餓光月
食べたい。お腹すいた。食べたい。
でも、ダメ。今日はダメ。お腹すいた。ダメ。
白い装束を身につけた女性が前に突き出される。
何度も人間の言葉を聞いてきた。
イケニエっていうらしい。
コレを食べて空腹を埋める。
いつものことなのに、今日はダメなんだよ。
独りぼっちだったボクに話しかけてくれたトモダチ。
夜の空の輝きを一緒に見てくれたトモダチ。
朝露に洗われた森を一緒に駆けたトモダチ。
ボクのたった1人のトモダチ。
ねぇ。お願い。「食べていいよ」って言わないで。
涙に濡れた笑顔で「さよなら」って言わないで。
ボクが皆と違うからいけないんだ。
ボクが銀の毛を持つからいけなかったんだ。
畏怖され、崇められ、イケニエを与えられる。
君のおかげで知ったんだ。朱い血より温かく、クセになって。
誰かが隣に居る安心を。
お腹すいた。お願い。ボクが飢えに飲み込まれないうちに逃げてよ。
意識が遠くなるよ。牙が疼くよ。ねぇ。お願い。ボクの…トモダチ…。
独りぼっちの銀狼は月に向って咆哮した。