表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第9章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/416

切らなかったあとで

――静かな道の、静かな距離


村を離れてしばらく、

道はただの森道に戻っていた。


戦闘の痕跡も、

恐怖の残滓もない。


鳥の声と、

足音だけ。


「……ほんとに、終わったんだね」


ミリアが、ぽつりと言った。


「うん」


レインは短く答える。


それ以上、言葉は続かなかった。


沈黙が気まずいわけじゃない。

ただ――

何かが、まだ身体に残っている。


レインの足取りが、わずかに鈍る。


「……レイン?」


ミリアが振り返った瞬間、

彼の膝が、少しだけ崩れた。


「っ――」


倒れはしない。


だが、完全に立ってもいない。


「因果遮断の反動だ」


リュカが、すぐに状況を理解する。


「遅れて来るタイプですね」


「……やっぱり?」


ミリアは、レインの腕を取った。


思ったより、軽い。


「無理しすぎ」


「一回だけって、言ってたのに」


「一回だけだよ」


レインは苦笑した。


「ただ……」


一拍。


「“切らない”選択肢って、

 思ったより重い」


その言葉に、ミリアの動きが止まる。


「……でもさ」


少し、視線を逸らしてから言う。


「私は、好き」


「今日のやり方」


「誰も、置いてかなかった」


レインは、驚いたように彼女を見る。


「……ミリア」


「なに」


「前線に出る人間が、

 それ言う?」


「言うよ」


即答だった。


「前に出るからこそ、分かる」


「切ったら、

 楽になる瞬間もある」


「でも」


一歩、距離を詰める。


「戻れなくなるのも、分かる」


森の中、

二人の距離が近づく。


近すぎて、

呼吸が分かる。


「……あ」


ミリアが、気づいたように顔を赤くする。


「ち、近い」


「ごめん」


レインは、すぐに離れようとして――

ふらついた。


「ちょ、待って!」


今度は、ミリアが支える。


「離れるのは、後!」


エルドとリュカは、

何も言わずに少し先へ行った。


見なかったことにする速度で。


「……ね」


ミリアが、小さく言う。


「次も、同じ選択する?」


レインは、少し考えた。


そして。


「うん」


「たぶん、何度でも」


ミリアは、笑った。


「じゃあ」


「私も、前に立つ」


「一人で立たせないから」


その言葉が、

何よりの支えだった。


森を抜ける風が、

二人の間を通り抜ける。


遠くで、

まだ知らない“影”が動いていることを、

この時は誰も口にしなかった。


――静かな時間は、

長くは続かない。


だが今は、

確かに、穏やかだった。


――静かな違和感


森を抜けた先に、小さな川があった。


水は澄んでいて、流れも緩やかだ。

一見すれば、何の変哲もない休憩地点。


「……ここで少し休もう」


リュカが言うと、誰も反対しなかった。


レインは腰を下ろし、深く息を吐く。

呼吸は整ってきているが、まだ完全じゃない。


「本当に無茶するよね」


ミリアが水筒を差し出す。


「因果遮断なんて、

 連発したらどうなるか分かってるでしょ」


「うん」


素直な返事。


「だから、一回だけにした」


「……そういう問題じゃない」


そう言いながらも、

ミリアの声は強くならなかった。


エルドは川辺に立ち、周囲を警戒している。

盾を地面に置いてはいるが、

いつでも持ち上げられる距離だ。


「……村の人たち」


ぽつりと、エルドが言った。


「俺が受けた感覚、

 あれ……相当だった」


「迷いと恐怖が、

 絡まってた」


「放っておいたら、

 本当に何も選べなくなってたと思う」


「うん」


レインが頷く。


「“恐怖で選ばせる”影は、

 殺さなくても壊せる」


「でも」


一拍置く。


「放置すれば、

 結果は死と変わらない」


ミリアが、川を見つめたまま言う。


「……蒼衡なら」


「切ってた」


「英雄は?」


「来ない」


短い答え。


「戦闘じゃないから」


沈黙が落ちる。


誰も否定しなかった。


「だから」


リュカが静かに続ける。


「僕らが、

 ああいう場所に立つ意味がある」


「評価されなくても?」


ミリアが聞く。


「うん」


リュカは即答した。


「評価は、

 後から付いてくるかもしれない」


「でも、

 選ばなかった未来は戻らない」


その言葉に、ミリアが少し笑った。


「……理屈っぽくなってきたね」


「レインの影響です」


「え、僕?」


レインが顔を上げる。


「そんなつもりは――」


「あります」


三人同時だった。


エルドだけは、

少し遅れて頷いた。


「……ある」


一瞬、空気が和らぐ。


だが。


リュカの《戦域把握》が、

微かに反応した。


「……おかしい」


「どうした?」


ミリアが即座に身構える。


「敵意じゃない」


「でも、

 “歪み”が移動してる」


レインが、目を閉じる。


模写理解アナライズ・コピー》は、

まだ沈黙している。


だが――

“空白”が増えている。


(……消えてる?)


(いや)


(“回収されてる”)


レインは、ゆっくり立ち上がった。


「……次は」


「もっと、分かりやすく来る」


ミリアが、剣に手をかける。


「四天王?」


「可能性はある」


「でも」


視線を、仲間たちに向ける。


「まだ、直接は来ない」


「様子見?」


「うん」


「僕らが、

 どこまで“切らずに”やれるか」


川の流れが、

一瞬だけ速くなったように見えた。


エルドが、盾を持ち上げる。


「……なら」


「準備は、できてる」


ミリアが頷く。


「前には出る」


「でも、

 一人じゃ行かない」


リュカは、静かに息を吸う。


「配置は、任せてください」


レインは、仲間を見る。


この距離。

この立ち位置。


「……行こう」


「非裁定は、

 退かない」


川を渡る音が、

次の道へ続いていった。


――観測は、終わった


暗い。


場所かどうかすら、定かではない。


床も、壁も、天井もない空間に、

“影”が跪いていた。


その輪郭は、すでに崩れかけている。


「……撤退、完了しました」


声は、かすれていた。


「対象――《非裁定ノーリトリート》」


「因果遮断を、確認」


一段高い位置。


誰かが、指先で顎を支えた。


姿は見えない。

だが、“見下ろされている”感覚だけが、はっきりとある。


「ふぅん」


興味なさそうな声。


「切らない?」


「はい」


「恐怖で選ばせる実装は、

 無効化されました」


「しかも」


影は、少し間を置く。


「連携で、です」


沈黙。


やがて、低く笑う気配。


「……厄介だな」


「英雄でも、蒼衡でもない」


「裁かず、退かず」


「それで前に出るか」


指先が、軽く動いた。


「“完成形”ではないが」


「放置は、できない」


影の輪郭が、さらに薄れる。


「次は」


一言。


「迷わせるだけじゃ、足りない」


空間が、静かに閉じる。


観測は終わった。


だが――

干渉は、これから始まる。


切られなかった世界の裏側で、

“本気”が、ようやく動き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