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邸内の戦い2

 宮殿の中,バーク門が少し開き,黒いローブに包まれた男がよろよろと歩いて出てくる.その後門は閉まり,男は地面に倒れた.ハインは倒れた男を見つけて走り寄る.

「君,大丈夫か?」

「う…」

 男の顔はげっそりとして,唯一目だけに水気がある.

「待ってろ」

 ハインは杖を男の上に置き,地面に魔法陣を呼び出す.

「ん?回復できない,そうか魔術師じゃないのか」

 ハインは魔法陣を消して新たに描き,呪文を唱える.倒れた男に周囲の魔力が吸い込まれる.ハインは,魔法陣を書き直して回復魔法をかけた.

「ありがとうございます.助かりました」

 ハインは男を屋敷に連れて行き,食事を与える.

「良かった良かった」

「食事までいただいてしまって…ありがとうございます」

「はは…」

 ハインは笑いながらも表情は少しずつ暗くなった.

「どうしました?」

「あの子は助けられなかった.あのまま研究を続ければ助けられたのに…」

「……」

「相手を魔術師にできれば助けられる命がある.奴らが邪魔しなければ….おっと気分が落ち込むことを言ってすまない」

「いえ,お気になさらず.私を魔術師にしたのですか?」

「そうだ.鍛えれば裏魔法を使えるようになる,鍛えてみる気はないか?」

「お礼がしたいです.鍛えて力になれるのでしたら喜んで」

 

 エコールの上から岩が落下する.エコールは風を巻き起こして岩を裂き,左後ろに目をやる.

「瞬間移動できる奴がいたのか.道理で….お前をこれ以上自由にさせない」

「(あのトルロンを倒したこいつを野放しにはできない)」

 アルマはエコールの上空に瓦礫を出現させる.エコールは前に跳んで避け,自身の周囲の風圧で破片を弾く.エコールは左手を前に出して雷撃を放つ.アルマはエコールの背後にテレポートしてナイフで突く.風の鎧を貫いてエコールの背中に当たる寸前に,エコールは体を右に回して避けて左手でアルマの右腕を掴んで上に引き上げる.エコールは右手に風を纏わせて構える.

「痛いっ」

 アルマは両足が宙に浮き,ナイフを手放す.エコールが落ちるナイフに目を向けた瞬間にナイフをテレポートさせ,エコールの右腿に突き刺す.

「ぐっ…」

 アルマは暴れてエコールの足のナイフを蹴って,エコールの力が弱まった隙を見て,振り払って離れた場所へテレポートした.エコールはナイフを抜いて右の手の平を当てて一時的な回復魔術を行う.

 アルマは離れた位置からエコールを凝視する.エコールは後ろに飛び跳ねる.さっき経っていた位置にウニのような鉄球がテレポートし,地面に落ちる.

「(こいつ,自由落下に頼らずとも体内に送ることもできるのか.防御が意味を成さない)」

 アルマは右手を前に出して光の鎖を5つ放つ.エコールは舞い上がって上空にかわす.鎖の先がテレポートしてエコールの上から現れて地面に押し付ける.エコールは受身を取って地面に叩きつけられ,転がって跳ね起きる.アルマはナイフを投げつけ,エコールは突風を起こしてナイフを振り払おうとする.ナイフは消え,エコールの背中に刺さる.

「(くそ….しかし,体内に送り込むのはそれなりに手間が掛かるようだな.精密な位置を確認して当てるよりも,精度は下がるが,その注意を別に向けて戦ったほうが効率がいいということか)」

「(しぶとい….これでトルロンを倒した後?まだ十分動けるじゃない)」

 アルマは片目を閉じて閃光弾を放ち,目を開いてエコールの斜め後ろに距離を取ってテレポートし,瓦礫をエコールの上に落とす.その後,右手でエコールを指差し左手は右腕を支えて,指先に魔力をこめる.エコールは前後左右の空気を圧縮して瓦礫を吹き飛ばし,上に飛び上がる.エコールは上空からアルマ目掛けて光線を放つ.アルマは光線を少し受けた後,壁の反対側へテレポートする.

