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星の断章  作者: 星咲 美夜
一頁目
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情報屋の暇潰し

「いつも言ってますけど、亜星(あかり)さん?必要なことがあるんだったら、僕が動く前に言ってくれませんかね?」


僕は忘れ物を亜星さんに渡し、見回りの途中に来たメールの文句を言った。いつもそうだ、僕が何かしている時に限って、彼女は何かしら言ってくる。彼女に自分で動くという選択肢は、最初からない。


「だって~、言う前に行ってしまったんですもの〜」


いつも見回りをする時は一声、彼女に掛けている。ただ今回に限っては彼女は本を読んでたし、僕も声を掛けるのを忘れてたかもしれないが。


「それに、わたしは未来予知ができるわけではないのですよ~」

「その気になれば『いつ、どこで、何をしているか』も、わかるんじゃなかったんですか?」

「それは『過去』の事を『情報』として視た時の話です~、『未来』は不定故に、確定した『情報』というのは得られないんですよ〜」


未来は今の行動によって変わり、その未来の分だけ『情報』は無数にある。だからこそ、前もって亜星は『情報』を伝えることが出来ないという。


「亜星さんは占星術、できるじゃないですか」

「あれは、未来予知をするためにあるわけではありません~、星の動きから今の行動を変えたりすることで、より良い未来へ導く為のモノです~」

「それは、未来を確定させるのとは違うのですか?」

「確定したところで、それは一時的なモノですね〜」


確定したところで、やはりその先の未来は無数にあるということなのか。


「占星術にしろ占いにしろ、それはあくまでもその時に導きだされた答えの一つなので、それが正しいとも限りませんから~」

「もしかしたら最善の答えかもしれないし、ただ単に最悪を回避するだけの答えかもしれないっていうことですか?」

「そうですよ~、それに大まかな未来を知りたいのなら、わたしではなくて《時の管理者》・・・《時槻(ときつき)》さんの所に行くべきです」

「あの人、そんな事を教えてくれるんですか?」

「高くつきますけどね〜」


最後の方は椅子を座りながら、それをクルクルと回して楽しそうに話す。あんたは子どもか。壁に掛かった時計を見ると、もうそろそろ閉館時間だ。


「では、戸締まりをしましょうか~」

「はい」



  ☆



これはいつもの事だが、僕が一階の戸締まりをしている間に、亜星さんは二階と三階の戸締まりを終えている。そんなに僕は鈍かっただろうか。


「終わりましたか〜?」


ちょうど、彼女が五階の吹き抜けの所から、こちらを覗き込んでいる。僕は大きく○と腕で作ると、彼女は頷いてそこから飛び降りた。


「亜星さんっ?!」


亜星さんは一階のフロアの手すりを掴んで、勢いをつけて床に着地する。一体何をやってるんだ、この人は。


「うふふっ、驚きました〜?」

「当たり前でしょう、何やってるんですか?!」

「この方が早く移動できますから〜」

「亜星さん、間違ったら死にますよ?」

「よい子は真似しちゃダメですよ〜」

「よい子じゃなくても真似しちゃダメです」


後で聞いたところ、彼女は移動が面倒くさいと、よくこうしているらしい。本当に心臓に悪いのでやめてください。受付まで戻ってきたときに、一人の青年が入ってきた。


「閉館時間なのに申し訳ありません」

「あら、ネロくんではありませんか〜」


漆黒の髪と琥珀色の眼、彼は件の《窓口》さんの所の同居人の一人だ。この時間に来るということは、きっと何か欲しい『情報』があるのだろう。


「この間はどうも〜」

「また、僕の主から貰ってきてほしい『情報』があるとの事でして」

「《窓口》さんから詳細は、聞いてありますよ〜」


亜星さんは受付の下から資料の束を出し、ネロに渡す。


「ありがとうございます、これは主からです」

「うふふ・・・こちらこそ、ありがとうございます〜♪」


亜星さんは目を輝かせて、ネロから一つの封筒を受け取った。これは《相談員》の仕事なのだろうか。ちょうど明日は休館日だし、何か《窓口》に仕事を頼んでたところに、彼女から『情報』が欲しいと言われていたのだろうか。


「亜星さん、また本でも貰ったんですか?」

「今回は違いますよ〜」

「あれ?この間の方のこと、言ってなかったんですか?お師匠様」


お師匠様?そういえば、いつ彼は弟子だったんだろう?でも、僕が来た時にはもう亜星さんは彼からお師匠様って呼ばれてた気がする。僕が気にしてなかっただけか。


「あぁ、貴方がここに来る前に一時期ですが、情報処理とかを教えていただいてたんですよ」

「彼は一回教えただけで、殆んどの事を覚えてしまいました〜」


そういえば、彼はなんでも一瞬で覚える能力があると《窓口》さんも言っていたな。だからこそ今はその彼女の助手として、情報処理や《相談員》達のスケジュール管理などを担当しているようだ。


