表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第9章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/449

裁定の代償

同じ北東街道。


だが、時間は少しだけ前。


蒼衡アズール・バランスは、すでに戦闘を終えていた。


「……遅い」


セイン=ヴァルクスが、血の付いていない剣を収める。


「被害報告は?」


「民間人、三名」


ユールが即答した。


「逃走が遅れた者が二名」

「混乱を煽った者が一名」


ガラン=ディオルが、腕を組む。


「想定内だ」


地面には、

真っ二つに切断された強化魔物の死骸。


断面は美しいほど正確で、

迷いのない一撃だった。


「影の介入は?」


「遮断済み」


リィネ=フォルテが淡々と答える。


「暴走因果は、裁定により排除」


「再発の可能性はありません」


セインは頷いた。


「よし」


「この地域の“混乱要因”は消えた」


だが。


街道の端。


瓦礫の影で、

一人の商人が膝を抱えて震えていた。


仲間を失った顔だ。


「……次だ」


セインは、視線を逸らした。


「感情は、後だ」


蒼衡は、淡々と撤収を始める。


彼らの背後に、

静寂が残る。


血と、

切り捨てられた選択肢と、

戻らない命。


「……問題はない」


ユールが、少しだけ声を落とす。


「結果として、

 街道は安全になりました」


「それでいい」


セインは即答した。


「世界は、全員を救えない」


「だから、

 救う数を最大化する」


ガランは、何も言わない。


だが――

ほんの一瞬だけ、

自分の剣を見た。


切れ味は、

変わっていない。


それでも。


「……非裁定、か」


誰にも聞こえない声で、

セインは呟いた。


「理想論だ」


「だが――」


一拍。


「同じ場所で、

 違う結果を出したとしたら」


その思考を、

彼は振り払った。


「あり得ない」


「切らなければ、

 もっと死ぬ」


それが、

蒼衡の答えだった。


世界機関・第二評価室。


白い石壁に囲まれたその部屋には、

感情よりも先に“数値”が並ぶ。


「北東街道・同時発生事案、

 両対応班の報告が出揃いました」


調停官の一人が、淡々と告げる。


空中に、二つの報告書が並ぶ。


片方――

蒼衡アズール・バランス

•強化魔物:全個体討伐

•影介入:遮断・排除

•地域安全度:即時回復

•民間人被害:死亡三名/負傷二名


もう片方――

非裁定ノーリトリート

•強化魔物:無力化・撤退

•影介入:一部遮断

•地域安全度:段階的回復

•民間人被害:死亡ゼロ/負傷一名(軽傷)


