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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第6章

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均衡を壊す者、均す者

街の空気が、完全に変わった。


封鎖された区画の中。

人の流れは止まり、

代わりに――判断の匂いが漂っている。


「……始まってる」


ミリアの声は低い。


視界の先、

広場へ続く通りで、数人の市民が立ち尽くしていた。


進めば危険。

戻れば拘束。


どちらを選んでも、

誰かの都合で決められた未来。


「くそ……」


ミリアが一歩踏み出そうとした、その瞬間。


「動くな!」


別方向から、重い声。


蒼衡。


ガラン=ディオルが、すでに市民の前に立っている。

大剣を地面に突き立て、

逃げ道を“塞ぐ形”で。


「ここから先は、

 秩序管理区域だ」


「区域?」


ミリアが噛みつく。


「人が立ってる場所を、

 勝手に区切るな!」


「必要な判断だ」


ガランの声に、迷いはない。


「このまま放置すれば、

 混乱が拡大する」


「だから――」


言葉の途中で、

ミリアが動いた。


踏越位オーバー・ライン


前線の概念を越え、

ガランの真正面へ。


前線穿断フロント・ピアース


一直線の突進。


だが――


「甘い!」


ガランの大剣が、

正面から叩き落とされる。


衝撃で、地面が割れた。


「っ……!」


ミリアは後方へ跳ぶ。


(……重い。

 英雄ほどじゃないけど……)


「前に出るだけじゃ、

 守れんぞ!」


「前に出ない人に、

 言われたくない!」


次の瞬間。


断戦ライン・ブレイク


空気ごと裂く一撃が、

ガランの防御を削る。


火花が散る。


その裏で――


「固定」


リィネ=フォルテの声。


未来収束フューチャー・ロック


市民たちの周囲に、

不可視の枠が形成される。


「動かないでください」


「あなたたちが動くと、

 被害が増えます」


「……なに、それ」


ミリアの怒りが、はっきりと宿る。


「人を、

 置き物みたいに――」


「違う」


レインの声が割り込む。


因果遮断カウザル・ブレイク


枠が、成立しなかったことになる。


リィネの魔術が、音もなく消える。


「……やはり」


リィネは冷静だった。


「あなたが、

 “不確定要素”」


レインは一歩前に出る。


戦場演算バトル・カリキュレーター》が、

広場全体を再構築。


(蒼衡、四人)


(市民、七)


(切る前提で組まれてる……)


「セイン!」


レインは、蒼衡のリーダーを見る。


「これ以上、

 人を巻き込むな」


「巻き込んでいない」


セイン=ヴァルクスは即答する。


「すでに、

 選択肢は与えている」


「安全か、拘束か」


「どちらも、

 生存する未来だ」


「……違う」


レインの声が、低くなる。


「それは、

 “従わせてる”だけだ」


「従わせる?」


セインの目が、細くなる。


「従わなければ、

 死ぬ可能性がある」


「それを排除するのが、

 管理だ」


その瞬間。


リュカが、地面に手をついた。


戦域把握バトルフィールド・リード


広場の配置が、

一気に反転する。


「……今だ!」


退路設計エスケープ・ライン


市民の背後に、

“自然な逃げ道”が生まれる。


「動いて!」


ミリアの声。


市民が、咄嗟に走る。


「なっ――!」


ユールが気づいた時には遅い。


「配置が……壊された!?」


「壊したんじゃない」


レインが言う。


「選ばせただけだ」


セインの視線が、鋭くなる。


「……なるほど」


「だから、

 壊す側か」


二つの正義が、

真正面から激突する。


剣が鳴り、

魔力が炸裂し、

地面が抉れる。


もはや、

英雄が止める舞台ではない。


これは――

思想そのものの戦闘だ。


広場は、すでに戦場だった。


石畳が砕け、建物の壁が抉れ、

逃げ遅れた露店の布が風に裂かれていく。


「――前に出すぎだ!」


ガランの怒号と共に、大剣が振り下ろされる。


《断定斬(だんていざん/デシジョン・スラッシュ)》


迷いのない一撃。

“不要”と判断されたものを切り捨てるための斬撃。


ミリアは、真正面から受けない。


踏越位オーバー・ライン


攻撃線をずらし、

刃の外側へ滑り込む。


断戦ライン・ブレイク


側面からの一閃が、

ガランの鎧を削り、火花を散らす。


「……くっ!」


「切る覚悟はあるのに、

 守る覚悟が足りない!」


ミリアの声が、戦場に響く。


「守るだと?」


ガランは歯を食いしばる。


「守るために切っている!」


その言葉が、

二人の立ち位置の違いを決定的にしていた。


一方、後方。


「――制御を上げます」


リィネが静かに詠唱を開始する。


未来収束フューチャー・ロック

副次分岐遮断サブ・ブランチ・カット


可能性が、

音もなく削ぎ落とされていく。


「……動きが、

 狭められてる」


リュカが歯噛みする。


《戦域把握》で読み取れるのは、

“安全だが逃げられない”配置。


「このままだと……」


「切られるね」


レインが、淡々と続ける。


戦場演算バトル・カリキュレーター》が、

最悪の未来を算出する。


(……市民二名)


