ちょっと、神様!断罪されるルートで覚醒させないでよね!
・・・何だろ?すっごく温かい
わたしは温かい何かに包まれていて、これが未来永劫続けば良いのにと思った。
『ハラヤマ シホ。目覚めなさい。あなたの願いを叶えましょう』
・・・え?わたしの願いって何?あー、そうだ。わたしはハラヤマ シホだ。さっきまで舞台の打ち上げしてたよね?ん?あれ?終わったから電車に乗って帰ろうとして、地下鉄の駅の階段を………………踏み外したよねーっ!?
「ルディエラ・エヴァン公爵令嬢!貴様はマリカ・カート男爵令嬢を闇ギルドに依頼して殺そうとした!その様な犯罪者を私の妃にするなど、絶対にあってはならない!よって!貴様との婚約は破棄とする!そして!マリカ・カート男爵令嬢は聖女候補でもある!その様な尊ばれるべき存在を殺そうとした貴様は、国法に則り処刑とされるべきだ!」
わたしは温かい何かに包まれた幸せな気分から、いきなり目の前に広がった光景にびっくりしたのはしょうがないと思う。
・・・ないわー
わたしの語彙力では豪華絢爛としか言い表せない大きな部屋の中に居るのは、わたしを指差しながら婚約破棄と処刑を声高に叫ぶ中世ヨーロッパ風味の服装の金髪碧眼の超絶美青年と、その青年に抱き寄せられた今にも泣き出しそうな顔の、これまた金髪碧眼の中世ヨーロッパ風味のドレスの美少女、そして、周りにはわたしを睨み付ける中世ヨーロッパ風味の服装の大勢の男女と言う構図だった。
・・・これ、わたしがしてたスマホの乙女ゲームよね?
わたしは目の前の男女やセリフに覚えがあり、それはどう見てもわたしが最近全クリしたスマホの乙女ゲームのヒーローの一人とヒロインだった。
この乙女ゲームはヒロインが複数のヒーローを攻略しつつ最終的に聖女になるか魔女になるかがクリア条件なのだけど、この状況はヒロインが第一王子を攻略して聖女か魔女になるかの最後の場面で、悪役令嬢である第一王子の婚約者の公爵令嬢の嫉妬による数々の嫌がらせに耐えて、最後に殺されるのを回避して断罪出来たら聖女となり、断罪出来なかったら魔女となるのだ。
ちなみに、断罪出来るか出来ないかは勿論、これまでの選択も全てサイコロで決まると言う運ゲーなので、全クリするまでまあまあ課金させられた。
そして、魔女となっても結局は第一王子と二人っきりの閉ざされた世界で永遠に一緒にいられるので、まあ、聖女と後の王子妃としての華やかな暮らしではないだけで、一応どっちでもヒロイン的にはハッピーエンドなのだ。
・・・処刑とか痛いの嫌だし、ここは魔女になってもらうか
わたしは憤怒の表情から無表情になり、持っていた顔の前の扇を閉じると言うゲームと違う動作が出来たので、サイコロも見当たらないし動きに強制力も無さそうだと思い、ヒロインが魔女になる方のセリフを言う事にした。
「わたくしは悪くないわっ!」
・・・えっ!?
「悪いのは、その女よっ!男爵令嬢如きが公爵令嬢であるわたくしに楯突いたのですもの、殺されて当然だわっ!」
・・・は?
わたしは口を開けた瞬間にヒロインの聖女ルートのセリフを喋り出した事にびっくりしてから愕然とした。
「エドワード様はわたくしの婚約者よっ!それを横取りしようとする卑しく浅ましい女が聖女になどなれる訳ないわっ!」
・・・待て待て待てっ!わたし、それ以上喋るなーっ!処刑されるでしょうがっ!
「ルディエラ様!ごめんなさい!あたしがエドワード様と仲良くさせて貰ったのが許せなかったのよね?だけど、どうか今からでも正しいお心をお持ち下さい!」
・・・そりゃ、殺そうとまでしたのはルディエラが悪いと思うけど、そこ迄追い込んだのは、お前ら浮気男と略奪女だからね?正しいお心って…ブーメランぶっ刺さってるの分かってる?
わたしとしては現実なら絶対に目の前の二人が悪いに決まってるし、今現在の立場からしたら思い出した理不尽過ぎるはずのこれまでのゲームの展開にイラッとしたのは言うまでもない。
そして、ヒロインはポロっと涙を一つこぼすと第一王子の胸に縋り付いた。
・・・ん?んんっ!?マジないわー。絶対に魔女にしてやるっ!
