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結婚






ーーマーナは結婚式前にどうしても会っておきたい者がいた。








『カレン……』


マーニャ(マーナ)様!』


老木に手で触れ声をかけると、呼びかけに応え凄い勢いで現れ抱きついてくるカレン。

マーナの小さな膨らみに頬をぎゅうぎゅうと押しつけてくる。

げふっ。ちょっと痛い。


『お久しぶりです、マーニャ様!!……………ん??』


カレンはふと、微かに香る違和感にゆっくりと顔を上げた。


『……マーニャ様?くんくん。……何だか……くんくん……人間のオスの匂いがします。』


カレンの鋭い指摘にビクっと肩を揺らし、目をウロウロさせ顔を赤らめる。




ちゃんとお風呂入ったのにバレた?!





ーー匂いの原因。それは昨晩のこと。


婚約したのをきっかけにクランが寝台を共にすると宣言してから、仕事で夜いない日以外は宣言通りに共に寝ていたのだが……。

甘い雰囲気を作ってもなかなか手を出そうとしないクランに焦れてしまったマーナ。

初夜に全てを捧げるとお互いに決めてはいたが、少しくらいイチャイチャしてもいいじゃないか!と子供のようにふてくされたマーナはーーーー昨夜、思いきって色っぽい下着を着用してクランを誘惑してしまった。

最後までは致さなかったものの、結構ギリギリだった。



朝、しっかりお風呂で洗い流したのだが。カレンはその情事の匂いを嗅ぎとったのだろう。



こほんと咳払いをひとつする。


『……その匂いは気のせいよ、カレン。それよりも………今日はあなたに報告しに来たの。』


『報告、ですか?』


『うん。あの、ね。……ここで初めて会った竜騎士の方と………私、その……結婚する、の。』


『………ぇっ?』





『……だ、だから結婚するの。』





もじもじと身体を捩り顔を赤らめるマーナ。

その周りには幸せオーラが辺り一面に放出されており、その気に当てられた精霊達がクルクル踊りだした。マーナを中心に色とりどりの花々を咲かせていく。一角を除いて。





『私からかあさま(マーニャ)を奪っていったばかりか、独占しようだなんて……あんの腐れ外道がっ。いっそ成敗してやろうかし、…あぁっダメダメ!そんなことしたら私がかあさま(マーニャ)に嫌われてしまう。悪趣味にもあの男を好きみたいだし。…………くそぉ、泣かせたりしたら容赦しないんだからっ。この身が朽ち果てようと、必ず後悔させてやるわ!………ふふふふふっ』


マーナに聞こえないようにぶつぶつ呟くカレン。ドス黒いオーラを放つその様は呪いを施す魔女のようである。精霊達はそのオーラに怯えカレンを避けた為、その一角のみ花が咲かなかった。


マーナは急に黙り込んでしまったカレンを心配して顔を覗き込もうとしたら、勢いよくガバッと顔を上げたカレンに両手を掴まれた。


『マーニャ様。今、幸せですか?』


真剣な眼差しで問われる。


『えぇ、幸せよ。』


マーナは即答し頷き笑顔を綻ばせる。

その笑顔には愛が溢れておりカレンは渋々ながら納得することにした。が、『何かあったらすぐに言って下さい。嫌なことされたり泣かされたりしたら、マーニャ様のかわりに私があいつをぶっ飛ばしますから!』と伝えることを忘れなかった。

マーナは目を丸くした後、その時はお願いするわねとクスクス笑った。






カレンは言質を取った!と喜びワキワキさせたが、それを実行に移すことは以後なかった。




************







ーー結婚式当日。





マーナは真っ白な衣装に身を包んでいた。


転生前。タエがもし結婚式に着るならこれ!と夢に見ていたデザインがあった。マーナはそのドレスを思い浮かべながら図案を描き、お針子さんに無理を言って再現してもらった。


ビーズや刺繍を贅沢にあしらったプリンセスラインの真っ白なドレス。

そして、なるべく肌を隠す(ようにクランに指示された)総レースで落ち着いた感じの七分袖。


着付け終わったマーナの姿に、部屋にいた者達の視線が釘付けとなり、皆がほう〜と感嘆の溜息を漏らす。





この世界では結婚式に白いドレスを着ることは珍しいらしく、テルモアから何故白色なのかと聞かれたことがあった。


「この真っ白なドレスには意味があるのよ。」


「意味、でこざいますか?」


テルモアは首を傾げる。




「その意味はね。


ーー【あなたの色に染まりたい】」




「まぁ!そんな意味があったのですね。素敵ですわ!」




このやり取りを見ていた者達から噂が広まり、数年先には《結婚式で真っ白なドレスを着ると幸せになれる》というブームが起こり、やがて《花嫁衣裳では真っ白なドレスを着るのが当たり前》になっていくのだが………当人は知る由もない。









化粧を施しクランの訪れを待つ。


あぁ〜だめだ。緊張する!


