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星の断章  作者: 星咲 美夜
一頁目
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異世界からの第一歩

僕が亜星(あかり)さんの仕事を手伝う日がきた。


「お久しぶりですね」

「《窓口》さん、お久しぶりです」


ここは『夢見市』の外れにある丘。その丘の上に建つ一軒の洋館が《窓口》さんの住居にして、仕事場だ。どういうわけか、その《窓口》さんとネロくんは玄関の前で僕らを待っていた。相変わらず《窓口》さんは四つ葉の装飾の深緑のリボンの髪飾りを着けている。そういえば彼女が髪飾りを外しているところは僕も亜星さんも見たことがない。


「さて、行きますか」


《窓口》さんは白いバッグから金色のハートの鍵を出す。この鍵は特別なモノで、移動に使う以外にも施錠された扉や窓を開け閉めすることが可能らしい。特に鍵に何かをするのではなく、普通にドアが出現する。


「少し魔力を込めるだけで使える便利な鍵なのですよね〜、わたしもそういうの欲しいですね〜」

「それなら、今度の『情報』の対価は鍵にしますか?」

「うふふ、いいんですか〜?」


後で話を聞くと《窓口》さん自身の鍵は自分で作ったそうだ。本当ならそういう物は《道具師》や《扉屋》達でも作れるのだが、彼女はそれだとすぐに壊してしまうのだとか。確か亜星さんも同じように(本人曰く安物の)魔術書や呪術書が亜星さんの力に耐えられないということが過去にあった。


「それで何度、主は《境》さんに怒られたことか・・・」

「大変ですね、そっちも」

「まだ、お師匠様ならそういう事は滅多にないでしょう?」


まぁ魔術書自体は亜星さん本人の物だったし、他人に迷惑はかかってなかったな。使う人間の力が強いと道具にも耐えられる限界がある為に、壊れることは多々あると亜星さんは言っていたな。だけど《窓口》さんは本当にそれが多くて困るとネロくんは嘆いている。ちなみに彼曰く、それでも《窓口》さんはかなり力を抑えてる方らしい。


「二人とも置いていきますよ〜?」


僕とネロくんが話をしている間に、亜星さんは《窓口》さんと一緒にさっさとドアの向こう側にいる。


「あ、今行きます」


慌てて僕とネロくんもドアの向こう側に行く。ドアの向こう側は人目のつかない路地裏。これはあまり目立たないようにするためだ。島の外で魔術師達や魔力を持っている者というのは、極力その力を公にしない。ばれた時には、もれなく亜星さんの情報操作と《窓口》さんによる記憶の改竄がついてくるという。全く恐ろしいセットだ。


「とりあえずこちらの地図を渡すので、二人で色々聞いてきてください」


僕に渡された地図には三つの丸いマーカーのようなものがある。


「それが今、わたし達がいるところですね〜」

「ネロくんだけならわたしの居場所が判るでしょうけど、今回はもう一人いらっしゃるので」


三つのマーカーで山吹色のが亜星さん、黒いのはネロくん、青いのが僕だという。


「あれ?《窓口》さんのは?」

「あ、わたしは亜星さんと共に行動しますので」


それはそれで不安しかない。この二人だと何をしでかすか。誰かブレーキ役はいないのか。


「何をする気ですか?」

「ちょっとした情報収集ですよ〜」

「それは本気で言ってるんですか?」

「その為に《窓口》さんにも協力していただくのですよ〜」


これだからこの二人は手を組ませると、洒落にならない。


「大丈夫ですよ〜?そんな大したことをするわけではありませんから~」


いやいや、そういう問題じゃないから。もう嫌だこの上司。言葉が通じない。


「それに、今回は時間がありませんよ〜」

「どういう事ですか?」

「島の外では魔術の行使が困難なんですよね〜」

「此方では超状現象や心霊現象などは数少ない事例ではあるものの、魔術とかは科学によって否定されてますからね」


僕にはその言葉の意味がどういうことかよくわからないけど、彼女達も外では色々と大変なんだろうな。


「とにかく、行きますよ〜」


《窓口》さんと亜星さんは目的地があるのか、二人でさっさとどこかに行ってしまう。


「僕らも行きますか」

「行くってどこに?」

「僕らが行く場所は主から聞いてます、それに何かあったら主達も僕らに連絡をしてくるでしょうから」


亜星はさん僕に何も言ってないけど、ネロくんに《窓口》さんは大体、今日やることは伝えてるんだな。多分、彼は一回言っただけで覚えてくれるから楽なんだろうけどね。


「僕はここでやることは全く知らないんですよね」

「そうでしょうね、お師匠様はそういう人です」

「そういう意味では、まだ《窓口》さんのが上司の方が良かったとか思います」

「それはそれで大変ですよ?時々、あの人も何を考えているかが分かりませんから」


地図を頼りに僕らは歩きながら話す。


「お師匠様と主は性格的には似ていますが、違うところがありますね」

「違うところですか」

「それはきっとそのうち解るでしょうね」


うーん、違うところとはどこだろうか?僕が考えている様子を彼はどこか笑って見ているような気がした。



  ☆



「この辺りで大丈夫ですかね〜?」

「それでは、始めましょうか」


どこかのビルの一室。亜星はそこで持ってきていたノートパソコンを起動させ、ケーブルを繋ぐ。


「──結界による空間の範囲指定、範囲外の時間停止の実行《一時停止》」


《窓口》が札で結界を張る。その瞬間、結界の外の時計の動きはピタリと止まる。


「これでよし、と」

「それでは始めま〜す!」


亜星がカタカタと何かを打ち込んでいく。物凄いスピードで画面には色々な文字の羅列が現われる。


「えっと・・・これをこうして、ここはこれで・・・よし」


亜星が満足そうに笑う。どうやら目的の『情報』を見付けたようだ。そしてその『情報』をタブレットに打ち込んでいく。


「ところで亜星さん、どこにアクセスしてるんです?」

「聞きたいですか〜?」


《窓口》は首を横に振る。なんとなく、その言葉で答えが解る。


「そのうち亜星さん、捕まりますよ?」

「あら、この結界の外ではまだ一秒と経ってはいないのでしょう?」

「・・・そうですね」


《窓口》が結界の外の時計を見る。時計の秒針はピタリと止まったままだ。


「必要な『情報』は手に入れました~、電源を落として・・・と」

「では、結界も解きますね」

「はい、お願いします」


《窓口》は札の一枚をクシャリと握る。すると時計の秒針は再びカチリと動き出す。


「あ、二人にも連絡入れますか」

「そうですね〜、わたしは特に彼には何も伝えていませんし」

「少しは必要なことくらいは教えてあげたらいかがですか?」

「今回のことに関しては彼には申し訳ないです~、ただわたしが忘れていたのですよ~」


遠くから靴音が聞こえる。誰かが来るようだ。


「そろそろ、ここから離れないと」

「そうですね〜」


いつの間にか、そこに二人の姿はなかった。

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