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銀色

クランガウンド視点



かすかに聞こえてくる歌声に導かれ、森の奥へ足を踏み入れる。ズンズン進んで行くと視線の先に小さな泉が見えた。


木々の間から光が注ぎ、キラキラ反射している様はとても幻想的だ。


誰かの口から、ほぅと溜息が漏れた。


別世界に入り込んだ感じだな。とても美しい。


クランガウンドは素直にそう思った。

神聖な場所だと言われているが、以前来た時には感じなかった雰囲気が漂っている。


「泉のもう少し奥に老木があるはずだ。焦らず進もう。」


「「はい」」









歌声が徐々にはっきり聞こえてくる。

だが、何を歌っているのか分からない。なぜなら、我々の知らない言葉を紡いでいたからだ。


……どこの言葉だ?…いや、それよりなんと澄んだ綺麗な声だ。


歌声は大地に染み渡るかのように奏でられ、それに反応しているのか木々がサワサワと葉を揺らしている。

ねずみやリスといった小動物が時々姿を見せていたが、どうやら我々と同様に歌声に誘われ老木の方角へと向かったようだ。



木々の隙間からチラリと銀色を視界にとらえた。


あれは、何だ?


遠目から見えた銀色の何かを確認するため、足音を立てないように慎重に歩を進め近づいて行く。



その何か。





それはーー銀色の小さな美しい少女だった。







少女を見た瞬間クランは、声を失い、思考を失い、部下と共にいることすら忘れ、少女のことしか考えられなくなった。


無意識に足が少女へと向かう。

部下が「団長!」と引き止めようと声を発していたが、クランの耳には届いていなかった。


どんどん近づいていくと少女も俺の存在に気づいたのか、歌を止めていた。


歌が止んだことでハッと意識を取り戻し、自分が部下を置いて無警戒で少女に近づいたことに軽く舌打ちをしてしまった。


少し頭を横に振り、改めて少女を見ると彼女は目には見えない誰かと会話しているように見えた。



……誰と会話を?もしかして精霊と、か?



少女の周りにはキラキラした光が取り囲んでいて、肩にはリスは乗っかり、触り心地の良さそうなふっくらとした少女の頬に擦り寄っている。


もう少し近づいても平気だろうか。

少女は、全くといっていいほどクランを警戒していない。

少女との距離は約5メートルにまで近づく。


クランは自分の顔が皆から恐れられていることを知っているため、怯えさせるのではないかと危惧していたが、彼女は怯える様子を見せずきょとんとしている。その事にクランは安堵した。



少女はとても小さい。

身丈は150cmくらいか。

年齢は10歳くらいだと予想される。



だが、なんというか。…妙な色気があるな。



銀色の長めの前髪がたまに風に靡いて頬に張り付き、それを白く長い指で鬱陶しそうに耳に掛ける。

その仕草がとても色っぽい。

くりくりっとした大きな濡れたような黒い瞳は、よく見ると色彩の部分が七色に輝いている。

少女が身に纏っているのは、銀色のドレス。素材は分からないが、少女の髪と同色でとても似合っている。綺麗だ。



少女の方からひょこひょこと目の前まで近づいてきて、下から見上げられコテンと首を傾げる仕草をする。


うっ…可愛い……



『※※※※※※※※?』



少女のふっくらとした口から溢れ出る言葉はやはり分からない。


「すまない。言葉が分からない。」


言葉が通じないことに少女も気づいたようで、困惑の表情を浮かべたがすぐに立ち直り、身振り手振りで会話を始める。

一生懸命な姿が可愛く、気づいたら彼女の頭を撫でていた。

指を通る艶やかな感触と仄かに香る甘い匂いに忘れかけていた感情を思い出す。



頭を撫でられたことに、びっくりしていた少女も次第に顔をピンク色に染めあげ、ふにゃっと恥じらうような可憐な笑顔をみせた。







ーーーその瞬間、クランは恋に落ちた。









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