「ネロくんは一瞬のうちに、見たことや聞いたことを一瞬で覚えられるのですよね〜、少し羨ましいです~」

「ただ、この能力のせいで、何も忘れられないのが辛いところです」


僕達からしたら、一瞬で全て記憶できるのは羨ましいとは思うけど、それを忘れられないのは辛いだろう。嫌なこともずっと覚えているということなのだから。


「では、コレが頼まれていた『情報』です~、あと《窓口》さんによろしくお伝えくださいね〜」

「はい、伝えておきます」


あまり長居するのも迷惑だろうと、彼は帰っていった。僕は消灯と図書館の入口を施錠をする。



  ☆



僕らは普段、図書館が開いてる時間帯以外は、敷地内にある一軒家に住んでいる。これは、図書館で何かあったときにすぐ対応するためだ。亜星さんは家のドアを開けて、さっさと二階にある部屋に行ってしまう。普段の司書の仕事(殆んど受付で本を読んでるけど)とは別のスイッチが入ったようだ。こうなったら、暫く部屋からは出てこない。しかしよくやるよ。僕ならきっと、夕食の後でとか後回しにしてしまう。とりあえず、僕は彼女の代わりに台所へ向かう。


「あ、お帰りなさい」

「ただいま、(ひかり)ちゃん」


台所には山吹色の髪と、橙色の眼の幼女が台に乗って料理を作っていた。彼女は輝、亜星の仕え魔。ちなみに、彼女の本当の姿は山吹色の烏だ。


「夕飯作ってくれてたのかい?代わるよ?」


僕は彼女にそういったけど、もうすぐ出来ますから大丈夫ですよと笑って断られた、やんわりと。作っていたのはカレーだった。よく作ったな、その幼女の姿で。


「お嬢様はまたお仕事ですか?」

「あぁ、なんでも《窓口》さんから仕事を貰ったみたいだね?」

「また街を飛び回るんですかね、アタシ」

「僕に手伝えることがあれば言ってよ?輝ちゃん」


僕の最後の言葉に、彼女はただ笑って頷くだけだった。



  ☆



亜星さんはやっぱり夕飯の時間になっても、降りてこなかったので、僕は彼女のいる部屋をノックする。もちろん夕飯のカレーを持って。


「亜星さん?今、大丈夫ですか?」

「はい、どうぞ〜」


今回は一体、どんな仕事なのだろう?それも少し気になる。


──今いる部屋は書斎になっていて、隣には彼女の寝室がある。書斎といっても、まるで図書館を縮小したような部屋だ。天井まである本棚と、入りきらなかった本の山が床にいくつか。さらに誰かに売ったり、渡す『情報』の書かれた書類も床に無造作に置かれていた。僕にはわからないけど、彼女はどこに何があるかはちゃんと把握できているのだそうだ。


「夕飯、こっちのテーブルに置いておきますね」

「ありがとうございます」


この部屋にはテーブルが二つある。片方は壁際にあり、彼女が仕事で使っているパソコンが上に置かれている。もう片方は忙しい時に食事などをするために置かれている。


「今回はどういったお仕事なんです?」

「今回ですか〜?うーん・・・暇潰しにしかならないような感じですかね〜、渡された資料だけを見るとですが」

「輝ちゃんがまた飛び回るのかって、心配そうに言ってましたけど」

「島の外の案件なので、その心配はないでしょうね~」


島の外。僕は産まれてこの方、この島の外には一度も行ったことはない。多分、殆んどの島で産まれた住人も僕と同じだろう。妖魔達は知らんが。


「でも《窓口》さんからの仕事なんでしょう?」

「そこが怖いところなんですよね〜、暇潰しだと思っていたら、思わぬ穴がある時がありますから」


ついでに、僕は彼女に気になっていたことを聞いてみた。


「亜星さん、少し気になる質問をしてもいいですか?」

「なんですか〜?」


相変わらずパソコンから目を離さずに、彼女は僕の言葉を待っている。


「仕え魔と使い魔の違いって、あるんですか?」

「解釈は人それぞれですが・・・使い魔は主人の指示されたことしかできないけれど、仕え魔は指示されたこと以外でも動けるということですかね〜?」


つまり、使い魔は主人が指示して初めて動けるのか。彼女が言うには、その他にも使い魔は絶対に自分より力が弱いから、色々と制約があるのだという。


「じゃあもう一つ、亜星さんは僕のことをどういった感じで、ここに置いてくれてるんです?」

「大切な助手だと思っていますよ~?」

「その割りには、そういう仕事には全く関わらせてもらえてないと思うんですが」

「今はその時ではないですからね〜」


いずれ僕も手伝える時が来るということなのか。僕はほとんど無力な人間だから、危険だと彼女は判断しているのか。


「貴方はまだ気付いてないだけですよ〜」

「どういうことです?」

「それも後々わかるでしょうね〜」


無力な僕でも、何かしらできることがあるだろうというのは知っている。現に《窓口》さんの幼なじみの一人の青年が、妖魔達に対して対抗できる手段を持っているからだ。でも、今は僕が無理に手伝って彼女を困らせる訳にはいかないから、今回も大人しくしていようと思う。


「邪魔になると思うので、僕は戻りますね」

「はい~」


僕は彼女の部屋を出る。そうして夜は更けていった。

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