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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第9章

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選ばせない者と、選ばせぬ者

村の中央に立つ影は、

最初から――そこに「いた」ように見えた。


現れた、ではない。

出てきた、でもない。


ただ、

気づいた時には、立っていた。


「……誰?」


ミリアの問いに、影は答えない。

口はある。

顔の輪郭も、人と変わらない。


だが、

目だけが――空だった。


そこから何かを見ている様子が、ない。


「敵意反応……なし」


リュカの声が、低く落ちる。


戦域把握バトルフィールド・リード》は正常に動いている。

位置、距離、逃走経路。

すべてが“把握できている”。


なのに。


「……判断が、返ってこない」


選択肢が、浮かばない。


攻めるか、下がるか。

声をかけるか、無視するか。


どれも“間違いではない”のに、

どれも“選ぶ理由”が存在しない。


影が、ゆっくりと首を傾げた。


「――迷っている?」


声は穏やかだった。

問いかけるようで、

確認するようでもない。


「必要ないよ」


影が、一歩踏み出す。


その瞬間、

村の空気が――一段、沈んだ。


「選択は、疲れる」


「判断は、責任を生む」


「だから――」


影の足元から、

目に見えない“枠”が広がっていく。


魔力ではない。

結界でもない。


それは、

決断そのものを“固定する何か”。


「……来る!」


ミリアが前に出ようとして、止まる。


踏み出す理由が、

頭の中で“整理できない”。


(……っ)


(足は、動くはずなのに)


エルドが盾を構えた。


受理領域アクセプト・ゾーン

――だが、重さが来ない。


「……受け止めるものが、ない?」


影は、困ったように言った。


「抵抗されると、困るんだ」


「もう、決まっているから」


レインは、静かに一歩前に出た。


戦場演算バトル・カリキュレーター》が起動する。


だが、

未来図が――分岐しない。


一本。

ただ一本の、細い線。


(……判断が、先に固定されてる)


(これが……)


影は、レインを見た。


「君は、選ばせない側だね」


「でも」


わずかに、首を振る。


「君も、裁っている」


その言葉に、

レインの演算が一瞬だけ乱れた。


「違う」


静かに、否定する。


「僕は」


一歩、踏み込む。


「裁たない」


「奪わない」


「――退かないだけだ」


影の口元が、初めて歪んだ。


「それが、一番厄介なんだよ」


空気が、張り詰める。


村人たちは、まだ動けない。

鐘も、鳴らない。


だが――

ここだけは、もう逃げられなかった。


非裁定ノーリトリート》は、

四天王の一角――

選択剥奪の影と、正面から向き合っていた。


最初に崩れたのは、距離感だった。


影は動かない。

走らない。

攻撃の予備動作すら、見せない。


それなのに。


「――っ!」


ミリアが踏み込もうとした瞬間、

“前に出た”という事実だけが、否定された。


踏越位オーバー・ライン

確かに発動している。

身体も、前傾も、踏み込みも完璧だ。


だが――

位置が、変わっていない。


「……は?」


地面の感触が、さっきと同じだ。


(……戻された?)


いや、違う。


“踏み込んだ”という判断そのものが、成立していない。


「ミリア、下がれ!」


レインの声。


だが、その指示も――

即座には実行できなかった。


「下がる理由が……っ」


頭の中で、言葉が絡まる。


危険。

敵。

撤退。


分かっている。

分かっているはずなのに、


(……どこが危険だ?)


(……今なのか?)


影が、静かに言った。


「ほら」


「判断って、こうやって遅れる」


「迷うほど、人は止まる」


リュカが歯を食いしばる。


戦域把握バトルフィールド・リード》を最大展開。


地形。

敵位置。

村人の分布。


すべてが、正確に“見えている”。


なのに。


「……重なってる」


未来が、重なっている。


逃げた未来。

守った未来。

攻めた未来。


全部が、同時に存在して――

どれも選べない。


「……なら!」


リュカが叫ぶ。


戦局重量バトル・ウェイト》発動。


戦場に“重さ”が落ちる。


決断が遅れるほど、

動かないほど、

“現状維持”にコストがかかる設計。


「選ばないなら!」


「留まること自体が、負荷になる!」


だが、影は首を傾げた。


「……面白い」


次の瞬間。


《判断固定》


空気が、凍る。


重さが、消えた。


「な――」


リュカの演算が、崩壊する。


「……固定された」


「“留まる”という判断が、最適解として」


つまり。


戦場が、停滞するほど楽になる。


「最悪だ……」


エルドが、盾を前に出した。


受理領域アクセプト・ゾーン》展開。


「来い」


「受け止める」


影が、初めて腕を振る。


それは攻撃ではない。

ただ、指先で空間を“なぞった”だけ。


だが。


村の一角で、

家屋が、ゆっくりと崩れ始めた。


爆発も、衝撃もない。


「……選ばれなかった構造が、落ちてる」


リュカの声が震える。


「維持する理由を、消された……!」


エルドが踏み込む。


還流盾リフロー・シールド

受けた影響を、循環させ、戻す。


――が、返せない。


「……っ」


(ダメージじゃない)


