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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第7章

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完成しない最適解

最初の犠牲は、

誰にも選ばせなかった。


だからこそ、

止められなかった。


街外れの小集落。

戦場にもならない場所。


影は、

そこに“判断の余地”を残さなかった。


――夜明け。


倒壊した家屋。

焼け落ちた納屋。

そして、

動かない人影。


「……遅れた」


ミリアの声が、

かすれる。


血の匂いはない。

だが、

生きている気配もない。


「……切ってない」


リュカが、低く言う。


「配置も、

 選択もない」


「最初から、

 “終わった結果”だけが置かれてる」


エルドは、

盾を強く握っていた。


(……立つ場所が、なかった)


(受ける意味すら、なかった)


レインは、

動かなかった。


戦場演算バトル・カリキュレーター》は、

異常な速度で回っている。


(……間に合う方法は、あった)


(理論上は)


(でも――)


影の声が、

空気に滲む。


「やあ」


「今回は、

 どうだった?」


姿はない。

だが、

“結果”がある。


「これが、

 君たちが守ろうとした世界だよ」


ミリアが、

叫ぶ。


「……出てこい!」


「話が違う!」


影は、

淡々と答える。


「違わない」


「君たちは、

 “立つ者を壊されない方法”を探していた」


「だから」


「立たせなかった」


「……っ」


言葉が、

喉に詰まる。


レインは、

一歩前に出た。


「……もういい」


「次は、

 間に合わせる」


影が、

楽しそうに笑った気配。


「できる?」


「それ」


「君一人で?」


レインは、

答えなかった。


代わりに、

深く息を吸う。


因果再配置リディストリビューション

成立破棄エスタブリッシュ・ノー

認識剥離センス・ストリップ


複数の理論が、

頭の中で重なる。


(……いける)


(全部、繋がる)


(“完成形”は――)


足元に、

淡い“無”が広がる。


《絶対無効圏・真

(アブソリュート・ゼロ/トゥルー)》


――だが。


空間が、

震えた。


成立しない。

均一にならない。


「……っ!」


レインの膝が、

わずかに揺れる。


「レイン!」


ミリアが、

即座に支える。


「無理すんな!」


リュカが、

歯を噛みしめる。


「……完成してない」


「理屈はあるけど」


「現実が、

 追いついてない」


影が、

静かに言った。


「ほら」


「やっぱり」


「一人じゃ、

 立てない」


その瞬間。


エルドが、

一歩前に出た。


だが、

盾を構えない。


「……違う」


低い声。


「一人で、

 立たせない」


盾を、

地面に置く。


「ここは、

 俺が“流す”」


リュカが、

即座に続く。


「じゃあ、

 俺が“繋ぐ”」


戦局重畳レイヤード・フィールド


ミリアが、

剣を抜く。


「なら、

 あたしが“決める”」


「前に出る!」


レインは、

息を呑んだ。


(……足りない)


(でも)


(埋まっていく)


全員の動きが、

一つの形に噛み合う。


《因果再配置》が、

個人技から“合成”に変わる。


影が、

初めて沈黙した。


「……それは」


「一人の技じゃない」


レインは、

静かに答える。


「だから」


「完成する」


光でも闇でもない、

“何か”が、

ゆっくりと形を成し始める。


だが――


まだ、不完全。


本当の完成は、

次の瞬間に委ねられる。


空気が、歪んでいた。


魔力でも、剣圧でもない。

因果の繋がりが、引きちぎられる寸前の感覚。


「……来る」


リュカが、短く言う。


戦局重畳レイヤード・フィールド》は、すでに限界近くまで展開されていた。

重ねた戦域が互いに干渉し、ズレが生まれている。


「時間が……持たない!」


ミリアが前に出る。


踏越位(オーバー・ライン)


だが今回は、前線を“張らない”。

斬らない。止めない。

立つだけ。


「――今だよ、レイン!」


レインは歯を食いしばる。


戦場演算バトル・カリキュレーター

状況が数式ではなく、接続図として再構成される。


(……影は、殺してない)

