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人生謳歌 〜紡げ、異世界譚〜  作者: 祠乃@吸血好きの少女
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秋と楸が研究所を抜け出し、異世界に移動したすぐ後のこと……


「大変だ!大変だ!」


そう呟きながら、若い研究員忙しなく歩いていた。向かうのは院長室。

そして、院長室の前に辿りついたが、ドアをノックする暇もない事態であった為、


「大変です!院長殿」


無礼だと思ったが、そのまま入って行き、その部屋にいる人物に声をかけた。


「誰だね、君は。そして、何用かね」

「す、すみません。私は、若村 一 (わかむら はじめ)と申します。院長殿に無礼だと思いましたが、今は緊急の事態で合ったため、参りました」

「で、その、緊急とは」

「はい、その実はですね、保管していたサンプル00―1が逃げ出したようなのです。私はその現場を実際に見てはおりませんが、何やら私の同僚が騒いでいたので、報告に参りました」

「ふむ、やはり…か。あぁ、報告ご苦労だったな。下がってよいぞ」

「はっ!」


下がっていいと言われたが、一研究員の若村としては、気になっていた。ここで保管されている生物にはどのような秘密があるのか。


「その、下がる前にお聞きしてよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「ここで、保管されている生物についてです。何を研究されているのですか?」

「あぁ、そのことか。聞いて驚くがいいぞ、若者よ。ここではな、特殊な能力について研究しておるのだ」

「能力?それは魔法などですか?」

「あぁ。そして、今回逃げ出したサンプルの能力は、空間移動の能力を持っている」

「空間移動…ですか」


確かに空間移動は研究者としては見逃せないものだ。と若村は心の中でそう思った。

それに、その能力を扱うことができれば、人類にとっては様々な恩恵がもたらされるだろう。


「儂も1回見たことがあるが、空間に穴を空けて移動していた。そしてその穴は自分が行きたいと思った場所へすぐに移動出来る」

「それは夢のような能力ですね」

「そして、先日、その能力を限りなく再現出来る機械を作ることが出来た」

「おぉっ!」

「だが、少し欠点が合ってな、サンプルが移動したところにしか、移動出来ないのだよ。だが、今回は違う。サンプルが移動した場所は分からないが、この機械を使えば我々も移動出来るということだ」

「では、早速、移動しますか?」

「いや待て、まずは状況を確認したい。サンプル00―2任せたい」

「そのサンプルが持っている能力は何でしょう」

「念話だ。これで私達は状況を確認できる」


念話だと…。そんなの空間移動と比べれば見劣りすると思う。だが、これも中々の能力だ。


「では、今すぐにサンプルを解放してきます!」

「だが、そのサンプルを見て驚くなよ?」


驚くなというのは、今から解放するのは化け物だからということだろうか。


「大丈夫です。今は眠っているただの化け物なんですから」

「違うそこじゃない。眠っているのは人間だからな」


は、にん…げん?化け物じゃなく?

そんなの、驚く驚かないどころではない。まさか、こんな大きな力を使うのは自分と同じ人間だなんて…


「!?、大丈夫です、今すぐ行ってきます」

「あぁ、儂も後で行くとしよう」

「はい、では後で」


私は、頭を下げて、保管庫がある場所へと走っていった。

空間移動か…こんなに全力で移動しなくても、その能力があれば、一瞬なのだろうな。

考えながら、私は走った。


◇ ◇ ◇


さて、この木になっている実は食べれるのだろうか。


秋は、木に登り実を一つ取り、下に降りた。

実を半分に割って、中身を確認した。


「わぁ、真っ白だなぁ。外は真っ黒、中は真っ白って。本当に食べて良い物なのか」


そして、中身を指で掬い、口元へ運び、舐めるふりをして。


「ぺろ、これは青酸k…ぐふぅ!?」

「んな馬鹿なことしている場合かぁ!」


少し、ふざけてみただけなのに、本気で楸に腹殴られたぞ。痛い。


「あぁ、食べてみるよ。食べりゃいいんだろ。…ん、むぐむぐ……っ!?」

「お、おい。どうした?やはり毒だったか?」


…これは、中々美味いぞ。


「ほう、美味いのか。どれ、私も一つ食べてみるか」


楸は秋の表情を読み取り、この実が美味いということを感じ取ったようだ。


「風刃」


楸は呟き、虚空から風の刃を出し、そのまま放出した。

その魔法は、真っ直ぐ、実がなっている木に向かった。そして、見事、実を落とすことができた。

──大量に…

後に分かったことだがこれは稀少食材の一つ、レインボーフルーツというものらしい。


「見てみろ、秋!たくさん落とすことが出来たぞ」


初めて魔法を発動させ、見事、実を落とすことに成功した楸はその場で何回も跳ねていた。

なんとも、微笑ましい光景であった。


「凄いな。それにこんなに数があるのなら、色々な食べ方が出来るな。お前の魔法を使えばの話だが」

「秋、一応MPに上限があるんだからな?」

「大丈夫だよ、今の魔法で、15しか減っていないから。初級魔法で、10。準初級で15だから」

「ほう、なら。ファイヤーボール、アイシクルフレイム」

「お、焼いたのか。それと、2つ目の魔法は?」

「それはだな、外を焼いて、中を凍らせた氷菓だ。多分、美味いと思うぞ」


一応、ステータスを確認してみたが楸のMPは合計で40しか減っていなかった。アイシクルフレイムは2つの属性を持った魔法だが、準初級魔法なようだ。だいぶ、優秀ではないか。


