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発音





目の前に立つ男の人をまじまじと見上げ、観察する。



わぁ、すごく大きな人。



短く少し硬そうな黒髪。

右顔面には炎のような赤い入墨?が広がっていて、それが彼にとても似合っていて綺麗だと思った。

鋭い切れ長の眼は一見すると怖そうに見えるが、その奥にある黒い瞳はとても優しい色をしている。

私の周りにいた精霊達も怖がる様子をみせず、逆に笑顔で近づく者や、身体に触れようとする者もいた。



この人はとても良い人だわ!


精霊の様子や、自身の長年の経験からこの人は安全だと悟った。




それに、凄く……かっこいい。好きなタイプだわ。

恋しちゃったかも。



スラリとしているが、鍛えられていると分かる筋肉質の身体。

それに、頭を撫でられた時の大きな手。マーニャはドキドキし、顔が赤くなるのが分かった。


ふにゃりと笑ったら、彼は目を見開き硬直した後、ほんの僅かに口角を上げ微笑んだ。


その笑顔に私は釘付けになる。


しばらくすると私に何かを告げた後、少し離れていた仲間?の元へと去った。








私が彼に立ち去る後ろ姿にうっとりしていると、カレンに右腕をガッチリ拘束され引っ張られた。


『かあさまぁー!じゃなかった。マーニャ様!目を覚まして下さい。』


耳元で怒鳴られ、耳がキーンとなった。


『カレン。そんな近くで大きな声を出さないで。耳が痛いわ。』


耳を押さえつつ頬を膨らませ抗議すると、カレンは彼の向かった方角に鋭い怒りの眼をキッっと向け、ビシッと指を指す。


『マーニャ様!さっき、あの者にうっとりしていましたね?惚れたんですか?恋しちゃったんですか?愛しちゃったんですかぁーー!?!?』


あれ、……何でバレたんだろ?


『あぁ!今、何で分かったんだって顔しましたね!?私には、マーニャ様の考えてることなんかお見通しなんですからね!私は、マーニャ様一筋なんですからね!』


私一筋ってなんだ。


それにしても、そんなに顔に出ているのだろうかと、顔をムニムニ触ってみた。




彼の後ろ姿を思い出し、笑顔が溢れる。


『だって…。凄く素敵でしょ、彼。こんな人が旦那様になったら幸せだろうな、と思ったのよ。』


素敵かどうかは私にはさっっぱり分かりませんが。とカレンが話し出す。


『あの人から竜の匂いがしました。それにあの顔の痣。彼は竜騎士ですね。それも黒竜。身のこなしからして、剣術も相当なものだと思います。』


黒い竜…?乗ってみたいなぁ。


『竜は危険ですよ、マーニャ様!竜の個性にもよりますが、基本的に気性が荒く自身が認めた者意外の言うことは聞かない生き物です。中でも黒竜は最高に扱い辛い性格をしているらしいです。まぁ……マーニャ様なら大丈夫のような気がしますが……危険ですから乗ってみたいとか思わないように。』


言葉に出していないのに乗りたいって思ったことまたバレてる。


『マーニャ様が、この世界を見て回りたいと考えていることはこの間伺いました。私はこの森を離れることができない。マーニャ様を手助けできないことが悔しいです。でも、あの者なら。竜騎士ならばそれは可能です。簡単に世界を見て回れるでしょう。………マーニャ様の望みは、私の望みです。』


カレンはくしゃりと泣きそうな顔を見せ、その声は悲しみを含んでいた。




*************




この世界へ転生してから2ヶ月が経ち、その間にカレンからザンクトガレン大陸のことを教えてもらったいた。


大陸の話を聞いていた私は、そろそろこの森を出てみる。この世界を見て回りたいの。とカレンに告げたのだ。


カレンは目を潤ませ、はい、とだけ答えた。

哀しい、寂しい、と潤んだ瞳は訴えているが、行かないでほしい。とは一切口に出さなかった。



ーーーそれが数日前の出来事。



そこへタイミング良く彼が現れたのだ。




**************




しばらくすると、彼が仲間を連れて戻ってきた。

彼が一番偉い人物のようで、連れてきた仲間は部下なのだろうと、彼等の仕草や態度からそう判断する。


部下?達は、私を見て硬直した後、彼に向かって口々に何かを訴えていた。



……私の顔ってもしかして、変なのかな?



カレンはいつも、可愛いです!綺麗です!と言っていたが、自分の顔を確認しなかったことを、今になって後悔した。


泉とかなら水鏡で見れたのに、なんで確認しなかったのかな、私……


顔を触り不安気な顔を浮かべると、今度は私に向かって彼等は口々に何かを言い出す。


何を言っているのか、分からない……


『ぅ……』


言葉が理解できない悔しさで、眼がウルウル潤んでくる。

こんなことで泣いちゃだめ。と思っていたら彼が部下達を引き離してくれた。


びっくりした顔で見上げると彼は苦笑いを浮かべ、また頭を優しく撫でてくれた。


何て優しいのかしら。


彼の優しさに思わず嬉しくなった私は、思わず抱きついてしまった。


鍛えられた身体が一瞬ビクッとなったが、またナデナデが再開される。優しく大きな手をしばらく堪能した後、ありがとうとはにかんだ笑顔を彼に向けた。マーニャは静かになった部下達をチラリと見たら、部下達は唖然としていた。



なんなの、いったい?



訳が分からず彼に視線を戻すと、彼はゆっくりと身を屈め自分の胸に手を当てた。

同じ言葉を何度も言っている。


あ、もしかして名前かな?


く、くら?くらん。かな?



「くあん?」


らが上手く発音できなかった気がする。

でも、彼は頷きながら笑っているので、まぁまぁ良い発音だったのかもしれない。

私の名前も伝えなきゃと、彼を真似て胸に手を当て何度も名前を口にする。



「まー、な?マーナ?」


惜しい!


マーニャって発音しにくそうだからマーナでもいいか、とコクコク頷き満面の笑みを浮かべる。





ーー私は覚悟を決めた。

彼を説得し、ついていこうと。








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