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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第7章

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模倣の王

異変は、観測記録から先に消えた。


管理庁の下層ログ。

蒼衡が過去に対処した“コピー能力者”関連の記録。


それらが、同時刻に欠損した。


「……消去じゃない」


記録官が、低く呟く。


「“上書き”だ」


削除ではない。

改竄でもない。


最初から存在しなかったかのように、

因果が組み替えられている。


その異常は、

即座に上層へ回された。



蒼衡・仮設会議室。


空気は重く、

誰一人として軽口を叩かない。


セイン=ヴァルクスは、

卓上に投影された欠損ログを見つめていた。


「……最初のコピー人間」


「街を混乱させ、

 自滅したと処理された個体だ」


「だが」


リィネ=フォルテが、淡々と続ける。


「“自滅した”という結論に至る記録が、

 今、存在しない」


「結果だけが残り、

 過程が消えている」


ガランが、歯噛みする。


「……誰かが、

 “やり直している”のか?」


「違う」


セインは、静かに否定した。


「“やり直す”には、

 世界への干渉が浅すぎる」


一拍。


「これは――」


言葉を選ぶ。


「模倣元が、

 まだ生きている」


その瞬間、

室内の空気が一段、沈んだ。



同時刻。


街道沿いの野営地。


レインは、

焚き火の前で古文書を閉じた。


模写理解アナライズ・コピー》が、

久しぶりに――反応している。


だが、

拾っているのは能力ではない。


(……視線)


(“こちらを知っている”)


ミリアが、即座に剣に手をかける。


「来る?」


「いや」


レインは、首を振った。


「見てるだけ」


エルドが、盾を構える。


「……嫌な見られ方だな」


リュカも、静かに周囲を確認する。


戦域把握バトルフィールド・リード》が、

“敵の不在”を示している。


だが――

不在なのに、圧がある。


その時。


焚き火の向こう、

影が歪んだ。


人の形をしている。

だが、輪郭が曖昧。


まるで、

“何かを真似ている途中”のような存在。


「……久しぶりだね」


声は、

確かに人間のものだった。


だが、

誰の声でもない。


「模写理解」


名指し。


「君が、

 ここまで来るとは思わなかった」


ミリアが、低く唸る。


「……こいつ」


「最初の」


レインは、静かに立ち上がった。


「君が、

 “コピー人間”の起点か」


影は、笑った。


「起点?」


「違うよ」


「完成形だ」


その瞬間。


周囲の空気が、

ごっそり削がれる。


戦場演算バトル・カリキュレーター》が、

計算を拒否した。


(……数式に、

 ならない)