「(そう,この瓦礫の雨の中,逃げられるのはそこだ)」

 エコールは右手に魔力をため,飛び降りつつ両腕を前に突き出して衝撃波を起こして壁ごと破壊した.

 アルマは傷を負って,両腕で這い蹲って逃げる.エコールは着地してアルマを探す.煙が晴れると,アルマはエコールの影に気付いて,石を投げつける.テレポートさせてエコールに当てようとするが,あらぬ方向に飛ぶ.

「(くっ…目が霞んでよく見えない.風の鎧を破るには勢いが要るのに…)」

 エコールは風の槍を作り出す.

「待って!」

「?」

「降参するから,もうやめて」

「降参だと?」

「そう.もうこの足じゃまともに動けない.目だってほとんど見えない.もう戦いから身を引くから殺さないで」

「……」

 エコールは突然の降参に面食らっている.

「ねえ,こんなか弱い女の子を殺したらあなたの名が傷つくでしょ?ね?」

「か弱い…,これほどの力を持っていながら…なぜそんな卑下するような台詞が吐ける?」

「ごめんなさい.ごめんなさい」

「いや,理由を聞いたんだが」

「気に障るようなことを言ってごめんなさい.もう言わないから許して」

 アルマは息も絶え絶えに謝り続ける.

「(どうしたものか.今の俺は裏魔法を無力化する術は持っていない.こいつが嘘をついていたら,瞬間移動の能力を持つ者を相手に利用される.殺せば話が早いんだが,戦う意思の無い者を殺すのは気が引ける.…この戦いは俺だけの物ではない.不安要素は取り除けるなら取り除くべきだ)」

 エコールは槍を構える.

「失望したよアルマ.君はハイン様を裏切るというのか」

 ロイスが剣を持って2人の前に現れる.エコールはロイスに突きを食らわすが,剣で半円状に押しのけられ,チョップで槍を落とされた.

「まあ待ちなよ.君との戦いは後だ」

「(こいつ,どうやって現れた?)」

「アルマ,聞こえるかい?」

「ロイス…なぜあなたがここに…」

「それは後.アルマ,気が変わったのか?俺の剣を貸そうか?それとも…」

「貸して」

「大切に扱えよ」

 ロイスは異空間から剣を取り出してアルマに渡す.

「そいつは聖剣…なんだっけか.まあとにかく最期の一太刀くらいの力を与えてくれる」

 アルマは剣を握って立ち上がる.その目の闘志は先ほどとは全く違う.ロイスは後ろに下がった.

 アルマは剣を両手で持って後ろに構えて走りながら振りかぶってエコールに切りかかる.エコールは風の剣を作って受ける.アルマは力の限り押し付け,エコールの風を切り裂いてエコールの左胸から右脇にかけて切りつける.アルマは左下から振り上げようとして力尽いて倒れた.

 エコールは後退しつつ,傷口を押さえる.

「アルマ,お疲れ様」

 ロイスはアルマの死体の目を閉じて,顔の汚れを布で取った.その後,剣をそっと抜いて異空間に格納した.

「ロイスと言ったか?俺にはお前が理解できない」

「それはどうして?」

「俺を殺して彼女を助けられたはずだ.なのにどうしてお前はそれをせずに,彼女を死地に送るような真似を…」

「助けられるというのが間違いさ.ハイン様の術で,死に際でも動けるようになっていただけだ」

「何…?」

「彼女が望んだことだ.死に際で何も喋れない,何も反撃できないよりも,相手に一矢報いたいと」

「そうは見えない.そもそも彼女は戦いに向いていない」

「たかが数分戦った君と,長い間仲間だった俺とどちらが正確か,比べるべくもあるまい.彼女は上手に生きることを日々の行動規範としていた.そして非常時,自分の望む死に方を決めていた.俺は仲間として彼女の譲れない思いを通してやっただけさ」

「共感はできないが,理屈は一応は分かった.それでお前が次の相手か」

「そう.俺が第一番,ロイス・バルクタット.楽しい戦いにしようじゃないか」

 2人は距離を取り,ロイスは腰の剣に左腕を乗せて喋り出す.

