僕の仕事
今日は寝すぎたのか、時計をみたら昼過ぎだった。僕が台所へ行くと、亜星さんの食器が流しに置いてあった。しかも、ご丁寧に水に浸かっている。ちゃんと食べてたんだな。まぁ、朝のだろうけど。僕の昼食も、もちろん昨日の残りのカレー。それにしてもやけに静かだ。ふとテーブルを見ると一枚のメモがあった。
『今日は輝と、少し仕事で出掛けてきます。
もしかしたら遅くなるかもしれないので、何かあったらメールか電話ください。』
いつの間に家を出たのかはわからないけど、今日、家にいるのは僕一人か。なんだか仲間外れ感はするが、いつものことだし、今に始まったことじゃない。でも、起こしてくれても良かったんじゃないか?僕は休館日は大体、敷地内の掃除をしている。普段は殆んど、館内の見回りと亜星からの雑用で終わってしまうし。ただ、窓の外を見ると今日は天気が悪い。今日は部屋の掃除でもするか。
☆
この家の殆んどを普段は輝ちゃんが掃除しているみたいだが、さすがに僕の部屋には無断で入ることはしないようで、部屋を掃除したい時は僕に一言声をかける。たまに、それを忘れている時はそのまま放置しているみたいだ。
──僕の部屋は一階の奥にある。殆んど僕は寝る時くらいしかいないので、ベッドとクローゼットと、ちょっとした机と椅子があるだけの殺風景な部屋。
亜星さんのように読者をする趣味は僕にはないし、掃除を終えたら何をしようか。そんな事を考えていたら、ちょうど彼女から着信が入った。
「もしもし?」
『──もしもし?今、何してました〜?』
「何って、自分の部屋の掃除ですけど」
『──そうですか〜・・・少し頼みごとなのですけれど~、いいですか〜?』
なんでも出掛けた時は、今いる場所も雨が降っていなかったらしく、今日の仕事で必要なことは終えたので、僕がいる街では雨が降っているので、傘を持って迎えに来てほしいらしい。
「亜星さん達は今どこにいるんです?」
『──どこって《窓口》さんのところですよ〜?』
それなら《窓口》さんに送ってもらえばいいのでは?確か、彼女はこの島を行き来するのに魔法の鍵を使っている。
『──それが・・・当初の予定よりも遅くなってしまったので、言いづらいんですよね〜』
どうやら長居しすぎて迷惑かけたので、さらに迷惑はかけたくないと言いたいらしい。
「今から行っても・・・僕を待ってる間、さらに迷惑だと思うんですけど?」
『──あぁ~・・・言われてみれば、それもそうですね〜』
やはり彼女はどこか抜けている。
『──それでは、今から帰りますね〜』
「はい、バス停まで迎えに行きますよ」
お願いします〜と言って、彼女との通話は切れた。やれやれ、全く困った人だ。
☆
僕は時間を見て、亜星さん達を迎えに行く準備をする。窓の外を見ると結構、雨が降っている。僕のビニール傘と、彼女の黄色いギンガムチェックの傘を傘立てから抜き、玄関を出る。誰も来ないとは思うが、鍵も閉めておかなくては。亜星さんの大事なモノもあるし。図書館付近のバス停まで歩いていく。そこで少しバスが来るまで待つ。一台のバスが止まり、亜星さんと輝ちゃんが降りてくる、亜星さんは一つの大きな封筒を持っていた。
「亜星さん、お帰りなさい」
「ただいまです〜」
僕が持っていた傘を彼女に渡すと、黄色いギンガムチェックの傘を開く。
「ありがとうございます〜、どうせなら相合傘でも良かったんですけれどね〜?」
本気なのか冗談なのかは全くわからないが、彼女は僕のことを見ながら言う。そんな事を言ってる内に、僕らは家の前まで来ていた。鍵を開けて中に入る。
「今日は仕事で『夢見市』に行ってたんですか」
「依頼人と会ってたんですよ〜、色々と打ち合わせをしてきました」
亜星さんは持っていた封筒をリビングのテーブルに置き、椅子に座った。僕は彼女の向かいに座る。
「どんな内容なんですか?それ」
「気になりますか〜?」
「無理に教えてくれとは言いませんけど」
彼女は少し考えて、僕の前に封筒の中身を出す。
「今回のお仕事ですが、正直、わたしだけでは無理そうなんですよ〜」
「それは《窓口》さんがいないと、っていうことですか?」
「移動という意味ならば、そうなのですけれど~」
どういうことだろう?移動をするには《窓口》さんか、空間魔法が使える人がいないと、僕らは島の外には行けないというのは聞いたことがある。
「正直な話、彼女自身も、この仕事をわたしに回すか迷ったそうなんですよね~」
《窓口》さんから亜星さんに回ってくる仕事の大半は、人や物探し。さらには、色々な画像解析やら情報操作などだ。亜星さんは『情報』を扱う事に関しては、誰よりも優れている(と言われている)。彼女曰く、ハッキングから情報の真偽の創造から捏造、なんでもありらしい。ちなみに、彼女が捏造したり創造した『情報』は《窓口》さんに頼めば『噂』や『事実』として実現してくれるとの事。もちろん《窓口》さんは誰が『噂』を流したか分からない状態にしてくれるから、亜星さんとはそういう意味で相性がいいんだとか。僕からしたら、その時のこの二人は最悪な組み合わせだけどな。あらぬ噂を実現されるとか怖すぎる。ただ、それも過去に何回か実行済みだというのだから本気で恐ろしい。
「大丈夫ですよ〜、まだ間違った使い方をしてませんから〜」
まだっ?!まだって何?僕からしたら十分、それ間違ってるよ?悲惨な被害者はいないと聞いてはいるが、実際はどうなのかはわからないし知りたくもない。
「まぁ、仕事の話に戻しましょうか〜?」
「で、亜星さんだけでは無理ってどういう事なんですか?」
「それがですね〜、今回はとあるアイドルがストーカーに遭っている、というものなんですが」
そのストーカーというのは、非通知での無言電話が毎日、さらには本人も心当たりがない為に誰だか判らず、事務所もこのアイドルを売り出し中なのでできれば公にしたくないのだとか。
「そのストーカーを捕まえてほしいって事ですか」
「簡単に言えば、そういう事ですね」
「それなら警察に任せた方がいいのでは?」
「公にしたくない+何かある前に解決をって事なんですよ〜」
それなら《窓口》さんの方がいいのではないか?僕の考えていることは彼女にはお見通しだったようだ。
「《窓口》さんだと犯人逮捕じゃなくて、犯人そのものがいなくなっちゃいますよ〜?」
「え?」
「存在そのものがなかったことになりますね〜、きっと」
クスクス笑っているが、言ってることは物騒だ。存在そのものがなかったことにって、何をするつもりなんだろう。
「情報収集するにも、わたしと輝だけでは難しいなってことなんですね~」
「僕も行くんですか?」
「《窓口》さんの所のネロくんもお手伝いしてくれるみたいですから、一緒に行ってほしいのです」
さすがに僕も、知らない所に一人で行くのは気が引ける。ネロくんが一緒なら少しは安心だろう(何度も島の外へ行ってるらしいし)。僕は彼女の仕事を手伝うことになった。