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人生謳歌 〜紡げ、異世界譚〜  作者: 祠乃@吸血好きの少女
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─ここ、地下200m…ある生物…いや、化物が保管されている。

ただの噂で、自分はそれを見たことはない。

大きさは、5cmとも10mとも聞く。謎と噂が絶えない生物だ。

今日は俺が保管場所を見張ることになっている。独り言が大きい理由は何となく寂しいからだ。寂しがり屋ではない。これからここに何時間もいることになるのだから。


いつもどおり、俺は長い長いエレベーターに乗っている。長いというのは乗っている時間だ。

このエレベーターは一体何mあるのかと思うほど長いケーブルから電気を貰っている。

しばらくしていると、ポーンとなり無事、最下層に着いたことを電子音が俺に伝えた。


はぁ〜と長く息を吐きながら、今から8時間という長い見張りが始まる。一応、昼飯の時間もあるし、休憩も2時間に1回あるのでそれほどブラックではない。唯一、ブラックだと言えることはただ突っ立っているだけの死ぬほど暇な仕事ということだけだ。


シフトは月、木の朝から夕まで。仕事の内容はさっきも言った通り立っているだけ、そして、真ん中の保管庫を見張る…それだけ。正直立っているだけで1日に約10万貰っているので、この会社はどれだけ稼いでいるのだろうか、気になる。


2時間経つと、20分の休憩を貰い、4時間経つとお昼休みだ。午前4時間、午後4時間で合計8時間。


あ、そろそろ仕事が始まるので、一応足の運動をしておく。


突然、ビーッと甲高いブザー音が地下のホール内に響きわたる。これが仕事開始の合図である。次にブザーが鳴るのは4時間後の昼休みの時だ。なぜか知らないが2時間後の休憩時には鳴らない。俺はいつものように無心で指定された場所に立った。


◇ ◇ ◇


…何時間、経ったのだろうか、ブザー音が鳴らないということはまだ4時間経っていないということになる。

不意に声を掛けられた。


「君はこの仕事が楽しいか?」

「いや、正直面倒だ。姿形も見えない生物の見張りをするのは正直飽きてきたところだ」


俺は寝ぼけているのかと思い、適当に答えた。

そして、しばらくして返ってきた答えに俺は背中に冷たいものを感じた。突然首に刃物を添えられたような?

とにかく、驚いた。


「なら、私と外に出よう」

「あ?」

「私はここに閉じ込められている生物と言えば分かるか?正直、私も退屈してた」

「まぁ、仮に出られたとして、追っ手とかどうするんだ?」

「振り切れば、良い。簡単なことだよ、追っ手がいない世界に行けば良い」

「は?ちょっと何言ってるのか良く分からない。分かりやすく言ってくれ」

「だから、異世界に行こう」


この時の俺の顔は、多分だらしなく口を開けて、意味のわからない顔をしているのだろう。


ていうか、異世…界…?


