名前
『そういえば、あなた名前は?』
私は、泣き止んだ美女に名前を尋ねてみる。
きょとんとした潤んだ瞳で見つめられてドキドキしてしまう。
男だったら、惚れてしまうところだ。
『…名前、ありません。かあさまに名前つけてほしいです。』
右腕に縋りつき上目遣いで懇願される。
…あぅっ、可愛いぃ!!
胸がきゅんきゅんした。
しかし、私はネーミングセンスがない。
さて、どうしましょう…。
前で腕を組み暫し悩む。
『ん〜む。。カレンって名前はどう?』
『カレン!可愛い名前です。かあさま!』
可愛い→可憐→カレン。
うん、我ながらセンスない。
まぁでも、喜んでるからいいか。
『では、カレン。お願いと質問があるのだけれど。』
『はい、何でもどうぞ!』
『まずは、お願いの方なんだけど。私のことはマーニャって呼んでほしい。』
『か、じゃなかった。マーニャ、様。ですね?分かりました!』
『いや、マーニャで。』
『ダメです!かあさまを呼び捨てなんて!』
『えぇ〜……』
様はいらないと何度か繰り返したけど、頑として聞き入れてもらえなかったので渋々諦めた。
『それから質問ね。神様から、相談役がいるって言ってたんだけど。カレン、あなたのことかしら?』
『あ、はい!相談役は私のことです!2.3日前にいきなり神様の声が聞こえてきたのでびっくりしてしまいました!ふふっ、かあさま、何でも聞いて下さいね。…と、その前に。かあさま!ふ、服を着ませんか!』
顔を真っ赤にしながらモジモジするカレン。
顔を両手で覆い隠しているが、指の隙間からガン見している。
手で隠してる意味がない。
……暖かいからすっかり忘れてた。
私、すっぽんぽんだ!
驚きつつ自分の身体をマジマジと眺める。
肌はつやつやしており、ホクロもなさそうなほど真っ白だ。精霊だった頃の身体ではないようで、背中にあった羽もない。髪の色も当時は水色だったが、今は銀色。しかも無駄に長い。
『わぁ〜ピッチピチの若い肌!やっぱりいいわねぇ、若いって素敵!!……あ、カレン。服って持ってないよね?』
ないだろうと思ったが、一応聞いてみる。
『ありません。ごめんなさいマーニャ様』
うむ。やはりね。
どうしたものか。
近くに村とかあるのかな?カレンに尋ねてみたが、村まで行ったことはないが動物達の話では、アノス山を降りないと村はないとのことだった。
服の材料なんて森の中にはないだろうし。
俯いて考え込む。地面に流れる銀色の髪は何メートルあるのだろうか?これを服にできないかな?
髪の毛を弄ってみる。
…うん、なんとなくできそうな気がする!
マーニャは地面に魔法陣を描いていく。
精霊だった頃は神の力を僅かばかり授かり大地へ行使していたが、今のこの身体には神力を扱うことができない。だから言葉を紡いでの魔法は扱えない。私ができるのは、精霊との会話。そして魔法陣を描き精霊にお願いすることのみだ。
○○をしたいからお願い、力を貸して!という風に。
ーーさて、まずはナイフを作ろう。
ナイフを何に使うかって?この長い髪の毛を切るのよ!
髪の毛は女の命?いやいや……87歳にもなってみなさい。高齢者で髪の毛長い人なんていないでしょ?短くていいのよっ。すぐ乾くしめちゃくちゃ楽よ?
と、いうわけで土から鉄を錬成しナイフを作ります。
そしてーー
バサ‼︎
『あぁっ!マーニャ様、なんてことを!!』
やたらと長かった髪の毛を短くばっさりと切った。後ろを短くカットし前を長めに残し不揃いな所を器用にナイフで整えていく。
ふぅ〜。よし、軽くなった!
カレンが、銀髪を両手で大切に掬うように持ち、なんてもったい!と叫んでいる。
マーニャはそれを無視した。
『カレン。その髪の毛を一か所に集めて。』
カレンが後ろでまだブツブツ言っているがそれもスルーし、再び魔法陣を描き、集めた髪の毛を陣の真ん中に置いた。
断髪のショックから立ち直ったカレンが、マーニャ様の髪をひと束掴み考え込んでいる。
気になって『どうしたの?』と聞くとカレンはバッと顔をあげて『お願いします!マーニャ様のこの髪の毛を下さい!』と必死の形相で迫ってきた。
あまりの必死さに目を丸くしたマーニャ。
『い、いっぱいあるし少しならいいよ?』と言ったら、飛び上がるほど喜んでいた。
服のイメージを頭の中で描く。
陣の周りには精霊達が集まってくれている。
[力を貸して!!]
陣から眩い光が浮かび、徐々ワンピースらしきモノに形を変える。
だが、最後の裾の部分にさしかかった時、イメージが曖昧すぎたのだろう。中途半端な状態で錬成がストップした。
う〜ん…
納得いかず、もう一度錬成し直す。
前を短く後ろを長めにして足を出すことに決める。
若い肌だし、出さなきゃもったいないよね!
そして、裾を少しヒラヒラさせて女の子らしさアップを狙う。
2度目の錬成は成功。
出来上がったワンピースを見て『マーニャ様、とっても素敵です!!』と、カレンが興奮して手を叩いて喜んでいる。
うん、私も可愛くできたと思う。
でも、ワンピースというか、ドレスみたいになっちゃった。




