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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第9章

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王の前で泣く影

玉座の間は、静かだった。


広すぎる空間に、

足音だけが不釣り合いに響く。


跪いているのは、一人。


――影の四天王、その一角。


名を持たぬまま、

役割だけを与えられた存在。


肩は震え、

額は床に擦りつけられ、

嗚咽が、抑えきれず漏れていた。


「……っ、……ひっ……」


泣いている。


敵を前にしてではない。

敗北の痛みでもない。


――理解されなかったことへの涙だった。


「……あの英雄は……」


声が、掠れる。


「……自爆も、毒も……」


「“選択肢”にすら、ならなかった……」


玉座の上。


“王”と呼ばれる存在は、

黙ってそれを見下ろしている。


怒りも、嘲笑もない。

慰めも、叱責もない。


ただ、静かだ。


「……怖かったのです……」


四天王は、声を震わせた。


「力が通じないのではなく……」


「存在そのものを、否定される感覚が……」


その言葉に、

王の指が、わずかに動いた。


「――泣く理由は、それか」


低い声。


だが、冷たくはない。


四天王は、必死に頷く。


「我らは……」


「選ばせぬために、奪う存在……」


「だが……」


拳を、床に打ちつける。


「奪う前に、

 “意味を失わせる”者が現れた……!」


王は、少しだけ首を傾けた。


「英雄か」


「……はい」


「想定内だ」


四天王の嗚咽が、止まる。


「だが」


王は、静かに続ける。


「お前が恐れたのは、英雄ではない」


「……?」


「“非裁定”だ」


その名を告げられた瞬間、

四天王の身体が、びくりと跳ねた。


「……っ!」


王は、淡々と語る。


「英雄は、背負う者だ」


「世界も、期待も、失敗も」


「だが――」


視線が、少しだけ鋭くなる。


「非裁定は、背負わない」


「裁かず、選ばず、退かない」


「だから」


王は、ゆっくりと立ち上がった。


「お前たちの“役割”が、

 初めて脅かされた」


沈黙。


四天王の目から、

再び涙が溢れる。


「……我らは……」


「どうすれば……」


王は、近づいた。


そして――

泣き崩れる影の頭に、

そっと手を置く。


「安心しろ」


その声は、

驚くほど穏やかだった。


「まだ、終わらせはしない」


「英雄は退いた」


「非裁定は、まだ完成していない」


「ならば――」


囁く。


「“立つこと”そのものを、

 否定する」


四天王は、

ゆっくりと顔を上げた。


そこにあったのは、

涙と同時に――決意。


「……はい……王……」


玉座の間に、

影が、再び揺れる。


世界は知らない。


英雄が勝ったことも。

四天王が泣いたことも。


だが――

王が動いたことだけは、

 確実に“次”を意味していた。


王の前で、影は泣き続けていた。


嗚咽は次第に小さくなり、

代わりに、震えだけが残る。


「……《非裁定》……」


四天王は、その名を噛みしめるように呟いた。


「彼らは……奪わない……」


「恐怖で縛らず……」


「判断を、奪わず……」


声が、次第に擦れていく。


「なのに……」


拳が、床に食い込む。


「なのに、前に出る……!」


「我らは、選ばせるために“奪う”役目だった……」


「だが……」


顔を上げる。


「彼らは……」


「役目すら、拒んだ……!」


その言葉を、王は黙って聞いていた。


否定もしない。

肯定もしない。


ただ、事実として受け取る。


「……それが、怖いのか」


王の声は低く、落ち着いている。


「はい……」


即答だった。


「英雄は、理解できました……」


「力で、終わらせる者……」


「だが、《非裁定》は……」


喉が、鳴る。


「理解の外にいる……」


沈黙。


王は、ゆっくりと歩いた。


玉座の間を一周するように、

影の周囲を回る。


「奪う者は、必ず理由を持つ」


「恐怖、秩序、管理、均衡……」


「だが」


影の背後に立つ。


「理由を持たぬ者は、扱いづらい」


四天王の身体が、強張った。


「お前は、失ったのではない」


「役目が、揺らいだだけだ」


「……王……」


王は、影の肩に手を置く。


力は込めない。


だが、逃げ場はない。


「《非裁定》は、まだ完成していない」


「だからこそ、価値がある」


影が、息を呑む。


「……では……」


「我らは……」


王は、淡々と答えた。


「英雄ではない者に、英雄を超えさせる」


「裁かず、退かぬ者に」


「立つことすら許されぬ世界を、与える」


影の目に、光が戻る。


涙は、もう落ちていない。


「……はい……」


「我らは……」


「“立たせない”影として……」


王は、ゆっくりと頷いた。


「行け」


「泣くのは、ここまでだ」


玉座の間に、再び静寂が戻る。


だがそれは、終わりではない。


――選ばせない者たちと

――立たせない者たち


世界は、次の衝突へと進み始めていた。


玉座の間を出た後、

四天王は一人きりで歩いていた。


影の回廊。

かつては迷いなく進めた道。


だが今は、

一歩ごとに“重さ”があった。


「……兄弟……」


呟きは、誰にも届かない。


英雄に斬られた影。

否定され、役目を果たせず消えた存在。


「……無駄じゃ、なかったよね……」


答えは返らない。


だが――

涙は、もう出なかった。


泣く時間は、終わった。


四天王は、立ち止まる。


自分の手を見る。


奪うための手。

選ばせるための力。


それが――

“拒まれた”。


「……王は……」


思い出す。


玉座の前で告げられた言葉。


《非裁定》は、まだ完成していない


だからこそ、価値がある


「……完成、か」


影は、静かに笑った。


「なら……」


「壊す前に、試す」


遠く。


世界のどこかで、

裁かず、退かず、前に立つ者たちがいる。


英雄でもない。

王でもない。


「……会いに行こう」


「《非裁定ノーリトリート》」


影が、歩き出す。


今度は、

恐怖で選ばせるためではない。


――立つことそのものを、奪うために。


その頃。


別の地で、

英雄ヴァルハルト=レオンは、剣を納めていた。


「……泣く敵、か」


短く息を吐く。


「面倒な時代になったな」


彼は空を見上げる。


「だが」


一言。


「次は、

 俺じゃない」


世界は、静かに回り続ける。


英雄の時代でも、

王の時代でもない。


――選ばせない者たちの時代へ向かって。



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