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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第10章

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切った先に残るもの

最初に動いたのは、蒼衡だった。


街道から外れた丘陵地帯。

小村と小村をつなぐ、細い交易路。


報告内容は単純だ。


――魔物が出た。

――だが、数は多くない。

――戦闘被害は、ほぼ出ていない。


「……奇妙だな」


セイン=ヴァルクスが、地図を見下ろす。


「被害がないのに、

 人が立ち尽くす?」


「魔物が逃げた、

 という線は?」


ユールが問う。


「違う」


セインは即答する。


「逃げたなら、

 恐怖が残る」


「だが、この報告は――」


紙を指で叩く。


「“判断できなかった”としか書かれていない」


ガランが、大剣を担いだまま言った。


「なら、

 余計な要因を切ればいい」


「迷いの原因を断てば、

 人は動く」


セインは、一拍だけ黙る。


だが、やがて頷いた。


「……そうだな」


「対象は魔物。

 数が少ないなら、迅速に処理する」


蒼衡は、迷わない。


迷わせる要因を切り、

秩序を残す。


それが彼らのやり方だ。


丘を越え、

問題の交易路へ踏み込む。


そこにいたのは――

確かに、魔物だった。


変異群。

だが、先日の個体よりも小さい。


「……弱いな」


ガランが言う。


「斬れば終わりだ」


セインは、周囲を見る。


村人が数人、

道の脇に立っている。


逃げていない。

だが、近づこうともしない。


「……下がれ」


セインが命じる。


「危険区域だ」


村人は、

一瞬だけ視線を彷徨わせ――

動かなかった。


「……聞こえなかったか?」


もう一度、強く言う。


だが、反応は同じ。


「判断が、

 止まっているな」


ユールが、眉をひそめる。


「だが、

 それは――」


「切る」


ガランが、前に出る。


断定斬だんていざん


迷いなく振るわれた剣は、

変異群を一刀で両断した。


――その瞬間。


村人たちの肩が、

一斉に落ちた。


「……終わった?」


誰かが、呟く。


だが。


倒れた変異群の身体が、

灰のように崩れると同時に――


別の影が、

道の反対側から現れた。


「……追加?」


ユールが、即座に魔力を構える。


だが、影は動かない。


距離を保ち、

こちらを“見る”。


「……?」


セインの目が細くなる。


(……逃げない?)


ガランが、再び剣を振り上げる。


だが――

影は、後退した。


「……引いた?」


「いや」


セインは、

嫌な予感を覚える。


「“切られること”を、

 前提にしている」


その言葉の意味を、

蒼衡の誰もが理解する前に――


村人の一人が、

その場に座り込んだ。


「……あれ?」


「なんで、

 終わったのに……」


動けない。


恐怖ではない。

混乱でもない。


「……判断が、

 戻っていない」


ユールが、低く言った。


セインは、拳を握る。


(……切った)


(だが、

 “立つ理由”まで、

 一緒に断ったのか?)


変異群の影は、

すでに森へ消えている。


蒼衡は勝った。


だが――

戦場には、

何も残らなかった。


人も。

秩序も。

選択肢も。


セインは、初めて理解する。


(……これは)


(切るだけでは、

 終わらない敵だ)


その頃。


同じ地域へ、

非裁定ノーリトリート》も向かっていた。


――まだ、

両者は出会わない。


だが、

同じ“歪み”を追っている。


蒼衡は、迅速に動いた。


一体を切ったあと、

周囲を警戒し、

残党がいれば即座に排除。


それが、今まで通りの手順だった。


「散開」


セインの指示で、

四人は間合いを広げる。


だが――

次に現れた変異群は、一体ではなかった。


数は三。

先ほどより小さい。

だが、距離を取っている。


「……弱体化?」


ユールが、疑問を口にする。


「違う」


セインは、即座に否定した。


「“試している”」


ガランが、舌打ちする。


「なら、

 まとめて切るまでだ」


《断定斬》


今度は、横薙ぎ。


二体が、一瞬で斬り伏せられる。


だが――


三体目は、

剣が振り切られる前に後退した。


「……学習速度が、

 上がっている」


ユールの声が、硬くなる。


「最初の個体より、

 判断が早い」


その時。


村人の一人が、

膝をついた。


「……すみません」


「分かってるんです」


「逃げた方が、

 いいって」


だが、立ち上がれない。


「足が……」


「動かない」


セインの胸に、

嫌な感覚が広がる。


(……切ったはずだ)


(原因は、

 排除した)


(なのに――)


