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怒り①






ーー翌朝。マーナはベッドの上で昨日あった事を思い出し身悶えていた。





**********





クランのリードはとても巧みだった。


緊張し、ぎこちなく踊っていたマーナだったが、だんだんと楽しくなり最後には大胆なターンを笑顔で決めていた。


その様子を見ていた周りの人は、マーナの太陽のような笑顔に見惚れ、相好を崩す者が続出。その中には邪な思いを抱く者がいた。


ーーだが、マーナが大胆なターンを優雅に決めたその裏では……


クランは、マーナの視線が自分に外れたのを見計らい、野生の勘で不埒者に狙いを定め、悪鬼のような形相で無言の威嚇を放つ。


そして、音楽がピークに達しようとしていたその時、楽しそうな笑い声に混じり、悲鳴を上げてバタバタと倒れる者が数名いたのだが、酔っぱらって倒れたのだと勘違いされた…。





************





クランとのダンスがあまりにも楽しくて、2回も踊ってしまったマーナだったが、靴擦れをおこしてしまい、手当てのため、クランに連れられてテラスへと移動することにした。


「マーナ。手当てするから、ここに座っていてくれ。いま救護の者から道具を借りてくる。」


颯爽と去るクランの背を見送り、マーナは疲れた体を椅子に寄りかけ痛みを与える靴を脱いだ。


(痛い。踊り過ぎたわね。…クラン様、踊っている姿も素敵だったなぁ。また、一緒にダンス踊ってくれるかしら。)


クランを想いながら、夜空に浮かぶまん丸の月を見上げ、靴擦れのできた足をぷらぷらさせる。




コトン…


背後で聞こえた小さな音。


クラン様が戻ってきたのかな。と振り返るとそこには、ワインを手に持った小太りの男がいた。酔っぱらっているのか、覚束ない足取りでフラフラしながらこっちにやってくる。


露わになっていた素足をドレスで覆い隠した。警戒し小太りの男を見る。


「おやぁ~?…こ、こんなところに、ヒック……小さな天使がいるぞぉ?グフフっ…ヒック…迷子かのぉ?…よし、ワシが可愛がってやろう、こっちにこい。」


お酒の匂いをプンプンさせ、手招きされる。


(やだっ、気持ち悪い。お願いクラン様、早く帰ってきて。)


首を振り拒否の姿勢を示すマーナに、小太りの男はイライラし声を荒げる。


「おいっ!ワシが、早く、来いと、言っているだろう!…ヒック…このワシが、わざわざ、声をかけてやっているというのに…ヒック…」


フラフラしながら瞳をギラつかせる男。その瞳には怒りの色が見てとれ、マーナは怯え肩を震わせた。


「クラン…さま…」


「あぁ?…何ぞ言ったか?」


「ひっ…………」


恐怖で声が出ない。



「ちっ…イライラさせる女だ。来いと言ったらさっさと来い!」


「きゃあ!」


膝を抱え怯えていたマーナは、腕を強く引っ張られたことでバランスを崩し、椅子から転げ落ちた。


「うぅ……」


体を強かに打ちつけ呻き声を上げると、鈍臭い女だ。と吐き捨てるような声が男から漏れ聞こえてきた。


目の奥がじ〜んと熱くなり、眼球の上を薄っすら涙が覆う。





ガシャンっ……






「貴様………俺のマーナに何をしている。」







ーー凍えるような怒りを孕んだ声が静かなテラスに響いた。










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