城内での戦い3
『
作戦会議.
「この町で食事したか?味付けが濃い.塩が多い,そのままでは食べられないので砂糖を大量にぶち込む.デザートかこれは?いや,残念,肉料理だ.甘くて気持ち悪い.多分保存技術がない時代の名残であろう.調べてないから分からないけど.素材への冒涜であるから,何とかフェア限定でその味付けの料理にして欲しい」
「今はそんな話をしている場合じゃない」
エコールの突然の発言をフリックスが遮る.
「なるほど,そういうことか」
「えっ?」
ハックがテレパシーでも受信したのかとフリックスは声が漏れる.エコール,ハック,ソヴェリア以外は理解できずに,無言で次の言葉を待つ.
「そんな苦しまずとも新技術でどうとでもなる.アンテナを設置する必要のない通信を可能にする術が開発された.まだ改良の余地があるが,十分な性能だ」
「つまり,通信用のアンテナを用意して,さらに守る必要もない.人員はそれらに割く必要はないということか」
キョウは作戦と照らし合わせてエコールに確認を取る.
「そういうことだ」
「第一陣が突入して相手と戦い始めたら,第二陣が敵の背後を突くように奇襲を賭けるのがいいと思う.さすがに11人全員で固まるのは得策ではない.6と5が適度な人数かと」
「全員を攻撃に回せるわけだから,ソヴェリアの作戦はいいな.これを中心に細かいところを調整しよう」
』
「(なんて言っていたが,ジャミングされて通信できない.通信が駄目だった場合の作戦があるとはいえ,利点を潰された戦いを強いられるのはイラつくな)」
キョウは反応しないネックレスを人差し指で弾く.
「(考えても仕方ない.通信ができない場合はお互いが離れすぎないようにすること.8人が離れて固まっているなら敵の目はそっちを重視する.その隙にハインを殺して戦いは終わりだ)」
3人が部屋に入る.奥に開いた扉が見え,ロイスが横の壁にもたれている.
「キョウ,ここは私達に任せて先に行ってください」
「それはいい,3人相手に戦うのはちときついからな.楽しむ間もなく瞬殺しなければならないのは嫌なんだ」
「ホラ,奴はそうはさせまいと足止めさせようとしている.先に行ってください」
「……」
ロイスは右手を動かす.シャムとゾマは剣を構える.ロイスはそのまま人差し指を立てて奥の扉を指差す.
「ハイン様ならこの先の部屋だ.お前は通してやるからそこの2人は俺と戦え」
キョウは2人を見て,2人は無言で頷く.
「頼んだぞ」
キョウは扉を開けて奥の廊下へ進んでいった.ロイスはそれを横目で見て扉を閉めるて鍵を掛ける.
シャムとゾマはロイスを囲むように歩く.
「これで邪魔者は居ない.さあ楽しもうじゃないか」
シャムとゾマは電撃を放つ.ロイスは左手の指先に魔力を集めて振り払う.電撃はロイスに届く前に曲がって四方に飛ぶ.
「嘗めているのか?裏魔法も無しに….…ああ,ハイン様が控えているから温存するつもりか」
「お前に裏魔法を使うまでもない.あっさり通すということはあの奥にまだ上位ナンバーが控えているんだろう?」
「俺が第1番だと言ったらどうする?いつまでも出し惜しみしているようだったらあっさり死ぬぜ」
「シャム…」
「待て,騙っている可能性もある,それに何よりまだ…」
ロイスは右手で鞘から剣を抜く.左手を広げてその先から吹雪を起こす.ロイスは剣を上に振って,飛び上がって背後に回ろうとしたシャムを切りつけ,右足を軸にして回転して横に跳ねたゾマに回し蹴りを食らわす.直後に両手を伸ばして人差し指を起こして空気砲を放ち,シャムとゾマの鳩尾に食らわせる.2人は後ろに吹っ飛び,悶え苦しむ.
「(これで当たるなら吹っ飛ばさなくて良かったか)」
ロイスは右腕を突き出してシャムに剣を向ける.左手を右手の下を支える,剣の先から波動を放って剣を勢い良く上に跳ね上げて衝撃を逃がす.
「裏征」
シャムは裏魔法の封印を解く.溢れた魔力がビームを弱める.波動を受けた地面は抉れる.
シャムはゾマにアイコンタクトを送る.ゾマはロイスの背後から左手を突き出してその先から無数の糸を呼び出す.ロイスは右踵にオーラを纏って後ろへ蹴る.床が捲れてゾマに襲い掛かる.
「(いい殺気だ,心地いいぜ.しかしそれでは居場所がバレバレだ)」
ロイスは前に踏み出してシャムに切りかかる.シャムは力をこめて剣を振る.ロイスとシャムの剣がぶつかり,ロイスは左手を剣の裏に回してシャムの剣を受けきる.
「(パワーとスピードが増している.能力を引き上げる裏魔法か.面白みのない…)」
ロイスは剣を受け流しつつ距離を取り,氷弾を飛ばしてシャムに突き刺す.シャムは攻撃を受けるほどにパワーとスピードが増していく.