影は、

興味深そうにレインを見る。


「君の能力は、

 “理解して写す”」


「でも」


一歩、近づく。


「僕は、

 理解されなくても写せる」


ミリアが踏み込もうとする。


だが――

止まる。


前線が、

成立しない。


エルドの盾も、

“受ける対象”を失っている。


リュカが、歯を食いしばる。


「……こいつ」


「戦場に、

 立ってない」


影は、満足そうに頷いた。


「正解」


「だから、

 君たちだけじゃ無理だ」


その瞬間。


別方向から、

重い足音。


大剣が地面に突き立てられる音。


「……やはり、来たか」


セイン=ヴァルクス。


蒼衡の部隊が、

森の縁に展開している。


影は、

楽しそうに拍手した。


「いいね」


「管理と否定」


「正反対の思想が、

 ここに揃った」


セインの視線が、

一瞬だけレインを捉える。


敵意。

警戒。

そして――


理解。


「……協力しろ」


短く、命じる。


「こいつは、

 どちらか一方で止められる存在じゃない」


レインは、

一拍だけ考えた。


そして、

頷く。


「……渋々だけどね」


影は、心底楽しそうに笑った。


「いいよ」


「それでこそ――」


「壊しがいがある」


焚き火が、

一瞬で掻き消えた。


夜が、

深く沈む。


世界は今、

初めて――


管理と否定が、

同じ敵を見る段階に入った。



沈黙は、長く続かなかった。


「――で?」


ミリアが、わざとらしく腕を組む。


「いきなり現れて

 “協力しろ”って何様?」


ガランが即座に反応する。


「状況判断だ」


「感情論で動くな」


「感情論!?」


ミリアが噛みついた。


「そっちが一番、

 人を数字で見てるくせに!」


「数字は嘘をつかん」


「人はつく!」


一瞬で火花が散る。


セインが、額を押さえた。


「……やめろ」


「今は――」


「やだね」


レインが、あっさり遮る。


セインの眉が、ぴくりと動いた。


「……何だ?」


「さっきから、

 “協力しろ”しか言ってない」


「説明が足りない」


「状況は見て分かるだろう」


「分かるよ」


レインは、淡々と続ける。


「でも、

 “どう協力するか”が一切ない」


「君たちの協力って、

 要するに――」


一拍。


「僕らが従う前提でしょ?」


ガランが、一歩前に出る。


「命令系統は必要だ」


「戦場ではな」


「ここ、

 戦場じゃないけど?」


ミリアが即ツッコミを入れる。


「……敵、目の前にいるだろうが」


「いるけど、

 立ってない」


レインが言う。


「“戦場に立ってない敵”に、

 戦場のルールを当てはめるのは――」


肩をすくめる。


「雑」


「っ……!」


ガランの拳が、ぎり、と鳴る。


「貴様――」


「ガラン」


セインが制した。


だが、

レインは止まらない。


「それに」


影の方を、ちらりと見る。


「君たち、

 あいつを“排除対象”として見てる」


「僕らは、

 “歪みの起点”として見てる」


「視点が違う」


「結論も違う」


リィネが、静かに口を開いた。


「……では聞く」


「あなたたちは、

 どう止めるつもりですか」


「まだ止めない」


ミリアが即答する。


「は?」


「止めようとした瞬間、

 あいつの思惑通りでしょ」


影が、くすくす笑った。


「いいねえ」


「そういうところ、

 ほんと好きだよ」


ガランが睨みつける。


「黙れ」


「やだ」


影は即答した。


「だって、

 君たち面白すぎる」


「管理は

 “切るか切らないか”」


「否定は

 “奪うか奪わないか”」


くるり、と首を傾げる。


「どっちも、

 僕の土俵だ」


エルドが、盾を一歩前に出した。


「……なあ」


低い声。


「喋ってないで、

 殴っていいか?」


「だめ」


レインとセインが、

同時に言った。


一瞬の沈黙。


ミリアが吹き出す。


「ちょっと、

 そこ被るのムカつくんだけど!」


セインが、苦々しく言う。


「必要な抑止だ」


「同意だけど、

 言い方が偉そう」


「……君たちは、

 本当に協力する気があるのか?」


セインが問い直す。


レインは、

一瞬考えてから答えた。


「あるよ」


「ただし」


視線を真っ直ぐ向ける。


「指揮権は共有」


「切る判断は、

 僕らも止める」


「遅くなる」


「被害が出る」


「それでも?」


「それでも」


レインは譲らない。


「“早く切る”のは、

 君たちがもう何度もやってる」


「その結果が、

 こいつだ」


影が、

両手を広げた。


「呼ばれた?」


「呼んでない」


ミリアが即返す。


セインは、

しばらく黙っていた。


やがて、

深く息を吐く。


「……分かった」


「今回は、

 共同判断とする」


ガランが、驚く。


「セイン!?」


「命令だ」


一言で黙らせる。


セインは、

レインを見る。


「だが」


「遅れた結果、

 被害が出た場合――」


「その時は」


レインも、

視線を逸らさない。


「僕が止める」


「責任も、

 引き受ける」


一瞬。


二人の間に、

奇妙な信頼が生まれた。


影は、

つまらなそうにため息をつく。


「……仲良くなっちゃったか」


「じゃあ」


にやり、と笑う。


「次は、

 もう少し“分かりやすい歪み”を用意しよう」


影が、