「……ユール」


「はい」


「治癒と補助を」


ユールが魔力を流す。


だが、

症状は改善しない。


「……魔力異常じゃない」


「呪いでもない」


「……“判断”が、

 落ちている」


ガランが、

大剣を地面に突き立てる。


「ふざけるな」


「魔物を切って、

 人が助からないだと?」


その背後で。


切り捨てられたはずの変異群の灰が、

微かに揺れた。


溶けるように、

地面へ染み込み――

消える。


「……共有、か」


セインは、理解した。


「切られた情報を、

 “次”に渡している」


「だから、

 切るほど――」


ユールが、言葉を継ぐ。


「“切られる前提”で、

 最適化される」


変異群は、

もう前に出てこない。


距離を保ち、

こちらを見て――

判断する。


「……これ以上、

 切るのは逆効果だ」


セインは、

初めてそう口にした。


だが、

それは蒼衡にとって、

“やり方を否定する言葉”だった。


ガランが、歯を食いしばる。


「じゃあ、

 どうする」


「……分からない」


セインは、正直に答えた。


「だが、

 今まで通りではない」


その時。


森の向こうで、

別の気配が動いた。


魔力でも、

敵意でもない。


――“配置”が、

組み替えられる感覚。


ユールが、息を呑む。


「……来る」


「誰だ?」


セインは、

視線を向ける。


森の影から、

ゆっくりと現れたのは――


切らず。

退かず。

判断を押し付けない者たち。


非裁定ノーリトリート》だった。


非裁定ノーリトリート》が現れた瞬間、

戦場の空気が変わった。


敵が増えたわけではない。

味方が来ただけでもない。


――“前提”が、書き換わった。


「……お前たちか」


セイン=ヴァルクスは、短く言った。


「この地域も、

 お前たちの管轄か?」


「管轄じゃない」


レインは、即答する。


「“立て直し”に来ただけだ」


ガランが、一歩前に出る。


「今は、

 余計なやり方を増やす時じゃない」


「魔物は切る」


「それで秩序は戻る」


「戻らない」


レインの声は、低く、だがはっきりしていた。


「今の敵は、

 “切られること”を前提にしてる」


「切るたびに、

 最適化される」


ユールが、視線を細める。


「……分かっている」


「だが、

 切らなければ止まらない」


「違う」


ミリアが、一歩前に出た。


踏越位オーバー・ライン


だが、剣は抜かない。


「“切らない”んじゃない」


「“切る場所”が違うだけ」


変異群が、

その動きを見ていた。


距離を保ち、

進路を選び、

こちらを試す。


「……来る」


エルドが、盾を構える。


「正面じゃない」


リュカが、《戦域把握》を広げる。


「右から二体」


「左、

 回り込み一体」


「……役割分担してる」


セインは、

歯を噛みしめた。


(……本当に、

 切るほど賢くなる)


「エルド」


レインが、短く指示する。


「前線、

 “動かさない”」


「了解」


前線固定フロント・アンカー


盾が、地面に据えられる。


そこを“通れない”という事実が、

戦場に生まれる。


変異群の一体が、

進路を変えた。


「今」


ミリアが、踏み込む。


《断戦ライン・ブレイク》


“倒す”ためではない。


“進ませない”ための一閃。


変異群は、

そこで止まった。


判断が、遅れた。


「……!」


ガランが、目を見開く。


(切ってないのに、

 止めた?)


「ユール」


セインが、短く言う。


「補助、

 こちらに合わせろ」


ユールは、迷った。


だが――

目の前で、状況が改善している。


「……了解」


支援魔術が、

“止める”動きに噛み合う。


変異群は、

初めて混乱した。


切られない。

だが、進めない。


判断しても、

成功率が上がらない。


「……今だ」


レインが、静かに告げる。


模写理解アナライズ・コピー》が、

“判断ループ”を捉える。


(……選択肢が、

 全部失敗)


(なら――)


「終わらせる」


ミリアとガランが、

同時に動いた。


今度は、

切る。


だがそれは、

“判断を奪った後”だった。


変異群は、

抵抗できずに崩れ落ちる。


灰となって消えた後、

村には――


立ち上がる人が、戻り始めていた。


「……動ける」


「足が……」


「……戻った?」


セインは、

その光景を黙って見ていた。


やがて、

低く言う。


「……俺たちは」


「“切ることで守る”ことしか、

 考えてこなかった」


「だが」


視線を、レインへ。


「切らずに、

 立たせるやり方もある」


レインは、否定もしない。


肯定もしない。


ただ、言う。


「どっちも、

 必要だ」


「ただ――」


一拍。


「今の敵は、

 切るだけじゃ勝てない」


セインは、静かに頷いた。


「……借りを作ったな」


「次は、

 俺たちも考える」


蒼衡は、撤収を始める。


背中越しに、

セインは一言だけ残した。


「……非裁定」


「お前たちのやり方」


「嫌いじゃない」


ミリアが、

小さく笑った。


「それ、

 褒め言葉?」


「……たぶんな」


戦場には、

秩序と、余白が残った。


切った先ではなく、

“立たせた先”に。


非裁定ノーリトリート》は、

蒼衡と同じ方向を見ていた。


だが、

立つ位置は違う。


そして――

変異群は、

その違いを、確かに学んだ。


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