小話:王都へ
本作は過去シリーズ
『私の王子様、選び放題?! 恋する☆彡 ロイヤルアカデミー』
の後日譚になります。
初読の方はなんのこっちゃ分からないかもしれません。
開けっ放しの窓から宅配ドローンが飛び込んできた。
拓人が受取の印を入れると、ドローンはブブブと羽虫のような音を立てながら去っていった。
なんだよ、ドローンって。
拓人は定宿の鎧戸を閉めて手紙の束を検めた。
最近じゃあ当たり前のように空を飛んでいる。
俺が怯えて辺境に籠っている間に、随分好き勝手やってくれた奴が居るらしい。
エルに請われて設計したつるべ井戸の反響は予想以上だった。
悪友に国境なき井戸掘り職人と揶揄されながら各地を転々としていた。
独りで作ってもきりがないとみた某公爵家の後ろ盾を得て、エリアを分けて技術者を育てる方向に切り替えた。
あっちで三か月、そっちで半年。
最近では井戸に限らず、何でも屋みたいな依頼まで舞い込んでくるようになった。
ここでの仕事も終わりが見えているし、ちょうどよい依頼が来たなら移り時かもしれない。
手に取った手紙の封を開けてみれば、つるべ井戸の制作依頼がまた来ている。
だが、以前行ったことのある村からも遠くない。
誰か他の者を行かせよう。
拓人は手紙をベッドの左手に移動させると、次の一通を手に取った。
王都の劇場から、音響設備の改善依頼が来ている。
音楽に造形は深くないが、壁や床の形状を工夫して反響しやすくすることならできるかもしれない。
これは要検討。拓人はその書状を枕の上に置いた。
下町の飲食店から「料理中に容器を触りたくないから、踏んだら水とせっけん液が出る装置を作って欲しいの」
これは簡単に作れそうだ。
右手だが枕まではいかない位置に置く。
婦人らしからぬ武骨な字で書かれてはいたが「もらった花を枯れないように加工できないか」なんていう可愛らしい依頼まである。
プリザーブドフラワー、だろうか。
拓人はムムムと首を捻った。
『風景を写し取る板みたいなのってできませんか?』
お前、何を知っている。
さすがに拓人にも作ることはできないが、手紙を寄越したやつの顔を見てみたい。
次は――。
『漏斗とキッチンスケールが欲しいんだけど!』
巨大インフラ企業からの依頼状だ。
拓人は盛大なため息をついた。
隠すつもりないだろ。
拓人が思っていた以上に、世界は転生者で溢れていたらしい。
最後の手紙は、依頼状ではなかった。
『お嬢様が公爵家にお帰りになることが決まりました。わたしも王都に戻ります』
若草色の便箋には、嫋やかな文字が並んでいた。
『貴族家のメイドならとうにお暇を出されていてもおかしくない歳ですのに、修道院にいたおかげで長くお仕えできたのは本当に光栄でございました。しかもお優しいお嬢様は、通いでいいから今後も仕えてくれたら嬉しいと――』
近況報告もそこそこにエルネスティーヌへの美辞麗句が並びだして、拓人はうんざりした。
『それと、公爵家に戻ったら挨拶に来るようにと、お嬢様が仰っていました。タクト様は王都にいらっしゃるご予定はありますか』
拓人の眉がくしゃりと歪んだ。
「クソッ、あの女――」
井戸職人育成事業の後援をしている公爵家に引見されれば、参じる以外の選択肢はない。
そういった正式な知らせではなく、わざとアンヌに言わせているのだ。
意外とおせっかいなところは、何年経っても変わっていない。
半ば公共事業のような井戸作りをしていると、各地の領主に呼び出されることも珍しくはない。
そんな中、俺がローゼンステイン領の出身だと知ると、夫人が思い出話をしてくれることがあった。
行儀見習いで過ごした修道院で会った、破天荒なシスターの話だ。
そのシスターは豊富な知識を惜しみなく分け与える一方、子供みたいな悪だくみをして修道院長に怒られていたそうだ。
つまり、冤罪がどうのと言う前に、とっくにあいつの名誉は回復していた。
意外とおせっかいなところは、何年経っても変わっていない。
拓人は若草色の手紙を懐に入れて抽斗をかき回してから、結局紙を求めに宿を出ることにした。
空は青い。
雲一つない紺碧の下を、パンをぶら下げたドローンが呑気に飛び交っている。
――劇場の改装となれば、それなりの期間がかかるだろう。どこかに家を借りよう、というのは、先走り過ぎだろうか。
拓人が思っていた以上に、この世界は面白い。




