三十話目 目付け役
Side 静
「でも実際結構似合ってる・・・というか、着慣れてる?」
「なんでそういう解釈になるんですか!」
「だって、着るまで気づかないなんて・・・そういうことでしょ?」
「なわけあるかっ!」
うう・・・。なんでこんなことに・・・。
「まあまあ、でもいくら髪型や服装を変えたって簡単に気づかれちゃうと思うよ。
でも、性別が違って、名前も違えばさすがに疑われることはないよ。」
「確かにそうですけど・・・。」
理論は間違ってないんだけどね、理論は。
今、兄さんは女物の服にスカート、髪の色と同じ銀色ロングヘアのウィッグをつけて、女の子に見えるように装飾品は髪留めに。
僕は髪だけは短かったのでそのまま、装備を学校指定のローブから一般に売っている物に変え、装飾品はバンダナに変えた。
「あ、それと偽名も考えておいてね。
今は、一応ランクしか入ってないギルドカードを渡しておくから、この戦いが終わったらそこに名前を入れるよ。」
「・・・・ランクC?」
「・・・・ランクC?」
ランクCって・・・ギルドの中堅レベルじゃないですか。
それと、学院卒業の条件のうちの一つだよこれ・・・。
「さあ、急いで!そろそろ戦闘での割り振りが外壁近くで始まるはずだよ!」
「待った!スカートはまずいと思うんだけど!」
「僕はほとんど変わってないんだけど!」
結局、兄さんは黒いスパッツを履くことで妥協、僕は髪の色を金から銀にウィッグで変え・・・男装なのにウィッグ?
気にしたら負けだよ。
「あ、そうだ。
先日一年生全員で来たときのカードを抜いて、今のカードをもらった端末に差し込んでおいてね。」
そして、外壁近く。
「おーい!ギルドの嬢ちゃん、俺たちはどこに行けばいいんだ?」
「ええと、・・・ランクC以上の4~6人パーティー・Bランク以上の2~3人パーティー・Aランク以上のソロあるいはパーティーのかたは討伐隊に入ってください!」
「それ以外の方はあとで指示しますので、門から離れて待機していてください~!」
んー、意外とたくさんいるなぁ・・・。
しかも兄さんが戦闘に参加できるようにするには、最低でもあと二人一緒に行動しないといけないんだよね。
「さてどうす・・しようか?(えっと、口調ってこんな感じか?)」
「そりゃ、誰か探すしかないでしょ?(うーん、結構男の子の口調って難しいな・・・。)」
「しかし、誰にするん・・・の?素性も不明なじぶ・・・わ、私たちを入れてくれるパーティーなんてそう簡単に・・・。(静はそこまで変えなくてもいいから楽でいいな・・。)」
「そこなんだよね、じゃなくて、なんだよ。(文句言わないで、兄さん。)」
「その件については、わたしに任せてください。」
声がした方を振り返ると、どこかで見たことがあるような女性がいた。
「えっと、あなたは?」
「わたしですか?わたしはフーリ。ギルドのG,Fランク受付兼新人育成係を務めています。
団長の頼みであなたたちの目付け役として来ました。よろしくお願いしますね。」
「そ、そうなんですか・・・。」
目付け役ですか・・・。
どうやら一人だけということは少なくともBランク以上のひとなんですよね。
「団長からどこまでじ・・・私たちのことを聞いていますか?」
「ええと、ある理由があって学生ということを隠して偽名カードを使って今回の戦いに参加する。
と団長が言っていました。ある理由が何かなのは教えてくれませんでした。
あと、戦っている間にわかるとも言っていましたよ?」
「ぼくたちが女装・男装していることも?」
「はい、しかし一応言っておきますが・・・あまりそういう趣味にのめり込まないようにお願いしますね。」
ひどい勘違いをされているようです。
「そういえば、フーリさんは職業なんですか?見たところ魔法職だとは思いますが・・・?」
「はい、私は魔法職ですよ。
僧侶をやっていますが、団長から聞いたことから考えますと、シズ・・・シロ君は補助魔法が得意だそうなので私は妨害魔法を主に使いますね。」
妨害魔法なんてあるんだ・・・上級図書館にはなかったからもっと上級生が入れる禁書図書館にあるのかな・・?
「ところでクロちゃんはどんな戦い方をするんですか?」
「・・あ、じぶ・・私だ。
私は特に剣術を習ってこなかったから、何が得意とかは・・ないかな?POW・SPDを均等にしてるから・・・。」
「そうですか。では軽い武器をもって牽制程度でお願いしますね。
そこに妨害魔法や攻撃魔法を打ち込むという形で行きましょうか。」
「わ、わかりましたっ!」
そして、外門近くでの参加を申し込む。
「あら?フーリ、こんなところでなにしてるの?あなた今日非番だったっけ?」
「ううん、今日は団長の頼みで人数が足りないパーティーのお手伝い。」
「そっか、死なない程度に頑張ってきてね。
フーリがいないと書類仕事がなんか終わんないんだよね。」
「それは自分の責任でしょう?早くやった方がいいよ・・・。」
「了解、了解。
じゃあ、B一人にC二人で『目標:スライムリーダー一体』。
登録完了!いつでもどうぞ。」
「ありがと!じゃあ行ってくるね!」
フーリさんが同僚?の人と話している間、ぼくたちは近くの人に今の狩場の状況について情報を集めていた。
「ああ、今の草原は特に心配な異常状態をもつモンスターはいないし、天然の罠もすでに解除済みだから問題ないはずだよ。」
「ん、スライムの属性も偏りはない。
不利属性がきたら、他パーティーに助けを求めるんだぞ。」
「リーダーを狙うつもりか?
だったらあまり無茶はするな、一人ではまず倒せない相手だ。
周りと協力して戦うんだ、勝てそうになかったら全力でAランクの近くに逃げろ。」
なんだか、思っていた冒険者とは違って協力的な人が多いんだなぁ。
「当たり前だよ。
周りと協力できないやつはDランク止まりか、どこかでもう死んでいてもおかしくない。
いくらステやLvに優れていてもな。」
とのお言葉。
しかし、A・Sランクは例外らしい。曰く化け物。
「情報のほうはどうでしたか?」
「わ、私の方は狩場の状況だが特に問題ないらしい。」
「僕の方はスライムの属性とリーダーについてです。
これもいつもとあまり変わりないようです。」
「わかりました。
ではそろそろ外に出ましょうか、幸い戦い終えた人と交代するような形になりますし。」
そして、とうとう戦いの場は首都周辺、バテー草原へ移された。




