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人生謳歌 〜紡げ、異世界譚〜  作者: 祠乃@吸血好きの少女
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「はあっ!」


1人、暗闇の中で剣を振っていた。

蒼い剣閃は揺れ、夜を切り裂き、舞う。


「ふん、まだまだだな。我を振るうのはまだ早いかもしれぬな」


あぁ、ミストは今、演技中か。


「っ、これでも。まだなのか」

「あぁ、大きく剣がブレている。持つ手に力が入り過ぎだ。一度、両手で振ってみると良い」

「分かったよ。……、っ、はっ!」


軽く持つように、ソフトに…。

言われたとおりに振ってみた。数回、振ってみてなんとなく分かった。凄いな、今までは剣筋には少し乱れが感じたが、今は少しずつ良くなってきてる気がする。


「それにしても凄いな、この剣。SF作品に出てくるんじゃないかって思うほど、暗闇を良く切り裂く」

「ふふ、凄いだろう。だが、能力など何も無いからな?」

「分かってるよ。それより、その喋り方、ちょっと苦手だな」

「う…」

「ま、いいや。俺は寝るよ、明日に備えてねる」


秋はそう言い、楸が簡易に作ったテントに入った。

少しだけ冷たい空気が入ってくるが、中には布団があった。流石、俺の嫁………、なんちて。


「むぅ…」

「スースー」


◇ ◇ ◇


「秋さん、私、寒いです」

「ぐー…すぅー」

「寝たんですか、分かりました。それなら、こちらにも考えがあります」


ふふふ、と両手を広げた。そして、


「秋さん…、ぎゅううぅぅぅ」


と、布団を被っている、私の主に抱きついた。

一瞬、びくっと身体が震えたが、目を覚ました気配がない。なんとなく、罪悪感を覚えた。

しかし、言葉に表すと、一人にしたのが悪いんですよという感じで、その罪悪感すら、かき消した。


「ふふふ、秋さん暖かいです。流石、人の体ですね」


話しかけてみたが、返事はない。

…これは、意地でも起こしたくなりますね。

剣が、我が主に対して持つ感情ではない。だが、どうしても…

──思考がそうせざるを得ないとばかりに、身体が動く。

起きて…と。


「う〜ん、なんだ、朝か?」


起きました、私の勝ちですね。


「何に勝ったのか、検討も付かないが。どうしたんだ、ミスト」

「なっ!?私の心を読まないでください」

「で、なんだ、俺を起こして。まだ、朝じゃないぞ」

「いやぁ、なんとなくです。深い意味はないですね」


「寝る」

「はい、おやすみなさい」


◇ ◇ ◇


『………凍結解除。物理拘束解除、魔力拘束解除……』


そのボタンを一つ押すと、一つの少女に枷られていた様々な拘束の類が一瞬で解かれていく。

そして、そのボタンを押した本人も、何か凄いものを見た、という感動で打ち震えていた。


『凍結時による消失した魔力回路修復、最新の状態へとロード………………完了』


『カウント10秒で目覚めます。………………4、3、2、1。』


シュゥゥゥゥと冷気と共に凍結解除時に発生した水蒸気を放出した。

研究員はもろにその煙を浴びたが、そんなこと気にせず立っていた。いや、酔っていて、それを浴びせられた事にも気づかなかったのか。

怪物とはいえ、一人の少女を永き眠りより封印を解いたのだから。

そして、今の時点で体の動かないそれを好き勝手に出来るのだから。

研究員、若村わかむらはじめはそう考え、扉が開くのを待っていた。


ガチャ


その、金属音が内側から響き、扉が開いた。男が中のものを見た瞬間に己の内側で何かが弾けた。それは、多分、理性だろう、と研究員は後に独りごちる。

それほど魅力的なのだ。思わず、ベルトに手を掛け、カチャカチャとベルトを外し、ズボンを脱いでしまうほど………………。それほど、魅力なのだ。


「い…や…」


少女は目の前の男の行動に思わず、一年ぶりに出す、声を未だ慣れぬ不完全な発声器官を使い、拒否した。

男にはそんな最後の抵抗も耳に入らず……。


