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MILD•War  作者: Ruru.echika.
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草原への逃げ道

「…振られてしまった。」



私は、携帯の画面を見つめながら呟いた。

アットホームな私の家の中で呟こうものなら、母が駆け寄り妹が茶化し父が無を貫くであろう事は分かっていたので、小さく小さく聞こえない程度の声で呟いた。

二階の自分のベットの上に来て始めて、押し込めていた疑問が脳内で自問自答の嵐に飲まれる。



やっぱり連絡が鬱陶しかったのかな。

向こうが学校忙しいのは分かっていたから連絡は約2週間我慢した。

電話もメールもしないで、相手の返事を待っていた。

やはりそれがいけなかったのだろうか?

そもそも付き合おうと言ったのは向こうだ。

全部の事を任せていた私に呆れたのだろうか。

面倒だと…思われたのだろうか。

しかし、別れを切り出された今。

復縁を迫ってもウザがられるだけだろうと思った私は、きちんと好きだと感じて付き合えて楽しかったと入れて返事を返した。



…ちゃんと好きになっていたんだと思う。

幼馴染と言う関係も全て含めた上で、異性として好きだった。

安心してた。触れてみたいと思った。

だけど多分、人とは違っていたんだろう。

普通なカップルがどんなものなのかは分かりかねるが、確かに不安であったこの時以外はかなり楽しかった。

だから感謝の気持ちを送ったのは間違っていなかったと思う。

…向こうが悪いところなんて一つもないと言えるほどは無いが、私の知識の無さに呆れてしまったのではないだろうか。



「…やっぱりなー」



私はあたまをかきながらため息をついた。



振られた。

理解するまでに時間はかからなかった。

どれが原因なのか理解する方が良いのだろうか。

色々無知な所があるとして、それを含めて彼女とする程の事が出来無いと言う返事だった。

…男は本当に難しい。

理由が彼女として見れないとの事だ。



私のどこが悪かった?



