合流、のち隔離
「あぁ、二人はこちらと合流するみたいですね」
ネロくんは亜星さんと《窓口》さんの二人から連絡があったと、僕に持っていたスマートフォンを見せた。そこにはメールでこうあった。
『亜星さんの用事が済みましたので、今からそちらに向かいます♪
少しだけそこで待っていてください』
本当に《窓口》さんは何か終わったりすると、ちゃんと連絡をしてくれるんだな。それに比べて僕の上司ときたら、多分《窓口》さんが連絡したからって僕には何もないのか。しばらくその場で待っていると、二人は遠くから歩いてきた。
「あ、二人共いましたね〜」
呑気に亜星さんは僕らに大きく手を振っている。
「それにしても亜星さん達、早かったですね」
「でしょう?でも、ちゃんと必要なものは手に入りましたよ〜」
亜星さんは持っていたタブレットで資料を僕らに見せてくれた。そこには、ストーカーの常習犯の名前と顔写真、今の住まいの場所から電話番号まで色々な『情報』があった。
「これだけの『情報』をどこから?」
「それは内緒です〜」
ニッコリ笑って、シーッと亜星さんは人差し指を立てる仕草をする。これ以上は何か怖いので、僕もネロくんも触れないが。
「それで、何かわかったんですか?」
「まず、この『情報』の山から条件の合う人物を絞らないと」
「絞れたら『いつ、どこで、何をしていた』かを、わたしが視ないといけませんね〜」
亜星さんが楽しそうにタブレットを操作する。すると条件が合う人物がリストアップされた。
「条件が合うのがこれだけです〜」
「亜星さん、ほぼ一択なんですけど」
タブレットには一人の男が写っていた。そんな何人も凶悪なストーカーが、同じ地域にいてたまるか。それこそ狂った世界の出来上がりだと僕は思う。
「ネロくん、覚えられました?」
「大丈夫です、あと住所からその人物がこの辺に住んでるようです」
「それと今回の依頼人も、この辺りに住んでますね〜」
「彼が何か行動を起こす前に、こちらも動かないといけませんね」
☆
僕らは場所を移動して、男が現れるのを待つ。ここは今回の依頼人の自宅マンションが見える家の屋根の上。依頼人はさすがアイドル、住んでる所も結構いい部屋なんだろうな。なぜ僕らがここにいるかというと、亜星さんと《窓口》さんの二人が行った占いの結果だ。どうやら男はこの辺りに現れると出たらしい。
「うふふ〜、今回は《窓口》さんに占いと同時に未来予知もしていただいたので、ほぼ確定事項です〜」
「亜星さん、それなら未来予知だけでよかったのでは?」
「視える未来は無数に枝分かれしますからね、占いの結果から予知することで可能性が大きいものに絞れます」
なるほど、それなら少しだけ納得いく。それにしても《窓口》さんは何でもできるんだな。何て言うか、万能というか。全知全能とは彼女を指すのではないだろうか。
「さすがに『何でも』はできませんよ、わたしは全能ではありませんから」
それでも僕からしたら全能に近いような気がするけどな。僕が無能なだけなんだろうけどね。
「それだけ《窓口》さんの力が強いという事ですよ〜、わたしも《窓口》さんには一度も勝ててませんからね〜」
「えっ?」
「本気すら出してもらえませんでした〜」
最初は亜星さんの冗談かと思っていた。だが、どうも本当の事らしい。
「本気の《窓口》さんに勝てる魔術師というのは多分、島にはいないですよ〜?」
「あら、そんな事はないと思いますよ?」
《窓口》さんはニコニコと笑っているが、どこまで本気で言っているのだろう。
「お師匠様、主、来ましたよ」
「さすが《窓口》さんです〜、では行ってきます」
亜星さんは屋根から飛び降りる。トンッと着地して男の方へ向かう。
「別にここからでも視えるのでは?」
「亜星さんは、もう既に視てますよ」
「あの男が原因で間違いないんですか?」
「お師匠様が行ったっていう事はそれで間違いないでしょう」
うーん、やはり僕にはよくわからない。僕はもう少し亜星さんの事を知る必要があるようだ。
「ところで《窓口》さんは行かないんですか?」
「だってこれは亜星さんの案件ですからね、そもそも《窓口》は相談者と《相談員》の仲介者です」
あくまでも今ここにいるのは亜星の手伝いで、亜星の仕事には口出しはしないということか。あと、手も出さないと。
「案件に関してどうするかは、亜星さんと相談者が決める事ですからね」
どうしても亜星さんではできない事は《窓口》さんや他の《相談員》が手伝いに来てくれる。やはりそれ以上は関わることはないが。その亜星さんは男と距離を取り、何か話をしている。今回はどうするつもりなのか。っていうか、アイツ刃物持ってるではないか。
「気付いた?」
「・・・え?」
「さぁ、貴方は普通ならどうします?」
そんな事は決まってる。僕は携帯を出して警察に通報する。ただそれだけだ。
「亜星さんもだけれど、普通は言わなければわからないでしょうに・・・ねぇ?」
《窓口》さんは何か言っていたが、通話中の僕には聞こえていなかった。
☆
その後、男は警察によって取り押さえられ連行された。
「これで良かったんですか?亜星さん」
僕らは現場から離れた場所にいる。警察が来るまでに亜星さんは男を取り押さえるのに素手で対応していて、少しだけ左腕を切ってしまっている。
「いいんですよ、これであの人はただのストーカーから傷害事件の容疑者になりました〜」
ニコニコと嬉しそうに亜星さんは話しているが、僕では絶対出来そうにない、っていうかやりたくない。
「まだ少しの切り傷だからよかったものの、これで致命的なことになったらどうするつもりだったんですか?」
「大丈夫です〜、その時は《窓口》さんもいましたし〜?」
ニコニコと視線を亜星は目の前にいる《窓口》さんに向ける。それに対しては《窓口》さんは何の反応もしない。
「これで大丈夫だと思うんですが」
「はい大丈夫です〜、傷自体も大したことなかったですが、やはり痛いですからね〜」
腕を眺めたり、振り回したりして亜星さんは異常がないか確かめている。
「他の人を犠牲にするわけにはいかないでしょう?」
それはそうなのだが、僕が言いたいのはそういう事ではなくて。
「いや、逮捕させるならもっと別の方法があったでしょう?」
「銃刀法違反くらいではダメです、これくらいしなくてはね〜」
つまり野放しにしないように、わざわざ自分から傷害事件を起こしたのかこの人は。しかも容赦ない。きっと拘束されてる間は依頼人にも何もないだろうし、あの男も調べられれば色々と余罪は出てくるので、簡単には釈放もないだろう。
「これで依頼は終わりですか?」
「あとで経過も見ながらってところですね〜」
「じゃあ、帰りますか」
僕の初めての亜星さんの手伝いはこれで終わった。