襲い掛かってきた。


「はははッ!!お前如き、女子おなごが身構えたって、今更遅い!」

「消…え…て。私のま…え、か…ら…早く…。『汝……その身体……塵、も残らず……、消失…して…』失塵…」

「ははははッ、は、は………へ?」


研究員は、少女の声にならない呟きを聞き、自分が何かをされたということは、勘で分かった。

しかし、自分に何をされたか、までは分からなかった。


「早…く、私に…許しを乞わ…ないと…あなた……きえる…よ…?」

「なに!?」


突然、ジュゥゥゥゥッと何かが溶けるような異様な音を聞いた。

研究員は、すぐに自分の服や身体を見渡した。隅から隅まで舐めるように……。だが、どこにも異変は見つからず、ただ、異質な音が響く。


「なんだ……なんなんだッ!この音は!お前は私に何をした」

「私…の、力は…対象を、内側から、消失させる力」


研究員と話していくうちに、声を出すのに慣れてきた少女の透き通るような声を聞き、男は愕然とした。


「なんだと…では、この何かが溶けていくような音は?」

「ん、もう少しであなたが消える音?」


「だから、早く私に謝った方がいいよ。消えるから、あと、10分」


少女がそう伝えると、先程まで荒かった、男は落ち着いた様子で、


「いや、私はもういいかな。君のような美しいものを見れたから。これで終わりにしたい。………そして、君は目覚めたから、一つ知っておかなければならないことがある」

「えっと、貴方が私を襲ったのはわざと?」

「そうだよ。早く、私に消失掛けてもらって終わらせたかった」


そう、遠い目をして、呟いた。


「そして伝えたいこと、それはね。ここは危険だ…ということだ。君は早く、異世界とやらにいる、お姉さん(・・・・)の元に行くが良い。もう一度言うぞ、ここは危険だ。私はまだ若い、自分で言うのもなんだけどね」


若村はそう言って、小さく笑った。

そして、目の前の少女を指さして、言った。


「だが、君はもっと若い。私よりずっと」

「そんな、前振りみたいな話はいい…。ここには何がある?そして、貴方は、ここで働く内に何を知ってしまったの?」

「院長の件だ。私は偶然、見て…知ってしまったんだ。多分、この偶然が無かったら、私は君のことを解放しなかったし、ここで死のうとも思わなかったッ!」


若村は、拳を握り、思い切り床を殴りつけた。

その痛みを無視して、話を続ける。


「能力を持っているものを世界中から集めようとしている時だ。あの人は能力持ちを手に入れるために、何でもする。持ち主の家族を殺したりな……君を探した時は、都市を丸々一つ壊滅させたり、と…。これは世界的に有名な事件なんだ、犯人はまだ見つかっていない。もっとも…」


やったのは…院長だろう……、と下を向いて呟いた。


不意に、ぽた、ぽた、と何かが床を濡らした。

上を見ると、少女の瞳は潤み、涙が零れ落ちた。

その少女の顔を見て、しまった、という顔をした。いつもは空気を読んで、周りを見る若村の行動しては、少し…いや、かなりデリカシーの無い発言だった。


「そんな、悲しそうな顔しないで、君も被害者なんだから」


若村は泣いている少女を宥めようと、手を伸ばし、頭を撫でようとした。

すると、若村の気配に気づいた少女は、ふるふると頭を揺らしながら、後ずさった。

そして、嗚咽を漏らしながら、


「えぐ…、ひっ…、だけ…ど、私の…せいで……」

「だけど、安心して、そんな破壊活動も終わったんだ。院長の能力持ちの探索が終わったから。結局、君と異世界むこうにいるお姉さんしか見つからなかった、からだ。だから、安心して、君は行くといいよ」


一度、言葉を切って、腕時計を見た。消失の残り時間を見ているのだろう。


「残り5分と言ったところか。少し時間が無いね、少し小走りで行くよ」

「え、どこに…?」


「転送装置がある部屋だ。君は、異世界に行くと良い」


そう言い、少女の手を引き駆けだした。

ぶれてません

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