そんなのどこもかしこもだ。



悲しいと思っているのは、それだけ好きだったのかなと思う反面、押し殺してしまう自分の我慢強さが今はとてつもなく憎らしい。

胸の奥がぎゅっとなった。

楽しかった時間が無駄だとは思っていない。

思って居ないが、悲しかった。

会って話している間も、向こうは困って居たのだろうか。

そんなのしたくなかったと嘆いた所で、もう遅い。

過去は取り戻せない。

叫びたくても、下には家族が居る。

泣きたくても泣けない自分が居る。

あぁ、なんでこんなに我慢してしまうんだろうか。

こんなにぎゅっと締め付けられているかの様に苦しいのに。

私は感情を出せない。



制御するのはなんでだ。

昔から飾らない性格の裏には隠し通すと言う裏表の自分が居る。



家族や友達にはバレない。

それ程までに隠し通す事についてはプロと言える程の経験がある。

親でさえ騙すこんな奴、本当の意味での友達が出来るなんてあり得ない。



信じていないが頷くスキルを持っているのは楽だ。

人の顔色を疑い、場の雰囲気に任せてキャラを演じて行く。

どこに行っても素が無いのは正直しんどいが、それを崩すだけの自信が無い。



聞くに耐えないと罵られたら、泣くと言う演技まで出来る。



根っから、人を信用出来無いのか。

親さえも。親友と呼べる友達でさえも。



私はやっぱり、変なんだろうなと思える程におかしいのだ。



「こんな時、他の世界に行けたらなあ」



新たな相手をすぐに探そうとは思えない。

涙を流す事も出来無い。

そんな私は、なにを考える事も出来無い。



だから、現実からの逃避を図る。



だけど…



「そんな事出来るわけ無い、って事も分かってるんだよねえ」



一人で何を呟いているんだか。



どこか現実的に考えるのは脳の裏だけだ。

それを言葉として口から出るのは、弱音を吐く時。



常に明るく抜けているキャラを守り抜き。

毒舌を交え、周りに立ち回れる程の人脈を持つのは、自分を守ってくれる様な囲いを作る為。

これを素だと思っているのは周りと親だけだ。

自分自身は心の中で冷ややかに現実を見ている。

どこか男性的に立ち回るのも、女を惹きつける為である。



男に産まれたかったな。

女性を守る立場で、惹きつけて、優しく出来る様な紳士は理想だ。



…まあそんな事はどうでも良いのだが。



「…旅行行こうかなぁ」



この間お母さんに一人はダメだと言われていたけど、理由はどうとでも作れる。

自分で最低な人間だと決めているのでそこは割り切る。



しかし、こう落ち込んでいるのも長くは続けてはならないだろう。

顔に出るものは出るのだ。

親や妹。友達に悟られ無いような顔に戻さねばならない。

割り切るのは得意だから、心機一転で木曜日には何処か遠くに行こう。

そして割り切ればいい。



どれだけ削れるか分からないが、削るだけ削ろう。

まだ若い。やり直せるし切り替えられる。



傷付いて弱い様な人間じゃないのはよく知っている。

私なのだから。押さえつけるのは得意だ。



携帯を閉じると、部屋の中が真っ暗になった。

ああそうか。部屋の電気をつけていない。

携帯の明かりしか無かったのだから当然と言えば当然だ。



私は苦笑し、ベットから立ち上がろうとした。

ーーー…その時。



ホタルの様な淡い光が、窓から見えた。

一瞬固まって、光の点滅を目で追った。

黄色に近い光は右から左へふわふわと浮かんでおり、それを何度か繰り返した後は左窓の中央でピタリと止まった。



人魂、か?



声にはならなかった。

もしそうだとして、それが家族に知られたらどうだろう。

驚くに決まっている。

それはぜひ避けたい問題だ。

だがその時私は、なぜだかこの世とは違う空間に居るのではないか、そう思ってしまっていた。

振り返るとちゃんと母と妹のベットはあるし、その先に繋がる部屋には父のベットがある。

中央左には下へと続く階段があるのに…下には人の気配を感じない。

……降りるか?いや、今は割とどうでもいい。

今の気分で事を進めるのには、きちんとした確証はないが、今さっきまでの事情もある。

少し刺激的な事をしてみたいと言うのはあった。



「………」



私は携帯と充電器を握り締めながら、他に必要な物は無いか探す。



…時計、は…いるかな。



なぜか別の世界へ行けると信じていた私は、頭がどうかしてたのかもしれない。

でもそれ程までに、脳味噌がぐちゃぐちゃだったのだと思う。



腕時計を左腕に巻いて、携帯をポケットへ。

簡単な服を二枚と短パン。

タオル、ブランケットやマフラー等を少し大きめのリュックサックに詰めて、私は勢いよく窓を開けた。



「…もし連れて行けるのなら、私をこの世界とは違う所…切り替える為に必要な所に連れて行って!」



割り切っていたからか思いのほか大きな声が出た。

それを隠そうとした私の手は、自然に口元へと上がって行った。



そこには、向かいの家のベランダは無く。

緑の草と赤と青と白の花に囲まれた、広い草原が広がっていた。



「……ウソだ、本当に?

向かいの家が無い上に、こんな…」



マジで?



私は嬉しいのか驚いているのかよく分からない声を上げた。



別の世界へ繋がっている。



私の好奇心はそれだけで十分に動かされた。



両親と妹へ、書き置きはしてある。

しばらく旅行に行ってくると書いた。



旅行は旅行でも違う空間に旅行とは、なんと面白い事だろうか。



私はベランダを乗り越え、裸足のまま草原へと降り立った。



**********



草原は広かった。



家のベランダが見えなくなる頃には、膝まで程の草が生えた場所へと来ていた。

草花に特別詳しい程知識は無いが、それでも見た事の無い花や草だ。

実際に私の居た所にもこんな草が生えているのだろうかと思いながら、その場にしゃがみ込む。

螺旋状の葉を空に向かって伸ばしている草。

花びらが一枚だけしかない白色の花に、私は触れる。



ひんやりとしていて、冷たかった。

この下には土があって、水が通っているのだろうか。

上を見上げると、空には白い雲が塊で浮かんでいる。

雲のはっきり具合から見て、夏だろうか。

下にある草花のおかげで暑いとは感じないが、私の居た場所の季節と類似している。



ここにも季節はあるんだと感じると共に、私は感覚で進んで行った。



そう言えばあの光は何だったのだろうか。

私の家で見たあの光は、もしかして人魂だったのだろうか。

それともこの草原に住んでいたホタル?

