三十三話目 魔剣、宝剣
Side 瞬
「お、おい!新入りの嬢ちゃん、先走るな!今は――――
「行かせてよ!あの二人ずっと戦っているんだよ?」
「だが、今嬢ちゃんが抜けられるような場所はないぞ!
前はスライムの粘液の弾幕が、周りは雑魚スライムで埋め尽くされてる!
行くんだったら、前以外のどこかを一瞬で吹き飛ばすほどの範囲攻撃か魔法がいるぞ!?」
・・・いや、別に地面ごと吹き飛ばしたり、SPD特化型に能力振り分けて強引に突破したりと行くことはできるんだが・・・、力を全開にすることを禁止されてるんだよな。
「シロ!道を開けられるか!?」
「支援で手間が取られて無理!自分で何とかしていいよ!」
なんだかわからんが、無理に突破していいんだな。
でも、静の言う通り新入りが地面割ったり、とんでもない速さで走り始めたらまずいよな。
さてどうするのがいいのか・・・
「よし、飛び越えます。」
「・・・いやいや!どう見ても20メートルはあるぞ?無理する「じゃ、助走取ってきます。」って聞いてねえ!」
「お、おい・・・マジでやるつもりか?」
えっと、POW全開で跳ぶ瞬間に全力で踏み切って、体をそらせれば行けるか。
「・・・よし・・・、(ダッ)ヤアァァァーーー!(ダンッ!)」
「うおお!高え!高すぎるだろ!」
「人間ってあそこまで飛べる生き物だったか!?」
「おい!新入りがあそこまで頑張ってくれてるんだ!」
「俺たちも取り巻きをさっさと倒しきるぞ!」
「・・・スカートがめくれないのは何故だ!?期待したのにっ!!」
なんだか、自分の行動で他の人の士気が上がるとうれしいなぁ。
まあ、そんなつもりはなかったけど・・・自分のやりたいようにやっただけだし。
そして、ものすごく悪寒が立ったんだが一体なんだったんだ・・・?
「でも着地どうするんだろうな。あれ。」
「いや、高く飛べるなら着地もできるだろ、普通。」
「そりゃそうだ。」
「・・・着地した瞬間なら・・・いけるっ!!」
・・・いや、正直もっと低空で飛ぶつもりだった・・・。
と、思っていたら後衛の方から聞き覚えのある詠唱の声が届いた。
「魔法:バウンドボール。」
「っ・・・(ボヨンッ)・・?・・おおっ、助かるよシロ!」
「その前に、後先考えて行動しようよ・・・。」
「自分でなんとかいいって言ったのはシロだよね!?」
「自分だけで何とかして欲しかったなぁ・・・!!」
文句が多い・・・なんで場を変えるような行動で冒険者を鼓舞したのに怒られなきゃいけないんだ?
しかし、自分のやりたいようにやっただけだから反論はできん。
風のスライムリーダーと戦っている獣人族の男二人は苦戦していた。
「クッソ!普通より間違いなくでかいぞコイツ!」
「けっ!スライムはスライムだ、叩き潰せば問題なし!」
持っていた片手斧を地面に放り投げ、背負っていたものを自身の前に構える。
それは鎚の後ろにツルハシが付いた形の武器・・・打撃と突きを両方兼ね備えた得物である。
ただ、POWが相応に備わっていないと持ち上げることもままならない武器でもある。
「ほんとによくその武器で戦えるよな、お前・・・。」
「まあ、生まれつきでPOWが多かったからな。
だがINT・SPDはほとんど無かったし成長もしなかったが。」
「獣人族だからな、INTが成長しないのが当たり前だろ。SPDは・・・個人差だよな?」
「俺がSPD型だから多分そうなんだろ。」
実際は遺伝によることが多いのだが、獣人族は考えないことで有名で、この二人も例外でなくその場で結論を出してしまう。
要するに体を動かすことを優先して、他をおろそかにしているのである。
「おっさん達!大丈夫ですか?」
「おっさん!?」「おいおい、嬢ちゃん。そこはお兄さんだろ・・・。」
「はい!おじさん!」
『こいつ言うこと聞いてないぞ!?』
わざとです。
「というか戦闘中だから遊んでいる場合じゃないぞ!」
「そういえばいましたね。ぶっ飛ばせばいいんですか?」
『いや、おかしいだろ。』
あ、でもSPDを上げて戦ってきたからPOWまで上限まで上げたらさすがになんか言われるか。
ここはひとつ・・・
「じょ、冗談ですよー!そんなことできるわけないですよー。」
「だ、だよな?どう見ても無理だよなー。」
「あったりまえだろ。そんな武器じゃ。」
よかったぜー・・・うん、なんだって?武器がどうしたって?
「まさか鉱石系の剣でスライムを吹き飛ばすなんてなー。」
「宝剣か魔剣は持ってなくても、モンスターの魔素からできた特殊な武器くらい持ってないとランクC以上のスライムは相手にできんな。」
え、えっと・・・とりあえず静が居る場所を振り返ってみる。
「・・・・(グッ!)。」
(あいつサムズアップしやがった!)
さては分かっててやったな、あいつ!
「・・・まさか新入りの嬢ちゃん・・・。それしか武器無いのか・・・?」
「・・・・はい・・・・。」
「仕方ねぇ、そこに投げ置いた両手斧なら残っているから使いな!
それも一応モンスターから出てきた武器だ。
使えるならそれで戦え!」
おの、斧っと・・・お、これか?
おおー、結構重いなーこりゃだいぶ力を出さなきゃきついなー。
「あれ?お前のその武器、要求POWが相当いるはずだろ。
その細腕の嬢ちゃんにはまず使うどころか持ち上げられな(ヒョイ)あれぇーー!?」
「お、おいっ!?嬢ちゃん、それ持ち上げられるのか!?」
「いや、さすがに軽々とはいかないけど、なんとか武器としては使えるか・・な?」
こりゃ、この持ち主の人はすげえな・・。
軽々と使ってたが自分じゃぶん回したり、ぶん投げたりが精一杯だぞ・・。
「使えるだけでも十分だぞ、嬢ちゃん。」
「だよな。・・・後ろからの援護も期待できないから俺たち3人で取り巻きが片付くまで耐えきるのが得策か・・・。」
「顔に『ヒャッホウ!味方が来る前に倒せば報酬の大半は俺たちのだぜ!』って書いてありますよー。」
「ゲッ!?ばれた!?」
この人たち・・・ダメな人達だなぁ・・・。
「姉さんに言われたくない。」
「「「どっから湧いた!?」」」