高鳴る鼓動を落ち着かせようと深呼吸を繰り返すマーナ。


扉が開く音がして振り返るとそこには黒い軍服を着たクランが立っていた。

威厳に満ちた立ち姿に見惚れるマーナに対し、クランは花嫁衣裳を身に着けたマーナに唖然。その人外の美しさに言葉が出なかった。


「クラン様、素敵です。」


ぽつりと呟くマーナの声にハッとするクラン。マーナに近寄り間近で衣裳を見る。


「マーナ、とても綺麗だ。綺麗すぎる。誰にも見せたくない。」


「まぁ、クラン様ったら。」


「マーナ。様はいらない。これからはクランと呼んでほしい。夫婦になるのだから。愛している、マーナ。」


「ク、クラン。私も愛しています。」


視線を絡めお互いに見つめ合う。


クランの指がマーナの頬を掠め、唇へと落ちる。ふっくらとした唇を指先で撫で顔が近づけていく。始めは啄むキスが、次第に深く深くなっていく。


あっという間に2人の世界を作り出してしまった新郎新婦(クランとマーナ)は、他者がいることなど綺麗すっぱり忘れてしまっている。


化粧をまた直さないと。とテルモアは1つ溜息をついた。だが、その口元は笑っている。




**********




会場に主役の2人が登場すると、ざわついていた招待客が一斉に静まり返った。



ずっと独り身を貫いていた竜騎士団長クランガウンド・ラ・フロバールの結婚式。


悪魔だ魔王だと噂される褐色の大男が婚約から僅か20日という超スピード結婚に招待状を貰った貴族達は驚いた。


半分以上の貴族達の頭の中は、新婦=悪魔の生贄である。


その悪魔(クラン)に見初められた女性とはどのような人物なのかとマーナに視線が集中する。




突き刺さる視線にマーナはふるりと身体を震わせた。クランはそれに気づき、大丈夫だ俺が付いていると小声で告げる。


そうだ。私は1人じゃない。

この人が隣にいてくれる。だから大丈夫なんだ。


そう思ったとたん強張っていた身体から力が抜け、震えも止まった。


私は本当に幸せ者ね。幸せすぎて怖いくらい。


チラリとクランを見上げ、すぐに前を向く。


いつか、この人の子供を産みたい。

男の子でも女の子でもいいわ。

どっちでも可愛いだろうなと未来を想像してマーナ微笑んだ。


祭壇の前に立ち、お互いに結婚承諾書にサインをする。

サインを見届けた神官から誓いの口付けを交わすように言われ向き合う私達。


クランの手でゆっくりとベールを剥がされ、隠されていたマーナの素顔が明らかにされた。




会場は息を呑んだ。


美しい。何て美しさだ。

天使だ、いや女神だ。

口々に招待客から囁く声があがる。



「マーナ、皆が君に見惚れている。本当に綺麗だ。」


「ありがとう。クランに誉めてもらえて嬉しい。」


「そういえば、知っているかマーナ?最近聴かれる巷の噂の1つで、黒い悪魔が何処かの姫君を強引に攫って、嫌がる娘を無理矢理花嫁に……というやつを。」


「………御伽話の類い??」


「俺とマーナの事だ。」


「なっ?!」


「世間にはそう見えるらしい。」


「何それ許せないわっ。あなたの事を悪魔だなんて………」


怒り出したマーナをクランは甘い瞳で見つめて笑う。


「ぁ、そうだ。良い考えを思いついたわ!ねぇクラン、抱っこして?」


甘えるように腕を伸ばすマーナをいつものように軽々と抱えるクラン。


「私から愛の篭ったキスを送れば、そんな噂も払拭されるんじゃないかしら?……ふふっ、甘んじて受けとめてね、クラン。愛してるわ。」


「マーナからのキス。有難く頂戴しよう。俺も愛しているよ。」


挑戦的な瞳で会場を見渡したマーナはひとつ微笑むとクランに視線を戻し誓いの口付けをする。



会場にいた招待客の7割が驚愕し、皆が同じような疑問を顔に貼り付けている。


政略結婚ではなかったのか!?と。



クランはキスを受けながら会場を一瞥した。

貴様らも政略結婚だと思ったのか?

マーナも俺を愛してるんだぞ。

マーナのこの顔を見れば、一目瞭然だろうがなと愛しの伴侶を見つめる。

それほどにマーナの顔は幸せに満ちており、クランに向ける眼差しは甘い。誰が見ても相思相愛なのだとわかるだろう。



キスに夢中になるマーナ。

噂の払拭の方が重要であると長めの深いキスをする。


ふふふっ、これで、私がクランを愛していることが伝わったかしら?