もしもそうだとすると、この近くには綺麗な川があるのかもしれない。

時間を測っていたのだが、気が付くと1時間歩き通していた。

普段こんなに歩く事の無い私は、それでも疲れたなんて思わなかった。

なぜだろう、探索しているのが楽しくて仕方ないのかもしれない。



水のある場所を探す事は難しいだろうと思い。

私は川をひとまず諦めて、腰の高さになって来た草花へと触ってみた。



「……どんどん背が高くなって行くなぁ」



これならサバイバルナイフの一本でも持ってくるんだった。

そうすれば、食糧も出来たかもしれないのに。



だが今更言っても仕方ないかと分かっているので、私は頭の中だけで自分自身をなじった。



太陽がちょうど私の頭の上に来た頃。

樹々の間から人里の様なものが見えた。



ガサガサと草をかき分けもう森と言える程草花の生い茂った場所を出ると、田畑が広がっている場所へと出た。



視線のずっと向こうには大きな山があって、手前には田んぼや畑、ちらほらと小さな家がある。

人がちらほらと見えるが、若者だらけで少し驚いた。



「…へぇ、田舎の方なのかな。

でも田舎ってお年寄りばっかりのイメージだったなぁ」



私が呟いて森を出ると、その若者達の視線が突き刺さった。



なんだと驚いていると、私から一番近かった若者の一人が「旅の人ー?」と聞いて来た。



ちゃんと顔は見えないが、20歳そこそこの女の人…だった。



「…あ、はい、まあ…」



そしてその一言によって、私は自分の知っている限りで一番怖い思いをした。



**********



「………………」



「やだなー、まだ怒ってるの?

ごめんって、お嬢さん!

別に襲おうとしたわけじゃないからさ!」



そう言って笑う女は、栗色の毛を持ち空色の瞳を持つ美女だった。

一般的なシャツにパンツと言った、私の世界でも対して珍しく無い様な服装に身を包んだ彼女は、アニーと言う名前で……私の世界とはぶっ飛んで違う感じの人だった。

目も髪も名前も。



……あと性格も。



「……まったく、あなたは…こんな小さなお嬢さんでも遠慮が無いんだから。」



そして私の隣でため息をつく人はアニーのお母さんでエリダと言う。



「どうぞ、お嬢さん。ミルクティーですよ。」



「ありがとう、エリダさん」



微笑んで受け取ると、その後ろでアニーが叫ぶ。



「あー!ヤダちょっと母さん、セコイわ!

しかもなによ、コレ。すっごく可愛い!」



「もう!私は人形じゃないんだけどっ」



抱きしめて来るアニーを器用に避けて、エリダさんの淹れてくれた紅茶を零さない様にテーブルに置く。



…さっき村に入った途端に声を掛けて来たアニーは、あまりの物珍しさに私を抱きしめ殺す気だったみたいだ。

この村…エデュオンは神に近い村とされているみたいで、外からの客人を熱烈に歓迎しており今さっきのアニーの「旅の人?」と言うのは、その確認みたいなものらしい。



「…しかしどこから来たのよ本当に。

真っ黒な黒髪なんて、魔都のエリュカディオン殿下しか見た事無いわよ」



「ちょっとアニー!滅多な事を言わないのっ!」



べしっとアニーの頭を軽く叩きながら、エリダさんも笑った。



…確かにさっき見た中に黒髪の人は一人も居なかったなぁと思い。

これはまずいのではないかと思った。



旅行と言うには安易に信じてはいけない事が起きているのは明らかであり、戻れないと言うか世界が違う次元が違う。

これは立派な遭難なのではないか…?



