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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第10章

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分類不能(アンノウン・フェノメナ)

世界機関・中央評議室。


円卓の上には、

数枚の報告書と、簡素な地図投影が並べられていた。


「……以上が、各地で確認された“新規事象”です」


調査官の声は淡々としているが、

内容は決して軽くなかった。


「被害規模は小。

 死者数も少数」


「ですが――」


一枚、資料がめくられる。


「原因が、特定できていません」


英雄の一人が、眉をひそめる。


「魔物じゃないのか?」


「魔力反応が不安定すぎます」


「既存種とも一致しない」


蒼衡そうこうのメンバーが、低く呟く。


「……影の残滓か?」


「可能性は否定できません」


調査官はそう答えたが、

声に確信はなかった。


「ただし」


視線が、レインたちへ向く。


「非裁定の現地報告では――」


一拍、置く。


「“敵意が成立していない個体”を確認した、と」


会議室が、わずかにざわつく。


「敵意がない?」


「では、事故か?」


「それとも失敗作か?」


様々な声が飛ぶ。


英雄の一人が、腕を組んだ。


「なら、尚更早期殲滅だ」


「増える前に叩く」


蒼衡のセインも、同意する。


「切るべきだな」


「判断不能な存在は、

 後回しにするほど被害が広がる」


視線が、レインへ集まる。


意見を求めるように。


レインは、少しだけ考えてから口を開いた。


「……それは」


静かな声。


「“敵”としての話だよね」


「違うのか?」


英雄が問い返す。


レインは、首を横に振った。


「敵なら、

 意思か目的がある」


「でも、あれは」


一瞬、言葉を探す。


「起きてしまった現象だ」


空気が、微妙に変わる。


ミリアが、横から補足する。


「倒しても、

 スッキリしないタイプ」


「むしろ、

 “どうやって生まれたか”の方が怖い」


蒼衡の一人が、鼻で笑う。


「原因不明を怖がって、

 手を止めるのか?」


「切れないなら、

 我々が切る」


その言葉に、

レインは否定も肯定もしなかった。


ただ、静かに言う。


「切っても、

 終わらないと思う」


「これは――」


一拍。


「増える」


会議室が、沈黙に包まれる。


調査官が、慎重に口を開く。


「……つまり」


「影とは、別系統?」


「ええ」


レインは頷く。


「影は、

 “誰かが選ばせていた”」


「でも、これは」


「誰も選んでいない」


「世界が、

 勝手に歪んだ結果だ」


その言葉を、

全員がすぐには理解できなかった。


理解できない、という事実だけが残る。


調停官が、結論をまとめる。


「では――」


「当面の分類は」


一瞬、間を置いてから告げた。


未分類現象アンノウン・フェノメナ


「正式名称は、後日再協議」


会議は、そうして一旦締められた。


だが――

誰も、安心してはいなかった。


レインは、会議室を出ながら、

小さく息を吐く。


「……影より、面倒だ」


ミリアが、隣で頷く。


「だね」


「分かりやすい悪者じゃない」


「だからこそ」


レインは、前を見る。


「次は、

 もっと静かに壊れる」


非裁定ノーリトリート》は、

その気配を、すでに感じ始めていた。



会議から数日後。


世界機関の通達は、早かった。


「未分類現象に対する暫定対応指針」

――要するに、様子見と局地殲滅。


英雄には討伐許可。

蒼衡には裁定権限。

そして、《非裁定ノーリトリート》には――

特に明記なし。


「……雑だね」


ミリアが、掲示板の写しを見て言った。


「“危険なら倒せ”って、

 いつものやつじゃん」


「分類できない以上、

 それしか書けない」


リュカは冷静だったが、

声に納得はなかった。


「問題は」


エルドが、低く続ける。


「それで“何が残るか”を

 誰も気にしてないことだ」


一方、その頃。


別の街道では、

英雄の一団が動いていた。


「……出たぞ」


剣を抜く英雄。


現れたのは、

非裁定が遭遇したものと同種の変異群。


動きは鈍く、

攻撃も単調。


「弱いな」


一撃。


個体は、あっさりと崩れ落ちた。


「拍子抜けだ」


「これで終わりなら、

 騒ぐほどじゃない」


だが――


倒れた個体の影が、

わずかに歪む。


気づかれないまま、

地面に溶けるように消えていった。


その“後”。


数刻もしないうちに、

少し離れた集落で、

同様の被害報告が上がる。


判断遅延。

行動停止。

原因不明。


英雄たちは、

その関連性に気づかない。


「数が多いだけの雑魚だ」


「問題ない」


蒼衡もまた、

別の対応を取っていた。


「切る」


短い命令。


判断不能な個体を、

迷いなく斬る。