「(いや,ダメージを受けて強くなるのか.…だったら,閾値ギリギリまで痛めつければ最強状態で戦えるということじゃないか!)」
ゾマが接近し後ろからロイスの足元に突きを仕掛ける.ロイスは左腕を後ろに回してゾマの首を打ちつつ,重心を傾けて足を横に戻して突きをかわして,右肘でゾマの胸を打ち,その勢いに乗せてシャムの左肩を着き,素早く引いてシャムの剣をかわしつつ下向きのゾマの剣を自身の剣で抑えて左手を上に向けて念力でゾマを少し浮かべ,左手でゾマを掴んで横投げでシャムに向けて放り投げる.シャムは剣を後ろに向けてゾマは膝を曲げてゾマを受け取る.
「(こいつ…この斬り合いの中,まだこんなに行動に幅を持たせられるのか…)ゾマ,作戦変更だ,前倒しで」
「裏征」
ゾマは裏魔法の封印を解き,ロイスを凝視する.ゾマが目を閉じるとロイスの胴体は捩れて千切れた.…ように見えたが,ロイスの前にある水の壁が圧縮されて歪んで見えただけだった.
「(外したか.やはりある程度追い詰めないと当たらない)」
ロイスは閃光弾を頭上に打ち上げる.シャムとゾマは目が眩み,腕で目の前を覆う.ロイスはゾマに接近して突きを食らわす.シャムはゾマを庇って腕に剣がグッサリと刺さる.ロイスは指先で剣を弾いて素早く腕を後ろに振り,シャムの剣をかわして後退する.
「(手足や目を切りつけて動きを制約するのが定石だが,こいつは裏魔法の力で瞬時に傷が塞がる.慣れた戦い方では上手く行かないな.こっちは目で照準を合わせた場所に重力を発生させる力のようだ.かわしても引っ張られる.発動には目を閉じる必要があるため,目を閉じたまま使えない.目くらましで封殺するのが常道か,しかしそればかりでは面白くない)」
ロイスは歩きつつ火球をシャム目掛けて放つ.ロイスは歩を止めて目の前の重力場に囚われないように避ける.
「(陽炎でズレたか…)」
シャムはロイスの剣を抜いて地面に突き刺し,左手で柄の先を持つ.ロイスは手の先から電撃を放つ.シャムとゾマは左右に散って電撃をかわす.電撃の先がロイスの剣の柄に落ち,剣は引き寄せられるようにロイスの手に戻った.
「(そろそろ飽きたな…しかし)楽しませて貰った礼だ,俺の裏魔法を見せてやる.…裏征」
ロイスは剣を逆さにして自身の前に突き出して裏魔法の封印を解く.手がピクッと広げるように動いた瞬間に剣が光を放って消滅する.
ゾマはロイスの胴体に重力場を発生させる.ロイスは空間を裂いて剣を引き抜いて振る.重力場はロイスの横にずれて消滅した.ロイスはもう一度剣を振ると,ロイスとゾマの間にあった空間が谷間となって見えなくなり,空間を裂いて呼び出したもう1つの剣でゾマを切りつける.谷間はゴムのようにすぐに元に戻る.ゾマは体が真っ二つに切り裂かれて死んだ.
「何が…」
ロイスは空間を裂いて2本の剣を元の場所へ戻して,ボウガンを呼び出す.ボウガンで狙いを定めてシャムに当てる.シャムは胸に受けて後ろに倒れ,矢を抜いて起き上がる.
「クク,死にはしないさ.そいつは瀕死にする魔法の矢だ.本来は不死身の敵を殺すための下準備に使うもの.俺の考えが間違っていなければお前の力はこれで全力になったはずだ.気をつけろよ,次の一撃でお前は死ぬ」
ロイスはボウガンを仕舞ってまた違う剣を呼び出す.
「最後の戦いと行こう」
シャムは強く踏み込んでロイスに飛びかかって切りつける.ロイスは左手を刃の裏に襲えて構える.剣で受けた後,少し引き,相手の剣を吸い込むようにして右手を下げ,左手を引き上げて剣を傾ける.シャムは刃の上を滑る剣を力ずくで引き戻す.ロイスは右下に向けて剣をスライドさせて切りかかる.シャムは剣を前に押し出してロイスの剣を受ける.2人は剣を押えつけたまま,足を動かして相手よりも上に立てるように前後左右に動き回る.ロイスは一瞬力を抜いたように動いてカウンターを狙うが,スピードの上がったシャムは見てから剣を引き戻すことが可能であるため,有効打にならない.ロイスは足元の石をシャムの踵の着地地点目掛けて蹴り,シャムは一瞬バランスを崩し,勢い良く剣を振ってロイスを弾き飛ばす.シャムはロイスの左を横切り,右足を軸にして回転しながら左後ろから切りかかる.ロイスは左回転して剣の切っ先でシャムの剣を横に流し,右腕を回して首狙いで切りつける.シャムは剣を縦にして鍔で剣を止めるが,貫手で右胸を貫かれて息絶えた.
