悪役令嬢ですが、シナリオから逃げることにしました。【2000文字】
「ティナ、生涯唯一の僕の愛しい人」
「だからヒロインを口説きに行きなさいよ〜!」
ここが乙女ゲームの世界だと気づいたのは、学園に入学した時だった。
敷地を跨いだ時、プレイしていたオープニング映像が頭の中を流れ、見ている景色とあまりに似ていた。
婚約者のダミアンが攻略対象の1人にそっくりだし、何より自分が悪役令嬢クリスティーナそのものだと気づいた。
「…私、悪役令嬢だったんだ」
そう声に出していた。
そうしたら、隣にいたダミアンが嬉しそうにこう言ったのだ。
「なんだ、ティナも転生者だったんだね」
人生が二転三転した瞬間だった。
「…どうしてヒロインのところに行かないの」
「どうして婚約者を置いて、他の女のところに行くと思うの」
ダミアンはわたしの髪の毛を掬い、そっとキスを落とす。
ダミアンは同級生であるヒロインと近づこうとしない。
他の攻略対象者はヒロインにべったりなのに。
おかげでダミアンは攻略対象者から良い印象がないし、学園を通しての繋がりも出来ていない。
「貴族として、攻略対象者とは仲良くなっておいた方がいいって」
そう言うのに、ダミアンは頑なに私のそばから離れない。
「…それに私といない方がいいって」
乙女ゲームの強制力で、私はとんでもない悪女ということになっている。
全部が私のせいになる。
この前もヒロインを階段から突き飛ばしたと、謹慎処分を喰らったばかり。
ダミアン以外、誰も信じてくれない。
このまま行けば、私は国外追放エンドだ。
ダミアンを巻き込むわけにはいかないのに。
「僕の心まで強制できると思わないでほしいな。出会った時から、僕には君だけだよ」
ダミアンは、私の頬を撫でて笑うだけだった。
ある日、ダミアンが先生に呼ばれて珍しく1人だった時。
廊下を歩いていると、向こうからヒロインと、ダミアンが並んで歩いてくるのが見えた。
頭が殴られたような感覚がした。
本来あるべき姿は、あまりにも美しくて、あまりにもしっくりきて、悲しかった。
…やっぱり、ダミアンの居場所は私の隣じゃないよ。
早くここから去りたいのに、足が動かなかった。
目が2人を追ってしまう。
…やだ、ダミアン、私に笑って。
泣くなと自分に言い聞かせた時、ダミアンがこっちを見た。
「!」
逃げなきゃと思ったけど、ダミアンが物凄い勢いで走ってきた。
ヒロインを置いて。
「ティナ〜!会いたかったよ!」
いつものように抱き締められて、ポロッと涙が零れてしまった。
「えっ!どうしたの、ティナ!?誰かに何かされた!?」
「…ダミアン、私のこと好き?」
「当たり前じゃないか、君以外に愛を捧げたい人はいないよ」
「…みんなヒロインが好きなのに?」
「なんだい、僕の好きがそんなに届いていないなんて心外だなぁ」
ダミアンは目を細めて、涙の跡にキスを落としていく。
ダミアンの想いは届いている。
でも、ずっと怖かった。
それを受け取った後に、ダミアンの気持ちが変わってしまったら?
ダミアンの愛おしそうに見る先が、ヒロインになったら?
だって、ここはゲームで、私は悪役令嬢だから。
「お2人は本当に仲が良くて素敵ですねぇ」
そこにダミアンが放ってきたヒロインが立っていて、優しく微笑んでいた。
「あ、あの私…!」
「クリスティーナ様、申し訳ありません」
「…へ、何が」
「ゲームの強制力とはいえ、いつも悪者になってしまって…」
「え」
「どうやらこの子も転生者だったらしいよ」
なんでもないようにダミアンが言うので、ええええ!?と私は叫んでいた。
「ダミアン様だけ近づいてこないのを不思議に思っていたんです」
「それで今話してみたら、判明したというわけ」
「え、そ、そんなことある?」
「しかも、彼女は彼女で困っていたらしい」
ヒロインは困ったように苦笑いをした。
「好きでもない男性に囲まれているのは怖いし、強制力のせいか話は通じないし、…お2人が羨ましいです」
その笑顔が疲れ切っていて、まるで鏡の中の私を見ているようだった。
「疲れましたね…」
「本当ですね」
「このまま追放エンドで出ていくのは、むしろ好都合に思えてきました」
「それなら今すぐ出ていこうよ」
「え?」
「他国の親戚に養子にならないかって打診されているんだ、ティナも一緒に来ればいい」
「そんなことできるの?」
「僕がティナを置いていくわけがない」
「わ、私も連れて行ってもらえませんか…!」
「…それじゃあ、国外逃亡といこうか」
ダミアンがニヤリと笑い、ヒロインが頷く。
2人は、もうこの世界を変えることを決意したようだった。
このあとはどうなるんだろうと、一瞬思った。
でも、そんなことはもういいや。
主要キャラがいなくなった後のことなんて、私には関係ない。
2人は選んだのだ、だったら私も選ばなくては──。
ゲームに屈していた分、もう縛られない人生を選ぼう。
私は悪役令嬢なんだから、好きにしたらいいのよ!
「ダミアン、私あなたと生きていきたい」
私の答えに、ダミアンもヒロインも笑ってくれるのだった。
了
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