均衡裁断きんこうさいだん》。


存在は、確かに消えた。


「……だが」


セインが、眉をひそめる。


「切った感触が、薄い」


「因果が、残っている?」


部下が首を振る。


「いえ。

 “因果を持っていない”ような……」


切っても、

裁定しても、

何かが残る。


それは蒼衡にとって、

最悪の手応えだった。


同じ頃。


非裁定ノーリトリート》は、

小さな依頼を続けていた。


村の見回り。

街道の護衛。

避難誘導。


派手な討伐はしない。


代わりに――

人が動ける状態を保つ。


「……変異群、出ました」


村人の報告。


「でも、

 倒してないんですよね?」


ミリアが聞き返す。


「はい」


「近づかないようにして、

 皆で距離を取ったら……」


「動かなくなった」


レインは、その話を聞いて、

ゆっくり息を吐いた。


「……やっぱりだ」


「倒すほど、

 増える」


「切るほど、

 残る」


ミリアが、拳を握る。


「じゃあ、

 どうするの?」


レインは、少し考えてから答えた。


「まず」


「“敵”として扱わない」


「次に」


「人が、

 判断できる余地を残す」


「それが――」


非裁定ノーリトリート》のやり方。


だが。


それが、

世界に通じるかどうかは――

まだ、分からない。


遠くで、

また一つ、変異群の報告が上がる。


静かに。

確実に。


問題は、

広がり始めていた。


夜明け前。


非裁定ノーリトリート》は、

街道から少し外れた丘の上に立っていた。


眼下には、小さな村。

灯りはある。

人の気配もある。


だが――

音が、少なすぎた。


「……また、止まってる」


ミリアが、唇を噛む。


村の中央。

井戸のそばで、数人の村人が立ち尽くしている。


倒れていない。

逃げてもいない。

ただ、次の行動を選べずにいる。


「数は?」


リュカが、《戦域把握》を静かに展開する。


「……三体」


「いえ」


少し間を置いて、訂正した。


「“三箇所”です」


「個体数じゃない」


エルドが、盾を強く握る。


「……点、か」


「うん」


レインは頷いた。


「変異群は、

 増殖してるわけじゃない」


「“同じ状態”が、

 別の場所で再現されてる」


ミリアが、背筋を冷やす。


「それ、

 どんどん広がるやつじゃん」


「そう」


レインは、村へ視線を落とした。


「しかも」


模写理解アナライズ・コピー》が、

今までよりはっきりと反応する。


(……原因は、個体じゃない)


(“環境条件”)


(判断が奪われる状況そのものが、

 再現されてる)


「……だから」


レインは、静かに告げる。


「英雄が倒しても、

 蒼衡が切っても、

 終わらない」


「“起きた現象”を、

 消してるだけだ」


ミリアが、ゆっくり息を吐く。


「敵じゃないって、

 そういうことか」


「うん」


「だから――」


一歩、前に出る。


「まず、人を動かす」


非裁定ノーリトリート》は、

戦闘態勢を取らない。


剣も、術も、

まだ使わない。


ミリアが、村へ降りながら声を張る。


「大丈夫!」


「今、

 決めなくていい!」


その声に、

村人の一人が、わずかに瞬きをした。


「……え?」


「動けなくてもいい!」


「でも、

 立ってていい理由はある!」


レインが続く。


「“何もしない”っていう判断も、

 判断の一つだ!」


その言葉が、

ゆっくりと染み込む。


停滞していた空気が、

ほんの少し、揺れた。


その瞬間。


草むらから、

歪な影が現れる。


変異群の雑魚個体。


だが――

動きが、さらに鈍い。


「……弱ってる?」


リュカが、首をかしげる。


「違う」


レインは、はっきりと言う。


「“条件”が崩れてる」


「判断を奪えない環境では、

 存在できない」


ミリアは、剣を構えた。


「じゃあ――」


「倒す?」


「いや」


レインは、首を振る。


「見せるだけでいい」


エルドが、一歩前へ。


盾を構え、

道を塞ぐ。


逃げ道を“与える”。


変異群は、

進む理由を失い、

立ち止まる。


そして――

静かに、霧のように崩れた。


戦闘はなかった。


それでも、

村は動き始める。


誰かが、鐘を鳴らす。

誰かが、倒れた者を支える。


「……戻ってきた」


ミリアが、ほっとしたように言う。


レインは、空を見上げる。


「でも、

 これは“対処”だ」


「根本じゃない」


遠くの地平線。


見えない場所で、

同じ現象が、また起きている。


世界は、

静かに次の段階へ進んでいた。


レインは、ミリアの方を見る。


ほんの一瞬、

視線が重なる。


言葉はない。


だが――

同じ方向を見ている、という確信だけはあった。


非裁定ノーリトリート》は、

また歩き出す。


裁かず。

退かず。


“選べない世界”に、

選択肢を残すために。


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