ロイスは手を抜いて振った後,剣を仕舞って布で汚れをぬぐい取る.空を右手で掴む.周囲から魔力が集まって剣が現れ,その剣を鞘に収めた.
「俺の裏魔法は2つの性質を持つ.自分の武器庫から武器を呼び出す能力.そして,全ての武器を何のリスクも無く達人級で操る能力.魔剣だろうが妖刀だろうが,何のデメリットも発生しない.いや,デメリットといえば,ビギナーズラックに弱いことと武器は殺し以外に使えないことかな.俺はただの災害とどう違うんだろうね」
ライナは敵の気配を感じて立ち止まる.
「君か,シオンを倒したのは?」
「そうだけど,あんた誰?」
「十坐第5番,プブリウス・スキエトレーメ.通称はプブリー.話が通じる相手だよ,そう震えてないでお話しよう」
「そう,あなた5番なのね.中途半端な番号」
「ふむ,君は僕を軽んじるのかい?」
「そう聞こえなかった?」
「挑発のつもりかい?それとも本気でそう思っているなどと憐れなことを言うんじゃあるまい?」
「どういう意味?」
「僕が5番に居るのは僕が5番を選んだからさ.ハイン君もそれに同意した.君は僕がどうして5番を選んだのか分かるかい?」
「さあ?美しい形だから?」
「美しい形か,それなら0か8が好きだな.…僕が5番を選んだ理由,それは僕の裏魔法が最強だからだ.戦闘力にも汎用性にも優れている.だから大体真ん中の5番を選んだわけさ」
「だったら,使われる前に倒すまでね,暢気なおじさん!裏征!」
ライナは右手を伸ばし,手の平から光線を出す.プブリーには光線が当たらずすり抜ける.
「何?」
「怖いか?今ので倒せなかったから君は自身の未来はないと感じたんだ」
「うるさい」
「僕の能力はルール空間の創造.このオーラの範囲内であれば,強制的に僕の作ったルールに従わせることができる.発動に関しては敵に教える必要はない.ただし,ルールの説明をしなければ次の魔法の発動および攻撃ができない」
「この空間に居る者の前後の感覚を逆にした.視覚聴覚嗅覚が逆になる」
ライナの背後を剣で切られる.
「浅かったか…」
景色が変わり,ライナは前によろける.
「見えない以上,浅い攻撃しかできないようね」
「解除したよ.フフ…」
「(触覚は変えられないはず.そして相手が対応できない速さの近接戦が有利!)」
ライナは剣を構えて勢いよく切りかかる.が,体の周囲にゴムで抑えつけられたように動きが重くなる.
「この空間で早く動こうというものは遅くなり,遅く動こうというものは早くなる」
プブリーの剣がライナの右腰から左肩の上まで素早く切りつけ,ライナから血が噴出す.
「解除したよ,フフ…近接戦を仕掛けるかも,と思ったけど本当に実行するとは…」
ライナは後ろに倒れる.
「終わりだ.ハイン君の夢を邪魔はさせない」
プブリーは剣先からビームを出し,ライナに浴びせかける.ライナは歯を噛み締めつつ背中を曲げて痛みを紛らわそうとするが,耐えられずに声が漏れる.ライナの傷口は大きく開く.
「この空間では失血死および気絶はしなくなった.ただし,ダメージがあれば痛みはそのままだし,満足に体を動かすことはできない」
「さらに追加.この空間で光魔法を使えばその身が燃え上がる.フフ…君の裏魔法は完全に封じた.その傷では表魔法を使うことはできない.裏魔法も封じれば怖くない」
「取引をしよう」
プブリーは剣の刃のついていない側でライナの頬を押して,正面を向かせる.
「君が僕の聞きたいことを教えてくれるなら,助けてあげるよ.僕のルール空間の中で,君が死ぬのを止めて,その間に回復させよう」
「……」
ライナは痛みに顔を歪め,汗で何本かの髪が顔に付いている.
「君たちの仲間について聞きたいことがある.知っている奴だけでいい.裏魔法を教えろ」
「……」
「(フェルケルの情報には不備があるように思える)」
「手を貸して….この姿勢だと喋り辛い…」
プブリーはライナに手を差し伸べる.ライナはプブリーの手を強く握り,光魔法を唱える.
ライナの体は燃え上がり,プブリーは後ろに引くも,手が離れない.左手を使って逆手で剣を抜き,ライナの手を切り落とし,腕を勢い良く振ってライナの手を投げ落とす.手は炎に包まれて消えた.
「あなたに教えることは何もない.私の意志はあなたに屈しはしない」
ライナは炎に包まれて跡形も無く消えた.プブリーは左手で右手の火傷跡を撫でる.
「死にさえしなければなんだってできたのに…,死んでしまえば何もかもが終わりなのに…,それでも自ら死を選ぶというのか…」
プブリーはライナの燃えカスを見て目を背ける.
「帰る場所がないから死ねるという自暴自棄なんかじゃない.帰るべき場所はあったはずだ.それでもなお…」
プブリーは剣を仕舞う.
「ライナ・セオリム,君に敬意を表する.この右手の傷は君の強い意志の証だ」




