三十六話目 グリファ魔法・魔導専門店
Side 静
次の日―――前の世界で言えば日曜日にあたる―――は、週に一度、首都が一番賑やかになる日である。
平日に冒険者たちによって賑わっているギルドも緊急の依頼がなければ、最低限の人員だけを残し、休業状態となる。
そのため、前の日に稼ぎを得た冒険者の懐を狙って、朝から露店や雑貨店で様々なものを商人が売り出している。
もちろん、堂々と公式に認められた店舗から、路地裏にひっそりと非公式のヤバい物を売り出している露店もある。
その賑わいの中、二人は・・・。
「なあ・・・どこに向かってるんだ?というか頭が痛いんだが、殴ったよな?」
「言ったでしょ、昨日もらった魔石を解析してもらうんだよ。頭が痛いのに他に理由があるの?」
「否定はないのか・・・。」
だって全く起きないんだよ、強硬策として杖でぶん殴りました。
もちろん、武器強化で。
「他に穏便な方法はないのかよ・・・。」
「穏便な方法で起きないから、強硬手段に出たんだよ。わからないの?」
「・・・すんません。でその鑑定所だったかはどこにあるんだ?」
「このあたりの裏道・・・のはずなんだけど・・・。」
「お、アレじゃない・・・か・・?」
「確かに、アレだね・・・でも・・」
なんで、その店の前に――――――レーベル先生とフーリさんと・・・団長が居るのでしょうか・・・。
「お、来たか!もう昼近いが、一体こんなに時間がかかったのは何故だ?」
「兄さんの寝坊です。」
「・・・えー、そんなにはっきり言うか・・・?」
「む?だが学校で日が昇り切るころには朝食が出るように寮ではなっているから朝はしっかり起きているはず・・・?そうだよな、レーベル?」
とレーベル先生を探るような視線を出す。
って、団長も自分たちと同じ学校だったんですね・・。
「も、もちろんですとも!団長が学校にいたころから変わっていません。」
「ああ、朝ごはんは毎日ボクしか食べれてません、兄さんはパン一つと牛乳だけです。」
「ちょ!お前いつも食べられないから、早く起きてくれって言ってたじゃないか!
静はちゃっかり食べてたのか!」
「?なんで待つ必要があるの?」
「そんな真顔で当たり前みたいに言うなっ!!」
起こしてもらってるだけでありがたく思ってもらいたいんだけど・・・。
「確かに、それ言われちゃ納得だが・・・だが、起きられないのが俺だ!」
自信をもって言わないで欲しいな・・。
「二人とも。
ここに来たのは、昨日のスライムリーダーを倒した時に出た魔石の解析・鑑定が目的だったな?」
「?鑑定?研磨じゃなくて?」
「兄さん・・・昨日の獣人二人の武器が魔石からの掘り出し物だって言ってたでしょ?」
「え、つまりどういうことだ?」
「その質問には、わしが応えようぞ。小僧ども。」
その声の主は、古びた店の前に春先に向かない足まであるくたびれたコートを羽織った年配の男・・・。
そのコートの胸の部分には、目的の店の名前のロゴが入っていた。
「魔石には、中に何も存在しない――魔力はあるが――媒体としての使い道のものと、武具や装飾品が入っている物。
それと、極稀にだが、今では失われた製法で作られた武具がある。
覚えておくのが基本じゃ、頭の足りん坊主。」
「グリファさん、さすがに言いすぎです。まだ学校の一年生ですから。」
「お主・・フーリか。お前はギルドの新人育成窓口じゃったの。
そんな賢明な判断が要求されるところに居て、こんなところに学校の餓鬼を連れてくるとは・・・。
歳を喰って、見る目が腐ってきたか、残念だのう。」
(この人は・・・いつも私を馬鹿にしますね・・。
いや私どころか、出会った人全員か、初対面でも。)
「グリファ、お前が優秀なのは周知の上だからあまり口は出さないと決めていたが・・・、うちの職員を小馬鹿にするようなら・・・一回灰になってみるか?」
「おお、お前さん、団長になったのじゃな。
ほう、これは失敬じゃったの・・・。いやはや歳をとると記憶が不便での・・・・・・で、お主誰だったかの?」
(ここで灰にしても誰も怒らないよな、な?)
(やめてください、近隣住民の迷惑です。)
(・・・燃やすことは怒らないんだな。)
「グリファさん、少しは落ち着いて―――
「黙れ、脳筋。戦士が来るところでないわい。
話すだけで吐き気がする。とっとと視界から消えてくれ。」
「・・・団長、やっちゃっていいですか?我慢できないっす。」
「レーベル・・・・・・・・・・やめなさい、近隣住民に迷惑です。」
「団長、あなたが言えることではありません。
そして、その間はなんですか?考えずに否定してください。」
なんだか、団長たちがすごく振り回されてるんですが、この人が魔石の鑑定をしてくれる人なのでしょうか・・・?
「で、そこの一年。見習い魔法使いと駄戦士が何の用だ?
うちは原則、戦士系統職は出入り禁止なんじゃが?」
「だ、駄戦士!?そこまでいうのかよ!」
「当たり前じゃ、近頃の戦士は武器を振り回してれば何とかなると思って・・・連携の時に魔法使いの射線に考えもなく入ってくる・・・。
それに、壁などいらんのに、勝手に行動する。邪魔なんじゃよ。」
「ちょっと!
レーベル先生は重戦士だからともかく、兄さんは速度重視の戦士なんだから邪魔にはならない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とは言い切れないなぁ。」
「言い切ってほしいぜ・・・。」
「いや、邪魔ではないけど・・・なんか、うっとおしい?」
「同じだよ!?」
「ところで・・・ともかくって、俺は邪魔なのか?さすがに生徒に言われるとは思わなかったぞ・・。」
「まあ、あの子らの実力なら、邪魔かもしれんな・・・。今の時点で総合評価はAランクというところか。」
「いえ、戦闘だけに留めてランク付けするなら、Sは有ると思います。」
「じゃが、知識や心構えはまだまだといったところじゃ、特に駄戦士の方は、全くと言っていいほどそういうことができてない。あれは、長くは持たんタイプじゃ。うまく調整するんじゃぞ。」
「それは体験談か?グリファ?」
「黙れ、小娘。ギルドマスターだからと言っても、何も敬う気はさらさらないぞ。
ところで、お主ら本当に何しに来たのじゃ?店に用があるんじゃろ?」
「ああ、昨日の緊急招集、魔石を落としたモンスターをあの子たちが討伐したから、鑑定するところを教えるという名目とここにその店があるということを伝えるためにな。私たちが付いてきたのは保険だ。」
グリファと呼ばれた男は、すこし考えるものの、頷いて了承した。