「では、早速」


「「いただきまーす!!」」


秋はまず、焼いたものを頂くことにした。

まずは割ってみて、中身の確認っと、秋は心の中でひとりごちた。


「おぉっ!これは」


秋は中身を見て驚いた。

──そう、生の状態では真っ黒だった中身は、虹色になっていた。

まるで、殻が割れたかのように


「見てみ、楸。虹色になってるぞ」

「こちらもだ」


楸が食べているのはアイシクルフレイムで作ったものだ。

だが、中身は凍らせ、外は焼いている。俺が食べているのとは全く正反対のものだ。

もしかして、性質が変化すると色が変化する実なのだろうか。


「あぁ〜、この虹色のはさっきの黒色のものと違って味はどうなっているんだろうか」


ぱくっ


一つ、口の中に放り込む。1回噛む事に口の中には違う味が広がる。

凄い。地球で食べたどんな果物よりも美味い。


「おぉ!凄いな、これ。色々な味が楽しめる」

「うむ、美味い。口の中が幸せだよ」


俺たちが、採った実は全て残さず堪能した。

異世界に来て初めての食事だったがとても満足した。


◇ ◇ ◇


秋と楸は寝転びながら、これからのことを相談していた。この世界には、ただ(楸が)逃げるために来たため、ほとんどノープランだった。


「さって、とこの後どうする?いつまでもここに居るわけじゃあるまいし」

「そこは、秋のスキルに聞けば?ナビゲーションって、まぁ、そういうスキルだろ」


そういうスキルとは案内とかそういう類だろう。


「ん、では、ナビゲーションスキル発動」


突然、ブゥンという音が頭の中で響いた。

──そして、


『おはようございます。そして、呼び出して頂きありがとうございます、マスター』

「う、うん、おはよう。いきなりだけど、そのマスターって言う呼び方は止めよう。何だか、背中が擽ったいから」

『そうですか。では、秋様?』

「うん、それでいい。様呼びに慣れないが、まぁ…擽ったくないから、俺が慣れればいいだけだ」

『分かりました。これからは秋様で行きますね?』


といい。クスリ、と笑ったような気がした。

多分、気の所為だろう。


『そして、こういうこともできますよ。実体化』


言葉と共に現れたのは、灰色の髪を持つ、美少女だった。外見で判断する歳は、俺より上…なんだろうな。


「おぉ、ナビは実体化出来るのか。マジ可愛…ごはぁ!?」

「秋、良いから少し黙っていような?あぁ!?」


楸は笑顔で己が丹精込めて作った鉄槌を秋に見舞う。

秋は、腹を殴られ、そのまま意識を手放した。


そして、楸は瞬時に意識を切り替え、秋に問う。


「秋はナビに何か聞きたいことがあったんじゃないの?」


用があったんだから、呼んだんだろ…全く、と言う楸の心の呟きが聞こえたような気がした。


あぁ、そうだ!と秋は少し痛む腹をさすりながら起き上がり、ナビの方に顔を向けた。


「では、ナビに聞きたい。この近くに滞在できる、村・町・街・国とかはないか?」

「少し待っていてください。探しますので。探索シーク

「あいよ」


ポーンと高い音が広がり、周りに音が拡散していった。

多分、電波ではなく魔力を使ったレーダーのようなものだろう。


「あっ、一つ、村を感知しました。えぇとですね、」


と、ナビは北の方を指さし


「あちらです」

「ん、サンキューな、ナビ」


そう言って、一応褒美として、頭をぽんぽんしておく。

ナビの後ろで「フシャーッ」、と威嚇する楸は無視することにした。そろそろ頭が末期なのだろう。南無南無。


「ありがとうございます。では、戻りますね」

「あぁ、また、用事があったら呼ぶよ」


俺がそう言い終えると、ナビは空間に溶けるように消えていった。

そして、ナビが居なくなっても未だに威嚇している楸に声を掛ける。

手を楸の顔の前にかざして、振る。


「起きてるかー?」

「ふしゃっ!?……にゃ…、起きてる」


一瞬、にゃって聞こえたが、そのことを攻めると今後の人生が気まずくなりそうなのでやめておく。


「っ、すまない。見苦しい所を見せた」

「大丈夫。人間だもの」

「では、村に行くんだろ。さっさと行こうか」


楸はさっきのことをまだ気にしているのか、早口で早く村に行こう、と秋を促した。


「では行きますか」

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