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戦いの前

 魔術師たちは取り憑かれたようにある場所を目指して眠った意識で進む.

 魔術師たちは我に返って周囲を見渡す.

「ここは…」

 彼らが立っているのは草原の真っ只中.獣の通った跡がある.

「ようこそ強き7人の戦士達よ」

 岩影から若い男が姿を現し,浮かび上がって岩の上に立つ.

「お前が俺たちを呼んだのか?」

「そうです.ご無礼をお許し下さい.力を貸していただくために」

「なるほど,確かに強そうな奴ばかりだ.お前以外は」

 剣を腰にかけた黒髪の青年は岩の上に立つ茶髪の青年を見て挑発する.

「私は伝令ですので」

「よく言うぜ,その岩に隠した剣はなんだ?」

 黒髪の青年は影を指差す.

「隠しているわけではありません.おいてあるだけです.それに伝令が武器を持たないわけがないでしょう?」

「ほう,確かに.自分の足よりも下に剣を置くなんて剣士じゃない」

「…そうか.そんなに戦いたいというのなら相手になってやる」

 茶髪の青年は下に下りて念力で剣を引き寄せる.左手で剣の鞘を掴み,右手で柄に手をかける.

「やめないか2人とも,戦う意味はない」

 小太りの中年の男が止めようとする.

「あなたは確か…テオノルンさんでしたか?邪魔しないで下さい.訳のわからない術で操られて,力を貸せなどと…」

「申し訳ないと思っている.しかし時間がないから手段を選んでいる暇はなかった」

「なあに,そう難しく考えるな.ちょっと試すだけ.弱い奴だったら,そんな力を持っていても危ないから取り上げる.弱かったら恨みを晴らしておく」

「フリックス,強さを見て分からないのか?」

「エコール,お前は分かるとでも?」

 布を巻いた棒状のものを背負った2人組の男女の内,男の方が黒髪の男に尋ねる.黒髪の男は暗に分からないと答えつつ問いを返す.

「…弱い.…まあ,強さだけが全てじゃないから」

 エコールは目を背けながらボソッと答える.

「好きにやったらいい.危険なら止める」

「と,ソヴェリアは言っている.問題ない」

 男女の2人組の内,女の方は気にしないという様子で淡々と声明を出す.他の者も同意する.

「フン…」

「さて,真剣で戦うことに異論はないか?」

「問題ない.魔法も使用可能でいいな?」

「上等だ」

「そうだ,名乗ってなかったな.俺の名はフェルケル・ダウン」

 茶髪の青年は名前を名乗る.

「えっ,ああ,俺はフリックス・ローディスだ.よろしく子豚フェルケルくん」

「行くぞ!裏征リ・フラット!」

「!?」

 フェルケルは剣を鞘から抜いて,裏魔法の封印を解く.魔法は二種類.魔術師が勉強して練習すれば使える表魔法と,一人ずつ発現するものが違う裏魔法.魔法と言うと,通常は表魔法のことを指す.裏魔法とひっくるめて魔法と言うことも一応ある.前後の会話からどちらの意味か理解しないと困る.裏征は,裏魔法の封印を解く合図である.

「いや,そこまでする気はない」

 フェルケルの周囲の草むらは爆発的に上がった魔力の放出による圧力で押されて倒れる.

「待て!」

 大声と共に2人の間に岩の壁が地面から突き出し,2人は後ろに下がる.

 3人の男が割って入った.

「お前は…」

「私を知っている人もいるでしょう.私は第五執政室の室長キョウ・オーベルデーバル.妙な術を使って申し訳ない.どうか協力して欲しい」

 キョウは鞘を左手で掴み,親指で剣の鍔を押し上げて紋章を見せる.

「国家のお偉いさんか.戦って試す必要はなくなった」

「…いや,どうもフェルケルは正規ルートの採用に見えない,が,後にしよう」

 エコールは疑問はあったがそれ以上に重要に感じたことを優先した.

「彼はこの国に来て間もないので常識が違うのです.さ,皆さん,こっちへ.場所を変えましょう」

 全員は洞穴の隠れ家に入る.

