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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第8章

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想定外は連鎖する

ギルドの空気が、わずかに変わっていた。


騒がしいわけじゃない。

だが、掲示板の前に立つ冒険者たちの視線が、

以前より長い。


「……ねえ」


ミリアが、声を落とす。


「なんか、

 張り紙増えてない?」


「増えています」


リュカが即答した。


「内容も、

 微妙に変わってます」


レインは、依頼書を一枚手に取った。


中型魔獣討伐

危険度:中

※挙動不安定の報告あり

※複数地域で類似例確認


(……“類似例”)


戦場演算バトル・カリキュレーター》が、

わずかに反応する。


因果はまだ薄い。

だが、同じ匂いがする。


「レイン」


エルドが、低く言った。


「この前のやつと、

 似てるか?」


「……ああ」


レインは頷く。


「一体じゃない」


「“型”がある」


その時。


受付の奥が、

慌ただしくなった。


書類を抱えた職員が走り、

別の職員が顔色を変えて戻ってくる。


「……なに?」


ミリアが眉をひそめる。


やがて、

ギルドマスターが姿を見せた。


表情は、硬い。


「――全員、静かに」


ざわめきが、すっと引く。


「一部の情報を共有する」


「まだ、

 正式発表ではない」


一拍。


「だが――」


「冒険者パーティ《紅鷹》、

 全滅を確認」


空気が、凍る。


名前を知っている者が、

息を呑む。


知らない者も、

“全滅”という言葉に反応する。


「……嘘だろ」


誰かが呟いた。


「中堅だぞ、

 あそこ」


「夜営地で、

 争った形跡なし」


「戦闘痕も、

 最小限」


ギルドマスターの声は、低い。


「まるで――」


「最初から、

 殺されると決まっていたかのように」


レインの指が、

わずかに強張った。


(……処理)


《因果遮断》を使った後の、

息切れを思い出す。


あれを――

息切れなしでやる存在がいる。


「……なあ」


ミリアが、

珍しく小さな声で言う。


「これさ」


「もう、

 “普通の依頼”じゃないよね」


レインは、

ゆっくり息を吐いた。


「……ああ」


「想定外は、

 一つじゃなかった」


遠くで、

誰かが依頼書を落とす音がした。


それは偶然じゃない。


世界の想定そのものが、

 ズレ始めている音だった。


紅鷹の現場は、

街から半日ほど離れた林の中だった。


「……ひどいな」


ギルド職員の声が、震える。


地面は荒れていない。

折れた木も、焦げ跡もない。


だが――

人だけが、壊れていた。


「戦闘時間、

 おそらく数十秒」


報告役の冒険者が、淡々と続ける。


「全員、

 武器を抜く前にやられてる」


一人は、喉を裂かれていた。

一人は、背後から首を折られている。

一人は――


「……心臓、

 止められてます」


刃物でも、魔術でもない。


“結果だけ”が残っている。


「抵抗痕なし」


「叫び声もなし」


「つまり」


誰かが、低く呟いた。


「……逃げる判断すら、

 与えられてない」


その報告は、

ギルド内でも極秘扱いになった。


だが――

噂は、必ず漏れる。


「紅鷹が……?」


ミリアは、言葉を失っていた。


「あいつら……

 クズだったけど」


「でも、

 ここまで一方的に?」


エルドは、拳を握る。


「……盾を構える暇もない」


「これは、

 “戦い”じゃない」


リュカは、報告書を見つめたまま言う。


「排除です」


レインは、黙っていた。


戦場演算バトル・カリキュレーター》が、

否定的な反応を返してくる。


(……《因果遮断》)


(あれは、

 “成立を止める”技だ)


(でもこれは)


指先が、冷たくなる。


(成立する前に、

 終わらせてる)


「……レイン」


ミリアが、名を呼ぶ。


「さっきから、

 顔色悪い」


「……平気」


嘘だった。


《因果遮断》を使った時の、

肺が焼けるような感覚。


思考が一瞬、遅れた記憶。


(……あれは)


(限界だった)