(これは……)


被害集束ダメージ・ギャザー》起動。


村に広がる“結果”を、

盾の前に集める。


だが、集まらない。


「……影響が、散ってる」


「誰にも、集中してない」


影が言う。


「“誰かを選ばない”って、こういうことだよ」


「被害は出る」


「でも、犯人はいない」


ミリアが、歯を食いしばる。


「……ふざけんな」


断戦ライン・ブレイク》発動。


前線そのものを、切断する一撃。


空気が裂け、

影の立つ位置へ、一直線。


――当たった。


確かに、当たった。


だが。


影の“姿”だけが、そこに残り、

実体が、半拍遅れて揺らぐ。


「……判断代行」


影が呟く。


「“避けるかどうか”を、僕が決めた」


次の瞬間、

ミリアの身体が、強制的に後退する。


不退一閃ノー・リトリート

――発動不可。


「っ……!」


「退く理由が、固定された……!」


レインが、前に出る。


認識剥離センス・ストリップ》。


村の“意味”を切り離す。


家は、家ではなくなる。

人は、“対象”ではなくなる。


影の世界に、ノイズが走る。


「……あ」


初めて、影が声を漏らした。


「それは……嫌だな」


レインの額に、汗が浮かぶ。


(……重い)


(単発なら、いける)


(でも……)


影が、静かに一歩踏み出した。


「君が一番、危険だ」


「だから」


「最後に、選んであげる」


空気が、沈む。


四人の前に、

“決断のない死”が、迫っていた。


そして――

レインの中で、

何かが“限界”に触れ始めていた。


世界が、静止した。


正確には――

静止したように“見えた”だけだ。


レインの足元から広がったそれは、

魔力でも、術式でもない。


《絶対無効圏・真

(アブソリュート・ゼロ・トゥルー)》


因果。

意味。

判断。


あらゆる“成立条件”を、無効にする領域。


影の動きが、止まる。


否定系の能力が、

初めて“行き場”を失った。


「……っ」


影が、わずかに目を見開く。


「それは……」


「それは、まだ完成していないはずだ」


正解だった。


レインの視界は、すでに揺れている。


(……重すぎる)


(一度で限界)


それでも。


影が、笑った。


「でも――」


「“選ばない”という判断を、

 無効にはできない」


《判断固定》が、強制的に再起動する。


無効圏の縁が、軋む。


「……っ!」


レインの膝が、わずかに落ちた。


その瞬間。


「――来る!」


リュカが叫ぶ。


戦域把握バトルフィールド・リード》が、

未来を一つだけ示した。


レインが、先に倒れる未来。


「エルド!」


「分かってる!」


エルドが前に出る。


受理領域アクセプト・ゾーン

被害集束ダメージ・ギャザー


影が放った“決断の圧”を、

すべて盾の前に集める。


「……ぐっ!」


盾が、悲鳴を上げる。


だが、崩れない。


「レイン!」


ミリアの声。


踏越位オーバー・ライン

今度は、拒否されない。


戦線確定バトル・ライン・フィックス


「――ここだ!」


“前線”が、確定する。


選択不能だった戦場に、

初めて「立つ場所」が生まれた。


影が、舌打ちする。


「……役割を、固定したか」


「だったら――」


《役割転倒》が、発動しかける。


だが。


「させない」


リュカが、歯を食いしばる。


戦局重量バトル・ウェイト


今度は、解除されない。


「一度決めた役割は!」


「簡単に動かせない!」


影の動きが、確実に鈍る。


その隙。


ミリアが、踏み込んだ。


《不退一閃・極

(ノー・リトリート/アルティマ)》


逃げない。

退かない。

前線を、終わらせる一撃。


「――ああああっ!!」


刃が、影の中心を捉える。


だが、完全ではない。


「……まだだ」


影が、最後の力を振り絞る。


「判断を――」


その言葉を、

レインが“消した”。


《因果再配置

(カウザル・リロケーション)》


結果だけを、ずらす。


影の“自爆”は、

影自身の足元へ。


一瞬。


光も、音もない。


そして。


影は、崩れ落ちた。


静寂。


村に、風が戻る。


人々が、ゆっくりと動き出す。


「……終わった?」


ミリアが、息を切らして言う。


返事は、なかった。


「……レイン?」


エルドが振り向く。


レインは、立ったまま――

その場に、崩れ落ちた。


「――レイン!」


ミリアが、即座に抱き留める。


「バカ……!」


「連発するなって……!」


レインは、微かに笑った。


「……でも」


「選ばせなかった」


そのまま、意識が落ちる。


村には、確かに被害が残った。


だが。


誰も、切り捨てられていない。


非裁定ノーリトリート》は、

また一つ、答えを示した。


それが、

どれほど重い代償を伴うとしても。


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