「全員分の椅子がないので立ったまま話しましょう」

 キョウは円状の机の前に立って誘導する.

「時間が惜しい.これから敬語は無しだ.まず第五執政室について説明する.我々は内乱を防ぎ,起きた場合は速やかに被害を抑えつつ解決するための組織.今回,君らを呼んだのは,内乱に対抗するためだ.では次に,なぜ自前の人員ではないのか,だが,相手に催眠術が使える奴がいる.催眠術に掛かった者は叩けば正気に戻るが,とりあえずで全員にやってたら全員病院のベッドの上で寝て本部機能が麻痺するため,それはできない.催眠術は,敵に情報を送るように誘導するもので,性質の悪いことに記憶に残らない.ただし,継続的に指示を与えることはしないため,一度解けば終わる.とにかく,催眠術に掛かっていない君たちが必要だった」

「仕事を引き受けるとは限らない」

「内容を聞いてから決めてくれ.そして我々の情報網は反乱を起こす計画をキャッチした.反乱軍の頭領はハイン・プリシュリリック」

 キョウはHein=Prissurylicと書かれた似顔絵を机の上に出す.

「彼は10人の腹心とさらに多くの手下を使って国家転覆を狙っている.10人の組織は十坐トーザと言う」

「反乱?なぜ?」

「そのためにはまず彼の説明からしよう.ハインは研究者で,昔はここ中央で魔術の効率的な体系化の研究をしていた.そして,あることを発見する.それは,ほぼ全ての人間を魔術師にする方法だ.魔術師とは,生まれもっての才能によって決まる.その常識を覆す発見だ.彼はその成果を発表しようとした.しかし,政府は政治的判断からそれを閲覧禁止にした.というのも,全員が魔術を使用可能になることはあまりに危険だからだ.魔術師は十分な教育を受けてから社会に出る.全員に魔術師として一人前にできる教育を施せるほどわが国は力がない.物事には順序があるんだ.しかし彼は,それに反対した.支配者達が自らの地位を脅かされるのを恐れているからだ,全員が使えれば救える命はあるのにそれを阻んでいると.その後,彼はこっそりと魔術師を作ろうとして見つかり,追放された.貢献度も大きく,研究設備のない彼なら追放程度で問題ないだろうという判断だった.…(今となっては殺しておくべきだったと言わざるを得ない)….彼はここから西にある砂漠の中,地下水と雨水が豊富で森に囲まれた町スナビエにいる.あそこは戦略的要衝であり,あの町の独立派によって匿われている.色々あって政治的にハインの引渡しが要求できない.はっきりとしたことは分からないが,彼はきっと2つの理由で国家転覆を狙う.1つは自分を追放した復讐,そしてもう1つは利権絡みの権力者たちを倒せば自分の研究の障壁がなくなると考えてことだ」

「なるほど.だが分からないことがある.誰でも魔術師になれることが本当に危険なのか?取り越し苦労ではないか?」

「間違いなくこの国は解体され,群雄割拠の時代になる.その予兆はある」

「君らが対内乱の仕事ばかりしているからそう見えるだけで,全体から見ればそうはならないかもしれない」

「そうかもしれない.だが,ハインが反乱を起こす予定があるのは事実だ.仕事を請けるかどうかの決定には関係ないのでは?」

「そうだな.気になるのは報酬.さっきから説明はないが,命を落とすかもしれない仕事だろう?相応のものでなければ引き受けられない」

「説明はするつもりだった.ただ,話を理解する上で必要な知識を先に述べていただけ.報酬はこれだ.万が一死んでも遺族に渡す」

 キョウは上着から何か書かれた紙を出す.

「なるほど,国が残っていれば価値があるな」

「…….まだ足りないか?」

「いや,くれぐれもそのことを忘れないようにという念押しさ」

「引き受ける人はサインをしてくれ」

 キョウは複数の紙を机の上に出す.

「俺はやるぜ.戦乱の世になったら俺の家族は生き残れない,真っ先に切り捨てられるだろうからな」

「理由はわざわざ言わなくてもいい」

「おっと失礼」

 フリックスは知らない女性に注意されて黙る.