幸いな事に名を明かしてはいないが、聞かれたらどう答えようか。

在り来たりな名前も、こちらとはもう外国人の域だ。通用するとは思えない。



「…そう言えばお嬢さん、どこから来たの?」



ほら来た。



私は内心苦笑した。



「あなたが出て来た所って、神の道と言って行き止まりなはずなんだけど。」



「え、行き止まり?うそ。」



「本当だって」



アニーは笑いながら私の頭を撫でる。



…原っぱから始まって膝の高さ、腰の高さと草木が生い茂っていたあの場所の先は…行き止まり。

って事はやっぱり尋常ではない事態だってことだ。

うわあ、どうしようマジでファンタジーだよ。待てとは言えんな自分で言ったんだから。



でもさ…やっぱり執着は無いんだ。

いくら家族って言うカテゴリーに分けていたとしても、こんなに楽に忘れるもんなんだ。



もし今私が死んだとしても思い残す事も無ければ悲しんでくれると言う家族や親友まで今はどうでもいい。



…そうなればもう旅行とか気にしないで、生き直せばいいんじゃないの?



楽観的な私の脳みそは、深く考えて答えを出した。



さっき森で切った切り傷が痛む。

でも、それが現実だと思えば命がけで生きれば変われる気がした。



「アニー、こんな事頼むのもなんだと思うんだけど。

私に名前を付けてくれない?」



「…へっ?名前?」



やっぱり目を丸くしたアニーとエリダさんを見て、私は言う。



「私生き直したいの。何があったかは…その、神のみぞ知ると言いますか…。

ううん全然理由なんて関係無い。

捨てて来た全部を巻き返すくらいに幸せになりたいの!」



「え…と、待って待ってお嬢さん。本当の名前は無いの?

それって意味とかあったりしない?」



「無い。私の名前は親達の名前をもじっただけ。」



「じゃあ…」



「ちょっとアニー!」



事の重大さを図った為か、エリダさんはアニーの腕を取った。



「お嬢さん。この子にあなたの道を決めてもらうのはどうかと思うわ。」



「私もそう思います。でも、自分で決めちゃ意味無いんです。

アニーくらいに規格外無人に決められた方が背負って行けます!」



じっとエリダさんを見ると、困った様に私の頭を撫でてくれた。



「…あなたがどれだけの事を経験してきたかは分からないけど…。

それは自分の今までの人生を捨ててもいい事なのかしら。」



「やり直したいんです。真剣に生きてみたいんです。必死になってみたいんです。

やり直す理由は小さな事だけど、今までの自分じゃダメなんです。」



「……そう…アニー、ちゃんとしなさいよ。」



エリダさんは、やっぱり穏やかに笑ってソファーに腰掛けた。



当の本人、アニーは。真剣な顔して私の顔を凝視していた。



「……お嬢さんが何を考えているのか全っ然分からないけど!

…セルティスってどうかな…。」



「あら、いいじゃない。」



「…どういう意味なの?」



尋ねると、エリダさんが答えてくれた。



「セルティスはこの地を守ってくれている神様の名前よ」



「さすがに神様の名前は…って思ったけど。

新しい出発としてなら神様も怒らないかなって。」



「豊作と希望を司る神セルティス。あなたはその名を持って生まれ変わる事でしょう。

神の加護を受け、自分に正直になって生きてみなさいな。」



セルティスか…と、私は口の中でその名を復唱した。



心がすっとした気がした。

変われるって思えば、人は変われるんじゃないか、って…本当にそう思った。

まだまだ続きます!

初めまして、ここまで読んで下さってありがとうございます。

ルル・エチカと申します。

これは私の実際に体験(体感?)した話しなんですよね。

振られた次の日に見た夢です、はい。


私の上げて行く小説は大体夢の続きを創作して行く流れになります。

なので思いっきり脱線したり、いきなり新しいキャラクターが出て来たりします。


以上の事を踏まえた上、お楽しみ下されば幸いです。

ではではまた次回~!

ルル・エチカでした。

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