「あぁ、うん簡単なこと言ってくれるよ、うん。お前の名前は?それとどこにいる」

「私はここだよ」


近くの柱の影から姿を現した。見た目はうーん…俺の身長の3分の2ぐらいで可愛らしい少女…。え、なに、化物じゃない。人間じゃん、どう見ても。


「私には名前なんか無いよ。物心着いた頃からここにいた。日本語はこの施設の人間に教えてもらった。10年ここに居て、一度も外に出たことなんかない」


少女は悲しそうに俯いた。


「あーまぁ、なら俺が付けてやろうか?名前」

「いいの?」

「いいよ。んーと、じゃぁ、なんだか髪の色も目の色も日本人っぽくないし…可愛いし…。名前も使用できないものしようかな。あ、ひさぎっていうのは、どう?」

「え、それが私の名前?」

「お気に召さなかった?」

「ううん、これでいい。ありがとう。えっと…」


あ、うん、まだ名前言ってなかった。


「俺の名前は、水城みなしろ あき。秋って呼んでなー」

「秋…、ふふ、なんか女の子みたいな名前。じゃあ、秋、もっと私の名前を呼んでっ、一応馴染んでおかないと、呼ばれても気付かないだろうし」

「女の子みたいな名前は余計なお世話だっ、文句は俺の親に言ってくれ」


「では、本題に入ろうか、楸。どうやって外に出る?」


まだ、肝心な話をしていなかった。

楸の方も、うーんと唸っている。

まさか、そのことに関しては計画していなかったのかと聞くと、いや、この施設の構造が分からないと、答えが返ってきた。


「あー、いや、この施設かー。ほらあそこにエレベーターがあるだろ。あのエレベーターが唯一外に繋がっているんだよ。で、上に行くと施設なんてものはない」

「え、じゃあ、このエレベーターはただの地下と地上に繋がっているだけか?」

「まぁ、そういうことになる」

「で、外に出ます、そしたら。無数のカメラと熱感知、振動感知に小さな音も拾うマイクや、沢山の人の目が張り巡らされている」


お、おうと楸は呟き、指を顎に当て、やはりうーんと唸っている。


「音もだめ、温度もだめ、振動や爆発もだめ、人の目も厄介だな。はぁ、どうしよう」


まぁ、流石にここを出るのは難易度が高すぎるよな。


「おい、もういいよ。俺は諦めて、元の仕「分かった!」事に…え?」


「ここの脱出方法が分かった。それは、光を使うこと」

「光?」

「あぁ、カメラの目も、人の目もその他諸々も。残念ながら温度の目は逸らせないが、脱出は出来る」

「まぁ、外に出ることができるのならその方法でいいよ」


えーと、あれ?なんだか違和感。えーと、そうだ。


「えっと、楸はどうやって外に出たんだ?」

「あー気づいちゃった?もうちょっと冒険してみたかったけど」

「うん?その言い方だと、やっぱり」

「うん、私には能力があるんだ。後、1回だけ使える特殊な能力が」

「あれ、じゃあ、ここまで脱出方法考えてたのは全て…」

「あぁ、うん、無駄だったというわけだ。ごめん」


俺はその場で膝から崩れ落ち、両手で頭を抱えた。つまり、今までの会話は何だったのか…と。

だが、素直に謝罪してくれたので今のことについては良しとしよう。


「特殊な能力があるんだろ?それについては、何となく予想がついてた。それ以外に保管庫の分厚い壁を通り抜けることなぞ不可能だからな。それで?どういう能力なんだ?」

「あぁ、空間移動」


俺の予想通りの能力だな。それにしても後1回だけって何故なんだ。

まぁ、それはここから出られたらにしよう。


「じゃ、行こうか。楸」

「うん、行こう。秋」


なんか、口調が柔らかくなったかな。まぁ、俺に気を許してくれていると考えて良いのかな。


「空に描かれし漆黒の顎門、我らに彼の地を示せ、導け、開門ゲート


楸の言葉の終わったと同時に空間に穴が開いた。どこに繋がっているのか、分からない…漆黒の穴…


それより、この空間移動にも詠唱文があるんだな。やばい、私、テンション上がってきましたよ(棒)


「では行こう、秋」

「え、この中に入っていけばいいんだよな?なんだか凄く不安なんだがー」

「大丈夫、私を信用しよう。あ、それと出口付近で確かチュートリアルが入った気がするから」

「お、おう。分かった」


…初めての異世界か…どんな感じ何だろうか。モンスターとか人間との初めての戦闘とかどうだろうな。


俺は期待と不安を胸に楸の開けた穴に入っていった。


◇ ◇ ◇


俺は相変わらず右も左も見えない暗闇の中を進んでいる。進んでいるのか、戻っているのか分からなくてだんだん不安になってきた。

俺は疲れた事と不安になったことで立ち止まった。

すると、右の方から声が掛かった。


「大丈夫だ、秋。そのまま進め」

「楸!?そこにいるのか」

「あぁ、それにそんな不安がらなくて良い。後少しでチュートリアル入るから」

「分かった、進んでみるよ」


それなりに不安だったが、楸の言葉を信じて一応進んでみる。

すると、言う通りになった。

前方に、暗闇の中に淡い光を見つけた。あぁ、あそこかと思った。


疲れた足を動かし、その場に立った。すると、頭の中に声が響いた。


『ようこそ、始まりの間へ。ここではスキルの編成が出来ます。スキルによって強くなれるか、なれないかが分かれます。どうぞ、慎重に決めましょう』


『…、チケットがありますね。使用しますか?』


「チケット?何だそれ。スマホのことか?」

『はい、それです。そして、貴方は初めての転移者なのでチケットと合わせ、固有スキルを差し上げます。では、この中からお選びください』


「おぉぉぉ、これ全部スキルなのか」


…料理スキルに加工スキル、色々なスキルがあるなぁ……って!うわ、靴磨きなんてスキルもあるのか…。これはバイト用なのかな。


「あの何個選んで良いんだ?」

『5個ですね、チケットがあるので固有スキルは3個です』


ん〜、この眷属ってのは奴隷とかのこと?多分、奴隷買いそうだよな。一応取っとくか。あと、スキルを確実に育てるためには倍加を……


色々と呟きながらも決めたスキルは最終的に…


「ん〜、このスキル値倍加と眷属スキル値倍加、ステータス分配、魔法剣士、ナビゲーションスキルかな。固有スキルは、相手のステータスが見える透視の魔眼と一度見たスキルを奪える略奪の魔眼、最後に換装スキルをください」


『うわぁ…、こほん、失礼。ではこの先を進むと異世界に出ます。良き旅を』


「あぁ、いろいろありがとう。行ってきます」


なんか、うわぁって声がしたが気にしないでおこう。


◇ ◇ ◇


「…恐ろしい少年でしたね」

「えぇ…覚えられるスキルの上限があるとはいえ、ほとんどのスキルが使えるスキルです」

「なんだか、この先、あの世界も騒がしくなりそうですね」


異世界の少年が去ったあと、暗闇の中で、天使達は囁いていた。


◇ ◇ ◇


目が覚めると、俺は見知らぬ森の中で倒れていた。頭の裏に柔らかい感触を感じて。


「あ、やっと目が覚めたか」


目の前には見知らぬ…いや、楸の顔が。


「ん、ん…あれここは?」

「ん?私の膝の上だけど」

「は!?……うわわわ、ごめんなさい。すぐどきますからー」

「あぁ、うん。…ってそういうことじゃないでしょー。ここは異世界『アーフェルド』だ」


おぉ、アーフェルドか…。

俺は本当に地球ではない、別の世界に来てるんだな。

秋は、ここからどんな旅が始まるのかわくわくしながら、楸の膝から脱出し地面を踏み締めた。

後ろから退かなくて良いのにー、という声を聞き流し、俺は異世界の空を見上げ、呟いた。


あぁ、空は蒼いなぁ。

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