 全員が書き込んだ.

「読みがあっているか分からない.順に名前を言ってくれ」

「オリオン・ガラシア」

「フリックス・ローディス」

「エコール・レットシルト」

「ソヴェリア・クィレンティール」

「フリード・アルデリント」

「ハック・テオノルン」

「ライナ・セオリム」

「そしてフェルケル・ダウンの8人」

「後は我々3人,キョウ・オーベルデーベル」

「シャム・ミーシュ」

「ゾマ・ヤマサン」

「チーム名は…?」

「8人と3人だから八三パゾでどう?」

「まあ,そんなんでいいだろう.よろしく頼む」


 砂漠の中,砂を被った林を抜け,苔に覆われた森を抜けると町が姿を現す.町の中央を川が縦断している.川に沿って上流に進むと,周囲を緑に囲まれた地下水が湧き出る泉に出る.町を流れる川とは逆方向に水路が伸びており,水路を辿ると砂漠の中を岩の壁に囲まれた作られた通路があり,その奥に蔓植物で覆われた屋敷がある.この辺りは以外と湿度の高い地域である.

 屋敷の日陰でハンモックに座って夕涼みする中年の男が居る.若い男が部屋から出てきて中年の男に話かける

「ハイン様,少しよろしいでしょうか?」

「ん?シオンか,どうした?」

「第五執政室が動き出した可能性があります.訓練中に失踪した者が先ほど戻ってきたのですが,様子が変です.奴らが情報を抜き出した可能性があります」

「様子が変,というと?」

「記憶の欠落が見られます.おそらく,奴らの記憶消去の弊害でしょう」

「日常生活に異常をきたすのか?」

「いえ,今のところその様子はありません.ただのストレスから来る記憶障害である可能性もありますが,念のために」

「…….念のために防御を固めるか.さっきから妙な気配が王都の方からする.お前は何も感じないか?」

「私はいつもと変わりのない雰囲気しか感じません.そう,いつもと同じ遠い遠い都ということしか.…そういえば,トルロンも同じことを言っていました」

「ほう,ロイスはどうだ?」

「今日は会ってないので分かりません.彼はアイカと共に町でスカウトしていますので」

 門が開いて男と女が屋敷に入る.

「これはハイン様.ロイス・バルクタット,アイカ・ウィンドロッツ,ただいま戻りました」

「戻りました」

「ロイス,ちょうどいいところに」

「私に?何でしょう?」

「王都の方から妙な雰囲気を感じないか?」

「確信はありません.しかし何かが飛び出す予感はあります.とはいえ私は護衛が専門なので,専門外である先ほどの発言に責任は持てません」

「そうか.…….十坐を臨時召集する.全ての業務は後回しだ」

「では先に会議室で待ってますね,疲れたので始まるまで少し寝てます」

「ああ,そうしてくれ,お疲れアイカ」

 アイカは屋敷の中へ入っていく.

「では後ほど」

 ロイスも屋敷の中へ入った.


 会議室前の廊下4人が2列で歩いている.

「会議か,また何か晒し者にされるようなことしたのかエフィア?」

「えっ,私?違うね,トルロンだろ?」

「ん?俺がどうしたって?」

「このイケメンがね,あんたが何か問題起こして会議になったんじゃないのって」

「ほう?」

「俺は言ってない.エフィアがそう言った」

「嘘嘘,イザクが言った〜」

「そうか,じゃあエフィアが言ったな」

「ちぇ,バレたか」

「元気そうだなお前ら」

「いや…空元気だ,疲れてるから変なこと口走りそうになったら遮ってくれドレイク」

「嫌だ面倒臭い」

 4人は会議室に着いてドアを開ける.

 アイカは机に突っ伏して寝ている.その横で女性が口の前に人差し指を出して「しー」と音を出す.

「アイカは疲れているから始まるまで寝かせてあげて」

「ん.…今更だけどさ,アルマとアイカって名前似ているんだよな.間違えそう」

 ドレイクは座りながら小声で話かける.