(殺してないのに、死んでる)

(つまり――結果だけが先に置かれてる)


レインは、息を吸う。


因果遮断(カウザル・ブレイク)


――だが、いつもの“遮断”じゃない。

今回は、敵の術式ではなく、場そのものの因果を断とうとしている。


「っ……!」


空間が、微かに軋む。

“成立する前に消す”はずが、成立の手前が多すぎて追いつかない。


(……足りない)

(俺一人だと、“切る場所”が選べない)


そこで、エルドが盾を前に差し出した。


受けない。構えない。

ただ、置く。


被害集束(コンバージェンス)

還流盾(リターン・シールド)


流れ込むはずだった“最悪”が、盾を起点に偏り、切るべき因果の線が浮き上がる。


「……っ」


エルドの膝が、わずかに沈む。


「エルド!」


「大丈夫だ……!」


声は震えている。


「一人で受けてない……!」


リュカが歯を食いしばる。


戦域把握バトルフィールド・リード

戦局重畳レイヤード・フィールド


「繋ぐ。切る場所を、固定する!」


ミリアが声を張る。


「じゃあ私は――“割る”!」


断戦(ライン・ブレイク)


斬撃が、影の“立ち位置”を裂く。

姿はない。だが――逃げた。


空間が一瞬だけ空白になる。

その空白へ、レインが“遮断”を叩き込む。


因果遮断(カウザル・ブレイク)

――“合成”。


エルドの集束が、切断面を示し、

リュカの重畳が、切断の範囲を限定し、

ミリアの割断が、“逃げ”の因果を削る。


「……なるほど」


影の声が、低く響いた。


「これは――想定外だ」


初めて。

本当に初めて、影の声に苛立ちが混じった。


「個を壊す前提で組まれた世界に、

“複数の因果遮断”を差し込むなんて……」


レインは、最後の線を切ろうとして――止まる。


視界が、白く滲む。


(……まずい)

(《因果遮断》は、対象だけじゃなく)

(俺の“判断”そのものも削っていく)


