いつもの仕事
あれから数日後。僕は相変わらず図書館で見回りとかをしている。やっぱり僕はこの仕事の方が気楽でいい気がする。
「亜星さん、あの後はどうなったんですか?」
「何がですか〜?」
「数日前の」
「あ〜、アレですか?」
相変わらず図書館の受付で本を読んでる亜星さんに、僕はため息を一つついた。一体、何の話だと思ったんだろう。
「アレはですね〜・・・事情を話して、ちゃんと依頼人から報酬はいただきましたよ〜?」
「ああいう事で、解決した事になるんですか?」
「まぁ、それも依頼人の希望でしたからね〜」
本から視線を外すことなく、のんびりと彼女は僕の質問に答えていく。
「ちなみに報酬っていうのは?」
「この本です〜、この間この作家さんの新作が出てまして〜」
嬉しそうに亜星さんは一冊の本を取り出す。まーたこの人は、こんな事で本を増やしたのか。っていうか、その一冊の為にあんな危険な事やってるのか。本当にこの人は何を考えているのか、僕には理解できない。
「うふふ、理解できないと思っていますね〜?」
「亜星さんは何を考えてるんです?」
「特に何も考えてませんよ〜」
その言葉に僕は拍子抜けする。何も考えてないなら、最初から理解なんてできないじゃないか。
「ふふっ、わたしは基本的に何かを考えて行動というのは、しないのですよ〜?」
「それは危険すぎやしませんか?」
「わたしの仕事は『情報』に頼ることが多いでしょう?」
「それはそうですが」
「それに『情報』の真偽は、わたしが一番知っていますから〜」
彼女は『情報』が真実か虚実かも見分けることができる。だからこそ『情報』に振り回されることもないし、考えなどなくても状況によって適切な行動も可能なようだ。
「わたしは《情報屋》なのですから『情報』を扱うのに、そこにわたしの『考え』や『感情』があってはいけないのです~」
ニコニコと笑顔で説明してくれるけど、僕には難しい。それは彼女の信条なのだろうか。
「亜星さんはそれでもいいかもしれないですが、僕が困ります」
「それもそうですね〜」
本当にわかってるのかどうか疑わしいが、彼女は何かを考えている。
「僕は亜星さんの為に何ができるんですかね?」
「今のままでは特にありませんね〜」
特にありませんって、それじゃダメじゃないか。酷い。
「貴方は貴方らしく、のんびりとやっていけばいいのですよ〜」
「・・・じゃあ、僕はいつも通り見回りしてきます」
「ついでに返された本を戻してきてくださいな~♪」
相変わらず彼女は分厚い本を何冊かまとめて僕に渡してくる。また重いんだ、これが。
「わかりました」
今はこれが僕の仕事。まだ僕はどうしようもないくらい無力だ。それでもいつかは僕も彼女の助手として、何かできるようにならないといけないだろう。
「僕らしく、か」
今度、個人的に《窓口》さんの所に行くか。僕自身はできることを増やしたいけど、何ができるかわからない。一応、相談っていう事で。
「そうなると、向こうの予定も聞かないといけないな・・・」
予定を考えながら本を戻している途中で、また僕は気付いてしまった。
「アレ以外にも本が増えてるじゃないか」
全く、困ったものだ。まぁ、亜星さんがいいなら別に口出しはしないが。この図書館の管理人は彼女だし。静かな図書館に僕の靴音だけが響く。静かすぎるこの状況にも、もう慣れた。僕は本を戻しながら見回りを続ける。今日も見回りだけで僕の一日は終わった。