「俺の技は」


静かに言う。


「“一回きり”だ」


「連発すれば、

 確実に倒れる」


ミリアが、即座に前に出た。


「じゃあ」


「倒れさせない」


「次は、

 あたしたちが前に立つ」


エルドも、盾を構える。


「……任せろ」


「レインは、

 切る時だけ切れ」


リュカが、頷いた。


「配置と判断は、

 分担します」


「一人に、

 背負わせない」


レインは、三人を見た。


――息が、少し楽になる。


「……ありがとう」


「礼は、後」


ミリアが、歯を見せて笑う。


「生き残ってから」


その時、

別の報告が入った。


「……類似事例、

 もう一件確認」


「今度は、

 北の街道沿い」


部屋の空気が、

一段重くなる。


「……来てるね」


ミリアが、低く言う。


「しかも」


リュカが、視線を上げる。


「紅鷹だけを、

 狙ったとは思えません」


レインは、静かに頷いた。


「……これは」


「俺たちに、

 “追いつけ”って言ってる」


誰が、とは言わない。


だが全員が、

同じものを思い浮かべていた。


想定外は、

 もう連鎖している。


ギルドの判断は、早かった。


「――この件は、

 通常依頼として扱えない」


ギルドマスターの声に、異論は出なかった。


「発生地点が複数」


「対象が不定」


「そして」


一拍。


「冒険者パーティの全滅」


場の空気が、はっきりと変わる。


「討伐依頼ではなく、

 調査案件として凍結する」


「以降、

 単独受注は禁止」


ミリアが、腕を組む。


「……つまり」


「受けるな、ってこと?」


「正確には」


ギルドマスターは、視線を逸らさず答えた。


「受けられる者がいない」


静まり返る。


それは、

危険だからではない。


処理の仕方が分からないからだ。


「……レイン」


ミリアが、小さく声を落とす。


「これ、

 もう“普通の冒険”じゃないよ」


「うん」


レインは、否定しなかった。


戦場演算バトル・カリキュレーター》は、

この状況を“未定義”と判断している。


勝ち筋も、撤退線も、

まだ見えない。


だが――

逃げ道だけは、はっきりしていた。


「……降りるか?」


リュカが、静かに問う。


「今なら、

 まだ選べる」


エルドは、盾に手を置いたまま、黙っている。


レインは、少しだけ考えた。


紅鷹の死体。

息切れした自分。

それでも前に立った三人。


「……降りない」


短く、答える。


「俺の技が、

 限界だとしても」


「限界を知ったなら、

 対処はできる」


ミリアが、即座に笑った。


「でしょ」


「前に立つのは、

 あたしたち」


「レインは、

 切る時だけでいい」


エルドも、頷く。


「盾は、

 壊れないように使う」


「壊れそうになったら、

 引く」


「無理はしない」


リュカが、静かにまとめる。


「つまり」


「これまで以上に、

 連携前提」


「……厄介ですね」


「楽しいでしょ」


ミリアが即答する。


ギルドマスターは、

彼らをしばらく見つめてから言った。


「……依頼としては、

 出せない」


「だが」


「情報提供なら、

 できる」


一枚の紙が、机に置かれる。


北部街道

不定形魔物の目撃

夜間限定

生存者あり


「報酬は、

 保証できない」


「責任も、

 取れない」


「それでも行くなら――」


「行く」


レインの答えは、早かった。


ミリアが、肩をすくめる。


「ほらね」


ギルドマスターは、

小さく息を吐いた。


「……無事で戻れ」


それは、

公式な言葉ではない。


ただの、人としての言葉だった。


外に出る。


街は、相変わらずだ。


人は歩き、

店は開き、

子どもは走っている。


「……守る理由は、

 十分だな」


エルドが、低く言う。


レインは、空を見上げた。


《戦場演算》は、

まだ答えを出さない。


だが――

逃げる理由も、

もう存在しなかった。


「行こう」


静かな声。


想定外は、

もう止まらない。


だからこそ。


彼らは、

 想定の外側で戦う。


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