森の奥へ溶けていく。


「待て!」


ガランが踏み出しかけるが、

セインが止めた。


「追うな」


「罠だ」


静寂が戻る。


ミリアが、ぼそっと言う。


「……なんか」


「めちゃくちゃ疲れたんだけど」


「同感」


リュカも頷く。


エルドは、

盾を下ろした。


「でも」


「逃げなかったな」


レインは、

焚き火の消えた跡を見る。


「うん」


「次は、

 “選ばせない”じゃ済まない」


蒼衡と、

否定者たち。


世界は今、

最悪の形で――


足並みを揃え始めていた。


事件は、あまりにも分かりやすかった。


森を抜けた先。

街道沿いの交易所。


夜明け前にもかかわらず、

人が集まりすぎている。


「……これは」


リュカが即座に気づく。


戦域把握バトルフィールド・リード》に、

不自然な密度が映る。


「“不安”が、

 人を引き寄せてる」


ガランが、低く唸った。


「噂か」


「間違いない」


セインが言う。


「物資が止まる、

 盗賊が出る、

 誰かが裏切った――」


「恐怖を、

 選択理由に変えるやり方だ」


ミリアが舌打ちする。


「……最悪」


「分かりやすすぎて、

 嫌になる」


交易所の中央。


怒号が飛び交っていた。


「倉庫を閉めろ!」

「いや、開けろ!」

「逃げる準備を――」


誰も剣を抜いていない。

だが、

一触即発。


「……切るか?」


ガランが、

セインに小さく問う。


「まだだ」


セインの視線は、

人の流れ全体を捉えている。


「切れば、

 それが正解になる」


「それは――」


ちらりと、

レインを見る。


「“彼”の勝ちだ」


影は、いない。


だが、

確実に場を作っている。


「……じゃあ」


ミリアが、

肩を回す。


「前に出ない方が、

 難しいやつね」


「出ていい」


レインが言う。


「でも――」


一拍。


「止めるためじゃなく、

 立つために」


ミリアは、

にやっと笑った。


「了解」


踏越位オーバー・ライン


だが、

踏み込まない。


交易所の中央、

ちょうど視線が集まる位置に、

“立つ”。


剣は抜かない。


ただ、

動かない。


「……?」


ざわつきが、

一瞬だけ鈍る。


その隙に。


エルドが、

倉庫前へ進む。


盾を、

真正面に構える。


受理領域アクセプト・ゾーン


怒号と視線が、

彼に集まる。


「誰だ!?」

「邪魔するな!」


エルドは、

何も言わない。


ただ、

退かない。


リュカが、

交易所の外周を回る。


《戦域把握》

退路設計エスケープ・ライン


人の流れが、

自然と“散る”。


押し合いが、

起きない。


セインは、

それを見て歯を噛んだ。


「……合理的じゃない」


「でも」


リィネが静かに言う。


「混乱指数は、

 下がってます」


ガランが、

小さく舌打ちする。


「……殴れない敵ほど、

 厄介だな」


その瞬間。


倉庫の屋根が、

わずかに歪んだ。


「来る!」


レインが告げる。


影が、

屋根の上に“立った”。


いや、

立っているように見えるだけ。


「おめでとう」


楽しそうな声。


「ちゃんと、

 “切らなかった”ね」


「でも」


一歩も動かずに言う。


「これでも、

 止まってる」


交易所の人々は、

まだ迷っている。


暴れていない。

だが、

決めてもいない。


「……どうする?」


セインが、

低く問う。


レインは、

一瞬だけ目を閉じた。


戦場演算バトル・カリキュレーター》が、

久しぶりに――答えを出さない。


「……今回は」


静かに言う。


「“解決”しない」


「は?」


ミリアが振り向く。


「代わりに」


レインは、

影を見る。


「勝たせない」


影が、

初めて目を細めた。


「……それは」


「ずるいな」


レインは、

淡々と続ける。


「恐怖で煽る」


「判断を奪う」


「でも」


「結果を出せないなら、

 君は――」


一拍。


「ただの、

 騒音だ」


認識剥離センス・ストリップ


影の“存在感”が、

わずかに削がれる。


完全じゃない。

だが――

注目が、落ちる。


人々の視線が、

倉庫と互いへ戻る。


影は、

舌打ちした。


「……なるほど」


「管理と否定を、

 混ぜると」


「こんな、

 面倒な場になるのか」


くるり、と背を向ける。


「いいよ」


「次は、

 逃げ場をなくそう」


影は、

消えた。


交易所には、

疲労だけが残る。


「……終わった?」


ミリアが聞く。


「一応」


レインが答える。


「勝ってないけど」


「負けてもいない」


セインが、

ゆっくりと剣を収めた。


「……認めよう」


「今回の最適解は、

 君たちだった」


ミリアが、

即返す。


「一回だけね」


ガランが、

鼻を鳴らす。


「次は、

 俺が前に出る」


エルドは、

盾を下ろした。


「……怖かった」


正直な声。


「でも」


「逃げなかった」


レインは、

小さく頷いた。


「それでいい」


焚き火も、

歓声もない。


だが、

交易所は崩れなかった。


世界は今、

確実に理解し始めている。


この連中は、

 壊さずに、

 負けさせる。


そしてそれは――

一番、厄介な存在だった。


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