「ファーストネームで区切らず,フルネームと番号ならどう?第八番アルマ・ヘリックスと」

 アルマは手で自分の胸を指して小声で応える.

「第十番アイカ・ウィンドロッツ」

 アルマは眠っている女性を手で指して囁く.

 ドアが開いて一人の男が部屋に入る.

「ん?」

「プブリー,起こさないであげてね」

「フフフ…,なんだか微笑ましいな」

 プブリーは席に着いて後ろに持たれて首を少しかしげてドアをぼーっと眺める.ドアが開いてハインとシオンが部屋に入り,辺りを見渡す.

「ロイスとシルクスはまだか」

「ロイスはシルクスを呼びに行きましたよ.すぐ来るでしょう.あ,来た」

 アルマはそう答えアイカを起こす.ハインとシオンは後ろを振り返る.ロイスとシルクスが小走りで部屋に着く.

「遅くなってすみません.シャワーを浴びていて呼び出しに気付きませんでした」

「いや,構わない.臨時ベルを鳴らした訳じゃないから気付かないのも無理はない.砂は落とせたか?」

「はい,髪を乾かしている間に,呼び出しがあったことをロイスに教えて貰ったわけですから」

「そうか,ならいい」

 ロイスとシルクスは席に座る.シオンが席に着き,ハインも席に座った.

「さて十坐諸君,我々の計画が漏れた可能性がある.しかし完全ではない.まずは防御を固めて敵のこれ以上の干渉から守る.その間に情報を得て次の行動に移る.よって,これから平時の仕事は一時中断.防御の準備と英気を養うことに回す.速やかに中断できない者はいるか?」

「ハイン君,私は明後日評議会議員との交渉がある.準備を手伝えそうにない」

「分かったプブリー,そっちを優先してくれ」

「了解した」

「ハイン様,邸内の訓練中の者たちはどうします?半端者が居ても危ないので,一部を残して外に出しておくべきだと思いますが…」

「そうだな.それがいい,人選は君に任せるよシオン」

「了解」

「他には?」

 十坐はざわざわと喋りだし,少しずつ静かになる.

「ありません」

「よし,防御への準備だが具体的には…」

「ハイン様,そんな正直な手を相手が使うとは限りませんよ.こうすべきです.…….この方がいい」

「確かに.シルクスの言う通りだ」

「考えられる相手のパターンはそれだけではありません.続けましょう」

 会議を終え,彼らは一休みした後に準備に掛かる.次の日,屋敷は城になった.


 3日後,八三はスナビエに到着して休養し,4日後にはハインの城の前に到着した.城の正面から左側に居る.

「作戦に変更はない.まずは第一陣が突入,場を引っ掻き回して気を取られたところを第二陣が後ろから突く.気付かれないのは無理だから奇襲で攻める」

「先鋒は任せろ」

「ああ,オリオン任せた」

「裏征」

 オリオンは拳を握って右手の甲の紋章を天に掲げ,裏魔法の封印を解く.自身に移動強化の魔法をかけて地面を強く蹴りながら進んでいった.その様子は地面を突くミシン針の様だ.壁を破壊して中へ飛び込む.地面を勢い良く蹴り付ける音,頭突きの音,ガラスや陶器が割れる音が聞こえる.

「うわぁ…」

 エコールは声を漏らす.

「よし,私達も」

 ライナが先頭を切って走り出した.ライナ,フェルケル,エコール.ソヴェリア,フリックスが続いて城に突入した.キョウは残りのメンバーが控えている横の建物に戻る.

「様子はどうだ?」

 シャムとゾマは双眼鏡の先に黒い毛糸の網を着けて除いている.ガラスの反射に気付かれにくくするためだ.

「妙だな.全く様子が変わらない.まるで幻のようだ」

「外からは見えないように細工されている可能性が高い」

「仕方ない.我々も侵入して直接確かめよう.気配を消して進入する」

「了解」

「正面突破は止めて壁に隠れながら進む.チャンスがあれば外に出て攻撃だ」

 キョウ,シャム,ゾマ,フリード,ハックは壁の穴から中へ侵入する.

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