神官の咳払いが聞こえ、仕方なく唇を離したマーナは、最後にちゅっと軽いキスを落とすと色気を漂わせながら満面の笑みで微笑んだ。







会場に降りひと通り挨拶を終えたクランとマーナは義父と義母、そしてクランの兄ゼガルの姿を見つけ近寄った。


「いやぁ〜、熱烈なキスだったねマーナ。びっくりしちゃったよ〜僕。」


「あ、あれは変な噂流れていて。だから、それを消す為に必要な事だったのですわ、ゼガルお義兄様。」


「へぇ〜、ふぅ〜ん。あ、もう1回言ってお義兄様って。」


「ん?……ゼガルお義兄様?」


こてんと首を傾げるマーナは天使もびっくりな可愛さで、思わずゼガルは身悶える。


「んもぅ〜!!何て可愛いんだ義妹よ!」


「騒がしいわよゼガル。少しは静かにしなさい。マーナ、ごめんなさいね騒がしい息子で。それにしてもそのドレスとても素敵ね。最高に綺麗よ!」


「ありがとうございます。お義母様。」



騒ぐゼガルを黙らせた義母は、マーナを褒め称えた後、ニヤニヤしながらクランへと視線を走らせた。

マーナは何故か嫌な予感がした。


「あ、そうそう。テルモアから聞いたわ。そのドレスには意味があるのですって?」


おぉ、儂も聞いたぞと義父もニヨニヨするが、ゼガル義兄は何の話か分からない様子できょとんとしていた。


「あぁっ、お義母様!言っちゃダメですよ!」


「え〜と、【あなたの色に染まる】だったかしら?」


「違いますよ!【あなたの色に染まりたい(・・・・・)】で、あっ!」


どうしよう!言っちゃったっ!!

マーナは恥ずかしさで赤くなった顔を両手で覆い隠した。


白いドレスの意味など考えたこともなかったクランはもう1度マーナの花嫁衣裳をじっくりと見下ろし、ゴクリと唾を飲み込んだ。


俺の色に染まりたい?つまりは早く抱かれたいということか。

ならば、もう我慢はしない。

遠慮なく俺の色に染めてやる。

覚悟しろよ、マーナ。


考えが透けて見えるのか、両親とゼガル兄は声を重ね合わせ「「ほどほどに」」と呟いた。


「父上、母上、ゼガル兄上。私達はこれにて失礼させて頂きます。ゆっくりしていって下さいね。では」


マーナをひょいと抱き上げると早足で会場を後にする。そして、主役2人は部屋に閉じこもり、その後会場に戻ることはなかった。





************





ーーあれから10年。



マーナは25歳。クランは45歳になっていた。


マーナの大陸中を見たいという夢を覚えていたクランは、時間が取れるとマーナと一緒に黒竜に飛び乗り大陸中を回った。

小さなトラブルはあったものの、順調に世界を見て回れている。

それもこれも、クランのおかげだ。


それと、もう1つの私の願いはというと。

子供ができにくいという話は本当で、この10年ほぼ毎日のように抱かれていたが子供を授かることはなかったのだがーー


今現在。マーナのお腹に新たな命が宿っている。


妊娠して1ヶ月くらいだそうだ。

悪阻はあまりなく、ここの所身体のだるさが続いていて、ただの疲れだろうとマーナは思っていた。

そして今日、定期的に訪れた女医により妊娠が発覚。


女医に「おめでとうございます。ご懐妊です。」と言われた時にはすぐ理解できなかった。理解できた瞬間からは、感動で涙が溢れ止まらなかった。


部屋に入ってきたテルモアがマーナが泣いている姿を見て「どうなさったのですか!?」

と駆け寄ってくる。


「テルモア、私、子供ができたみたい。」


泣き笑いの状態で告げたら、テルモアの瞳からもたくさんの涙が溢れ「良かったですね……本当に良かったですね、奥様……」と言いながら抱きしめてくれた。


屋敷中がお祝いモードに包まれた。


今朝早くクランは仕事へと出掛けて行ったが、今日は早く帰れると思うと言っていた。


「パパ、早く帰って来るって言ってたから、もうすぐ帰ってくるよ。1番にお出迎えして、貴方の事を報告しなくちゃね。」



クランに妊娠のことを告げたらどんな反応するのかしら?




お腹に手を当て、夫の帰りを今か今かと待つマーナだった。









おわり。





一応本編はこれで終わりですが、番外編をちょこっと書きたいなぁ〜と思っています。


見苦しい点が多々あると思いますが、その辺はご容赦下さい。拙いのは作者が1番理解しております。



最後までお付き合い頂きありがとうございました。



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