本当は,あの金持ちたちの地位を守るためだ.奴らの実力はすぐに抜かれる程度のもの.そんな奴らを守るために,一般人の命を奪うなど…」
「奪っていない…」
「助けることができないようにするのは,奪ったと同じだ!」
「違う,同じじゃない」
「フン.そうでなくとも,才能ある者を沈めて,上の地位にしがみつく才能無き者たちを守るのは,国力の衰退ではないか?お前の仕事は国のためになることをするものだろう?逆じゃないか」
「物事には手順がある.そしてもう1つ,表に出る情報だけで判断すべきではない」
「詭弁を,これ以上の話は無意味だ.死ね」
ハインは杖の先から雷を出す.キョウは転がってかわし,起き上がって剣を前に突き出し,先端に魔力を集める.
「これで最後だ」
ハインも杖の先に魔力を集める.
2人はほぼ同時に相手に向けて放つ.2つの魔力がぶつかり合う.部屋は衝撃波で壊れて崩れだし,2人は破片のあられにあう.
ハインの肩に大きな破片が刺さり,放出される魔力が弱まってキョウの魔力に押しつぶされて体がバラバラになって壁に叩きつけられた.
「俺の勝ち…」
キョウは足を引きずって外に出る.
「終わりだ.これで…」
その後,仲間達を呼んでキョウ,フェルケル,エコール,ソヴェリアは大怪我ながらも,一命を取り留めた.
ハインの反乱は失敗に終わり,王国は一先ずの安寧を続ける.その後の話はまだ誰も知らない.