わたしが縋り付いたヒロインの口の端がニヤリと上がるのを見た瞬間、そう決意したのは許して欲しい。
「お前の様な卑しい女が、公爵令嬢であるわたくしに指図するなんて!愚かな売女であるのを理解しなさい!」
「・・・ルディエラ?」
わたしはざわざわと周囲が騒がしくなり、第一王子が呆然とした顔でわたしの名前を呼んだ事により、ヒロインも顔を上げ、わたしを見た。
「えっ!?」
「お前は、わたくしの愛する婚約者である第一王子殿下に近づくだけでなく、いつもどこかに触れていたわ!そんなはしたなく卑しい売女を殺そうとしたわたくしは絶対に悪くないわ!」
「・・・それも、そうだよなぁ。婚約者のある男性には近づかないのは常識だものな。ましてや王族に男爵令嬢が近づくなど有り得ないよな?」
「ええ。今思えば、カート男爵令嬢はいつも殿下に触れていたわよね?それに、最初に声を掛けたのは男爵令嬢だったのではなくて?」
「淑女の鑑であるルディエラ様が、あの様にお泣きになるなんて…殺そうと思い詰めるまでにお辛かったのでは?」
わたしは睨み付けていた周囲の怒りや嫌悪の感情が同情に変わって行くのを、心の中でガッツポーズした。
「…ルディエラ。それほどまでにこの私を愛してくれていたのか…」
・・・んな訳あるかっ!処刑されるのが嫌なだけよっ!
わたしは今現在ミジンコほどの感心も無い第一王子と目を合わせているのだけど、大粒の涙をボロボロとこぼし鼻水もちょっぴり出てる、それはもうチョモランマ級のプライドを持つ設定のルディエラ・エヴァン公爵令嬢にあるまじき泣き顔になっているはずだ。
「第一王子殿下はわたくしの婚約者よ!お前みたいな泥棒猫などに絶対に渡さないわ!お前なんか死ねば良いのよ!うわーーーーーんっ!!!」
「ルディエラ!」
そして、わたしはヒロインが聖女になる悪役令嬢のセリフを言うと、大号泣しながらドレスの隠しポケットから小さなナイフを取り出し、鞘から抜き両手で構えた。
本来なら、ここで凄まじいまでの鬼女の如きガンギマリと言った感じのわたしからヒロインが第一王子に庇われ、第一王子の護衛達によってわたしは速攻で拘束されて牢屋にぶち込まれてからの処刑で、ヒロインは聖女となり華麗な王子妃生活を送ると言うエンディングなのだ。
だけど、第一王子はヒロインをひっぺがすとわたしに駆け寄り、ナイフを持つ両手を包み込む様に制圧した。
「…こんなに震えて…ルディエラ、私が悪かった。貴女をそんな風にしたのは私だな…本当にすまなかった。今からでも貴女に向き合わせて欲しい」
・・・はいはい、演技ですー
わたしが大号泣しながら大罪を犯そうとしている罪悪感と恐怖に震える演技をしてみた所、ヒロインが魔女となるセリフを第一王子が言った瞬間に、勝利を確信したのは言うまでもない。
「…そんなの…そんなの絶対に許さないっ!エドワード様はあたしのものよっ!」
「まっ、魔女だっ!」
「魔女を捕らえよ!」
誰かがそう叫んだので第一王子は振り返り、ヒロインが黒髪赤眼の口裂け女っぽい魔女になったのを見て命令したけど、護衛達が動くよりも早くヒロインは一瞬で第一王子に近付くと抱き着き、そのままヒロインの背後に現れた闇の中に引きずり込もうとした。
「ルディエラーっ!」
「殿下ーっ!」
・・・よしっ!逝けっ!
このままだとわたしも引きずり込まれると判断した第一王子が、わたしの手を離すとあっと言う間に闇の中に消え去ったのだけど、消え去る瞬間に見たヒロインにブチギレた顔で睨みつけられたので、心の中で笑顔で手を振っておいた。
こうして、わたしは処刑を回避しつつ浮気男と略奪女を処理したのだ。
「…さてと、乙女ゲームを実体験してみたい願いは叶ったし!これから先はどんな人生になるのかな〜♪」




