黒竜
言葉が通じないということは、凄く大変だと今気づいた。
ゼーハーゼーハー…
クランについて行きたい!
と、身振り手振りで伝えようと奮闘するが、なかなか伝わらない。
ジェスチャーってこんなに大変だったの?!
弾む息を整えクランを見るが、なんだ?というように首を傾げていた。
なんで伝わらないの?と気分が落ち込んでくる。
すると、クランの近くにいた優しい顔のお兄さんが私の言いたいことが分かったのか、私と森の奥に指を向け、行ったり来たりさせている。
私を連れて行こう。と言っているような気がした。
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【……マーニャ様】
泣きそうな声でカレンが囁く。
【カレン、必ずまた来るわ。約束よ。】
カレンの小指を掴み、自分の小指を絡ませた私は、指切りげんまん〜と、誓いの儀式を行った。これで大丈夫と微笑む。
泣きそうなカレン。
妖木の下に座った私は、カレンおいで、と手招きで呼び寄せ無理矢理膝枕をした
。柔らかい金色の髪に指を絡め、ゆっくりと子守唄を奏でる。
微かに啜り泣く声が聞こえた気がした。
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森の中を歩く。
最後尾でクランに手を引かれる私は前方を歩くメンバーを見上げた。みんな背が高く、足も長い。
だから、歩く速度がかなり違う。
最初、私の歩行に合わせてくれているのが分かったので、少し早足で歩いてたら…さすがに……疲れてしまった。
はぁはぁと、息が弾む。
息を弾ませる私を見兼ねたのか、クランに片腕でひょいっと抱き上げられた。
「うわ!」
突然身体を抱き上げられたことにびっくりした私は、目線が近くなったクランを見て顔を赤らめた。
嫌だったか?と言いたげなクランに、ありがとう。と微笑んでおく。
部下達には生温かい視線を向けられ、優しい感じのお兄さんはなぜか拳をぐっと握りしめ、満面の笑みを返された。
(こ、怖い…)
更に森を進むと、少し開けた場所に竜が5頭、各々身体を休めているのが見えた。
(うわぁ!竜だ。カッコイイ!)
黒い竜が1番大きく、次に赤い竜。
後の緑・青・茶色の竜は似たり寄ったりの大きさである。
黒竜と、遠目ではあるが目があった。
「くあん。」
クランに声を掛けながら、逞しい腕を軽く叩き地面に降ろしてもらうと、黒竜のもとに一目散にスタタタターと駆けて行った。
黒竜に呼ばれたからだ。
クランが焦った様子で私に何か言っていたが、竜のことしか頭になかった私には、声が届かなかった。
竜のもとにたどり着くと、竜は大きな体を器用に折り曲げ、私の目線までゆっくり頭を下げ、ォォンと鳴き声を響かせた。
キラっと光る鋼のような鱗は冷たいのかなと思っていたが、触れると人肌のように温かい。
【母様、お初にお目にかかります。我が名はオーマ。我が主共々、末永くよろしくお願いいたします。】
竜がしゃべった!
黒竜の言葉に驚き、触れていた手をパッと上にあげた。
数秒の沈黙の後、行き場のなくなった手を再び降ろし、竜に触れる。
【私は。というより、我が種族は母様に危害を加えたりしないので安心なさって下さい。】
怖がったと思われたのか、優しい声が頭の中で響く。
(そうか。触れている時はテレパシーのような感じで聞こえるのね。)
鼻先部分を大きく撫でると金色の目が細まる。
黒竜も私の体温を実感しているのだろう。しきりに、喉の奥から小さな声を漏らし、頭をスリスリ押しつけてきた。
(可愛い。)
『オーマ。私はマーニャよ、よろしくね。』
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こうして、ウィンクルザームを後にした。