「……数字だけ見れば」


一人の調停官が、低く言った。


「蒼衡の方が、

 “早くて確実”だ」


「ええ」


別の調停官も頷く。


「討伐完了。

 再発率ゼロ。

 管理としては理想的」


だが。


別席にいた老調停官が、

指で《非裁定》の報告を叩いた。


「こちらは?」


「再発の可能性あり」


若い調停官が答える。


「強化個体は生存。

 影の痕跡も完全遮断には至っていません」


「……だが」


老調停官は、視線を上げる。


「“選ばせなかった”」


部屋が、静まる。


「被害ゼロは偶然か?」


「いいえ」


別の評価官が即答する。


「現場判断の積み重ねです」


「退路設計、前線固定、

 因果干渉は一度のみ」


「明確に、

 “切らない戦い”を選んでいます」


「非効率だ」


若い調停官が眉をひそめる。


「全体最適を考えれば――」


「全体最適、とは何だ」


老調停官が遮る。


「“数”か?」

「“結果”か?」

「それとも――

 “残ったもの”か」


沈黙。


「……蒼衡の判断は正しい」


別の調停官が、現実的に言う。


「だが、《非裁定》の結果も、

 無視できない」


「被害ゼロは、

 “誤差”ではない」


誰かが、ぽつりと呟く。


「厄介な連中だな」


「ええ」


調停官は苦笑する。


「管理しづらい」


「だが――」


一拍。


「今の世界に、

 不要とも言い切れない」


記録官が、静かに告げる。


「評価は保留」


「《非裁定ノーリトリート》は、

 独立行動を許可」


「蒼衡との優劣は、

 現段階では――」


言葉を選ぶ。


「決めない」


その瞬間。


誰かが、気づいた。


「……皮肉ですね」


「《非裁定》を、

 “裁定できない”」


老調停官は、わずかに笑った。


「世界は今、

 速さだけを求めすぎている」


「彼らは、

 それに抗っている」


評価室の外では、

新たな被害報告が届き始めていた。


世界は、まだ荒れている。


そして――

“正しさ”は、

一つではない。


北東街道から少し離れた、仮設拠点。


蒼衡アズール・バランスは、簡易天幕の中に集まっていた。


「……世界機関の評価は?」


ガラン=ディオルが、短く問う。


ユールが、端末を操作しながら答える。


「“問題なし”です」


「迅速な制圧、

 被害は想定内」


「優先度の高い地域を

 次に割り当てる、と」


セイン=ヴァルクスは、黙って頷いた。


「当然だ」


「結果は出している」


だが――

リィネ=フォルテが、ほんの一瞬だけ言葉を選んだ。


「……ただし」


「《非裁定》の行動も、

 別枠で記録されています」


ガランの眉が、わずかに動く。


「被害ゼロ、でしたね」


「ええ」


リィネは淡々と続ける。


「世界機関は、

 評価を“保留”にしています」


「優劣を、

 決めなかった」


沈黙。


天幕の外で、風が鳴る。


「……決めない、か」


セインは、低く呟いた。


「切った結果が、

 数字で負けていないのに」


「感情論だ」


そう言い切ろうとして、

言葉が止まる。


脳裏に浮かぶのは、

街道の端で膝を抱えていた商人の姿。


「……いや」


セインは、首を振った。


「俺たちは、

 俺たちのやり方を貫く」


「世界は、

 全員を救えない」


それが、蒼衡の答えだった。


だが――

“疑問”が消えたわけではない。



その頃。


非裁定ノーリトリート》の四人は、

街道沿いの小さな宿にいた。


木の床。

軋む椅子。


評価室の数字も、

調停官の議論も、

彼らには届かない。


「……静かだね」


ミリアが、湯気の立つカップを見つめる。


「さっきまで、

 あんなだったのに」


「終わったからです」


リュカが、淡々と答える。


「少なくとも、

 この街道では」


エルドは、盾を壁に立てかけた。


「……守れた」


誰に言うでもなく、呟く。


「それでいい」


レインは、窓の外を見ていた。


戦場演算バトル・カリキュレーター》は、

静かだ。


褒めも、警告もない。


だが――

胸の奥に、確かな感触が残っている。


(……間違ってなかった)


「なあ」


ミリアが、少し照れたように言う。


「《非裁定》ってさ」


「地味だけど」


「嫌いじゃない」


リュカが、頷く。


「判断を奪わない、

 という意味では」


「今の世界に、

 必要かもしれません」


エルドも、短く言った。


「……立つ理由がある」


レインは、振り返る。


「評価は、後でいい」


「俺たちは、

 俺たちの現場をやる」


三人が、頷いた。


その瞬間――

遠く。


誰にも気づかれない場所で、

“それ”は笑っていた。


「……ほう」


影の黒幕。


顔は見えない。

だが、声には確かな愉悦があった。


「切る者と、

 切らぬ者」


「どちらも、

 思った以上に育った」


指を鳴らす。


「さて……」


「次は、

 どちらを壊そうか」


影が、溶ける。


世界は、まだ荒れる。


だが今、

確かに“別の選択肢”が存在していた。


非裁定ノーリトリート》。


その名は、

まだ小さい。


だが――

消されるには、

少し遅すぎた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