「君は努力を知らなさそうだ.何でもできるからあえて面倒なことをして楽しもうとする,じゃなきゃ周りは着いていけない」

「そう見えているなら俺は間違っていなかったんだろう」

「どういうことだ?」

 ロイスは残念そうな顔で訊く.

「それが俺の責任を果たすことになるからだ」

「責任ねえ…肩透かしくらった気分だ」

「導く者は弱みを見せてはいけない,そして,俺でも努力すれば同じようになれるなどと思わせてはならない.頂点には常に1人しかいないように思わせなければならないのだ」

「つまり君は努力家だと?本当に?本当に?…残念だよ」

「どうやら俺は,お前に共感できる人間ではないらしい」

 エコールは右手にナイフを逆手で持って構え,周囲に竜巻を起こして巻き上げる.ロイスは鞭を伸ばして竜巻を吸い寄せて自身の後ろに飛ばす.竜巻は壁にぶつかって消える.

「君が俺の想定外だったとして,君が実力者であることに違いはない.君を侮蔑する気はないということを言っておく」

「どうでもいいことだ」

 エコールは突風を起こしてロイスに向けて飛ばす.抉れた床や天井の破片を巻き込みつつ,ロイスの全身へ襲い掛かる.ロイスは槍を出して正面を突く.槍から発生した衝撃波で風の向きは変わり,破片は横に飛ぶ.エコールは腕を前で交差させて目を防ぎつつ,バリアを張る.衝撃波に吹き飛ばされ,城の外へ吹っ飛び,砂漠の上に落下して砂煙が上がる.

 ロイスに向けて無数の火球が飛ぶ.ロイスは両腕をクロスさせて前を防ぎつつ,風弾を放って後ろに飛ぶ.宙で一回転して剣を右手で持ちつつ,右下後ろに向けて構える.

「何の真似だ?戦いが終わるまで寝ていれば死なずに済んだものを」

「これは俺たちの戦いだ.最後まで死力と尽くして戦う」

 フェルケルはエコールの前に飛び降りて,右手で剣の柄を持ち,左手を剣の背に軽く当てつつ構える.

「お前は経験不足だ,たとえ技が強かろうが弱かろうが関係ない.戦っても面白くない」

「エコール,今の内に立て直しを…」

 フェルケルはロイスに向かって走り出す.ロイスは剣を仕舞って別の剣を呼び出す.右手で柄の根元を持ち,前に強く踏み込んで左から右に振る.フェルケルは後ろに下がってかわし,ロイスの右脇に切りかかる.ロイスは右肘を手前に引いて腕を捻って剣で受ける.フェルケルは左足を前に出しつつ,力をこめて押し,ロイスは左手も使って柄を握り,押し返す.ロイスは一瞬横向きの力を抜き,右手を離してフェルケルを下から上へ切り裂き,蹴り飛ばした.フェルケルは真っ二つになって倒れる.

「やはり初心者だ.こっちが力を抜くと,バランスを保とうと反射的に後ろへ硬直する.いいカモだ」

 フェルケルの死体は炎に包まれて消える.

「(…そして,分身だろうとこの剣で切られると本体も切られる.分身の精度で威力が上下するから,運がよければ生きているかもな)」

 階段下に潜んでいたフェルケルは胸が裂けて血を流して倒れる.服に巻いたベルトが動き出して傷口を塞ぐ.塞いでもなお血が流れ続ける.

 エコールは螺旋状に風を起こして,その中心に石を投げ入れる.石は削られつつ鋭い弾丸となってロイスに向かう.ロイスは剣を振って弾丸を弾く.弾丸は屋敷の石垣を抉り取って止まる.

 ロイスは剣を下から上に振る.放たれたオーラはエコールに向かって飛び,衝突して砂煙を上げる.

「なんだ,まだ生きていたのか君」

 ソヴェリアはエコールの前に立って杖を前に突き出して攻撃を防ぐ.

「来い,最後の戦いだ」

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