(……混乱要因として、

 排除される)


レインの視線が、セインに向く。


「……やる気だね」


「当然だ」


セインは、冷静だった。


「混乱が拡大すれば、

 被害は指数関数的に増える」


「ならば――」


一歩、前に出る。


「ここで切る」


その宣言と同時に、

ユールが動いた。


配置誘導フォース・ポジション


市民二人が、

“自然に”ガランの射線へ追い込まれる。


「……っ!」


ミリアが、思わず叫ぶ。


「やめ――」


その瞬間。


「リュカ」


レインの声は、低く、短い。


「了解」


戦域把握バトルフィールド・リード

即席退路構築インスタント・エスケープ


“存在しなかった路地”が、

市民の背後に生まれる。


「今だ!」


二人は、転がるように逃げ出す。


「なっ……!」


ユールの顔色が変わる。


「配置が、

 上書きされた!?」


「上書きじゃない」


レインが、ゆっくり歩き出す。


「最初から、

 選択肢を奪う配置が間違ってる」


セインの表情が、初めて揺れた。


「……だが、

 それでも混乱は残る」


「なら」


レインは、そこで立ち止まる。


「ここで、

 全部止める」


周囲の空気が、凍る。


ミリアが、息を呑んだ。


(……まさか)


リュカも、察する。


(……《あれ》を使う気か)


レインの足元から、

静かな“無”が広がり始める。


《絶対無効圏・真

(アブソリュート・ゼロ/トゥルー)》


まだ、完全には展開していない。


だが――

次に一歩踏み出せば、

戦場そのものが否定される。


セインは、即座に理解した。


(……これは)


(……均衡を、

 壊す力だ)


「……止めろ」


珍しく、

感情を含んだ声。


「それを使えば、

 この街は――」


「知ってる」


レインは、静かに答える。


「だから、

 今が境界だ」


二人の視線が、

正面からぶつかる。


――次の瞬間。


どちらかが、

踏み出す。


沈黙が、戦場を包んだ。


《絶対無効圏・真

(アブソリュート・ゼロ/トゥルー)》


レインの足元から広がる“無”は、

魔力でも、剣気でもない。


概念の否定だ。


踏み込めば、

術も、力も、判断すら成立しなくなる。


セインは、即座に理解した。


(……これは)


(均衡では止められない)


「……撤退」


短く、だがはっきりと命じる。


「配置解除。

 切る判断は、破棄する」


ユールが、驚いたように声を上げる。


「セイン!

 ここで引けば――」


「いい」


遮る。


「これ以上続ければ、

 “世界そのもの”が壊れる」


リィネも、すでに術式を解いていた。


「……了解」


《未来収束》が、解かれる。


街を覆っていた“選ばれた未来”が、

一気に解放される。


その瞬間。


レインは、一歩も踏み出さなかった。


《絶対無効圏・真》は、

完全には展開されないまま、

静かに消えていく。


ミリアが、息を吐いた。


「……使わなかった」


「うん」


レインは頷く。


「使えば、

 この街は助かる」


「でも」


視線を、市民たちに向ける。


「選ぶ余地まで、

 消してしまう」


それは、

蒼衡と同じことになる。


セインは、その言葉を黙って聞いていた。


やがて、ゆっくりと口を開く。


「……理解はできない」


「だが」


一歩、距離を取る。


「君たちが、

 甘さだけで動いていないことは分かった」


ミリアが、即座に返す。


「あなたたちも、

 冷酷だけじゃない」


「それが、

 一番厄介なんですけど」


ガランが、低く笑った。


「次は、

 こうはいかんぞ」


「分かってる」


レインは、真っ直ぐに答える。


「次は、

 止まらない」


一瞬、

互いの視線が絡み合う。


敵意。

警戒。

そして――

認め合ってしまった力の差。


セインは、踵を返した。


「行くぞ」


蒼衡は、静かに撤退する。


街には、

壊れた石畳と、

助かった人々だけが残った。


ミリアが、剣を収める。


「……勝った、

 って感じしませんね」


「勝ってないからね」


リュカが答える。


「ただ、

 分かれただけだ」


レインは、空を見上げた。


模写理解アナライズ・コピー》は、

再び沈黙している。


だが――

次に拾う歪みは、

もっと大きい。


「……行こう」


「世界は、

 まだ選ばせたがってる」


三人は、街を後にする。


その背後で、

誰にも気づかれず、

“均衡”と“否定”は、

決定的に分断された。



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