完成させれば、影は退く。

だが――自分が戻れなくなる。


「……レイン!」


ミリアが異変に気づく。


「それ以上、やるな!」


エルドが叫ぶ。


「一人で終わらせるな!」


リュカも必死に声を張る。


「ここまでで十分だ!」


影が、低く笑った。


「……やっぱり」


「完成じゃない」


「君が壊れる前に止められる。

それが君たちの限界だ」


レインは歯を食いしばりながら、遮断を解いた。


因果遮断(カウザル・ブレイク)は、未完成のまま薄れていく。


その瞬間、全員が膝をついた。

息が荒い。視界が揺れる。


だが――誰も死んでいない。

犠牲は、これ以上出ていない。


影の気配が遠ざかる。


「……いいよ」


声だけが残る。


「今日は、ここまでにしよう」


「でも次は――

“完成させる前提”で壊しに来る」


影は完全に消えた。


静寂。


しばらく誰も動けなかったが、

ミリアが、かすかに笑う。


「……最悪だけど。前より、マシじゃない?」


エルドが苦笑する。


「……壊れなかった」


リュカが深く息を吐く。


「……でも、完成してない」


全員の視線がレインに集まる。


レインはゆっくり立ち上がった。


「……うん」


「だから――完成させる」


「一人じゃなく、みんなで」


この技は切り札じゃない。

**関係性そのものを要求する“因果遮断”**だ。


影は、それを理解してしまった。


次は、もっと過酷になる。

だが――道は、見えた。


しばらく、誰も言葉を発しなかった。


夜明け前の冷たい風が、

崩れかけた集落を静かに撫でていく。


助かった者たち。

失われたもの。

そして――

防げなかった最初の犠牲。


エルドは、盾に額をつけたまま動かなかった。


「……俺が」


小さく呟く。


「もう少し早く、

 “流せて”いれば……」


「違う」


即座に、レインが否定した。


「流せたのは、

 あの一瞬だけだった」


「影は、

 “最初から結果を置いた”」


「誰が立っても、

 あれは防げなかった」


ミリアが、

歯を噛みしめる。


「……それでも」


「次は、

 防ぎたい」


リュカが、

静かに口を開いた。


「……整理しよう」


「さっきの《因果遮断》」


「成立はした。

 でも――」


視線を、レインに向ける。


「レイン一人に

 “切断点の選定”を

 任せたから歪んだ」


レインは、

ゆっくり頷いた。


「……うん」


「俺がやったのは、

 “全部切ろうとした遮断”だ」


「でもそれは、

 世界そのものを

 否定しかけた」


ミリアが、

眉をひそめる。


「じゃあ、

 どうするの?」


「切る場所を、

 減らす?」


「違う」


レインは、

全員を見回した。


「切る場所を、分ける」


沈黙。


次に、

リュカが反応した。


「……因果の担当分け、か」


「うん」


レインは続ける。


「俺は、

 “成立そのもの”を切る」


「でも」


視線を、エルドへ。


「“被害の流れ”は、

 エルドに預ける」


エルドが、

顔を上げる。


「……俺に?」


「受けるんじゃない」


「集める」


エルドは、

ゆっくりと理解する。


「……流路を、

 作るってことか」


「そう」


次に、

ミリアを見る。


「ミリアは、

 “選択を迫られる前線”を壊す」


ミリアが、

にやっと笑う。


「要するに」


「迷わせる前に、

 踏み潰す?」


「近い」


「最後に」


リュカを見る。


「全体を、

 重ねて繋ぐ」


リュカは、

静かに息を吐いた。


「……全部、

 一人でやろうとしてたら

 壊れるわけだ」


「だから」


レインは、

小さく笑った。


「これは、個人技じゃない」


影の気配は、

まだ遠くにある。


だが、

確実に“見ている”。


「……じゃあ」


ミリアが、

剣を肩に担ぐ。


「名前、付けよっか」


リュカが、

少し考える。


「因果遮断を、

 合成した形なら――」


レインは、

静かに言った。


「《因果分断連結》」


一拍。


「読みは――

 リンク・ブレイク」


全員が、

その名を反芻する。


因果分断連結リンク・ブレイク


――因果を完全に消す技じゃない。

――因果を分割し、繋ぎ替える技。


成立条件は、明確だった。

•レインが“成立点”を切る

•エルドが“被害”を集束・還流する

•ミリアが“選択前の前線”を破壊する

•リュカが“全体配置”を同時に重ねる


一人でも欠ければ、成立しない。


「……制約、多いな」


ミリアが言う。


「でも」


エルドが、

静かに続ける。


「一人じゃ、

 立たなくていい」


リュカも、

頷いた。


「判断を、

 分け合える」


レインは、

拳を軽く握る。


戦場演算バトル・カリキュレーター》が、

新しい結論を示す。


(……これなら)


(影は、

 “個を壊す”戦法を

 使えない)


(だが――)


(全員を、

 同時に壊しに来る)


影の声が、

風に混じった。


「……なるほど」


「それが、

 君たちの答えか」


「いいよ」


「次は――」


「完成した前提で、

 全部壊しに行こう」


気配が、

完全に消える。


夜明けの光が、

集落を照らした。


ミリアが、

深く伸びをする。


「……大変そうだね、次」


「うん」


レインは、

静かに答える。


「でも」


一拍。


「やっと、

 “みんなで戦う技”になった」


エルドは、

盾を背負い直す。


「……次は」


「流すだけじゃなく」


「守り切る」


リュカは、

古文書を閉じた。


「影は、

 もう逃げない」


「なら」


レインは、

前を見据える。


「追いつく」


この技は、

世界を救わない。


だが――

一人も壊させないための、最初の一歩だ。


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