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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第6章

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均された結果

報告書は、乾いた紙の音を立てて机に置かれた。


「倉庫街不正干渉事件――処理完了」


件名は簡潔。

感情の入り込む余地はない。


セイン=ヴァルクスは、内容を再確認するでもなく頁をめくった。

数字。配置。行動履歴。

どれも想定通りだ。


「被害総数、最小。

 街の機能低下、なし。

 再発率、低」


淡々と読み上げる。


向かいに立つリィネ=フォルテが、小さく頷いた。


「帳簿焼却は偶発ではありませんでしたが、

 拡大要因は排除済みです」


「排除、という言い方は正確だな」


セインは一瞬だけ、視線を上げる。


「“救えなかった”ではない。

 “切った”」


その言葉に、誰も反論しない。


ガラン=ディオルが腕を組んだまま言う。


「街は静かになった。

 それで十分だろ」


「十分だ」


セインは即答する。


「秩序は感謝を必要としない」


ユール=セティアが、壁際から軽く手を挙げた。


「ただ一つ、気になる点があります」


「言え」


「今回の件、

 “別の介入”がありました」


空気が、わずかに変わる。


「我々が到着する前に、

 すでに“流れ”が壊されていた」


「死者なし。

 被害も最小。

 だが――」


ユールは肩をすくめる。


「やり方が、違う」


セインは、そこで初めて考えるように沈黙した。


「……名前は?」


「不明。

 ただし三人組」


「一人は前衛。

 一人は後衛。

 一人は、場を読むタイプです」


リィネが、静かに付け加える。


「未来分岐の扱いが、

 異常に“柔らかい”」


「固定しない。

 収束させない。

 ただ、壊す」


セインは、報告書を閉じた。


「……非効率だ」


その一言に、ガランが低く笑う。


「だが、

 街は救われた」


「結果として、な」


セインは立ち上がる。


「だが世界は、

 結果だけで回っているわけじゃない」


「“選ばせない”やり方は、

 いつか破綻する」


窓の外、穏やかな街並みを見下ろす。


「人は、

 選ばなければならない瞬間が来る」


「そのとき――」


一拍。


「彼らは、どうする?」


答えは出さない。


出す必要もない。


セインは、静かに言った。


「進むぞ。

 次の街へ」


「いずれ――」


「必ず、交わる」


その言葉だけが、

確定事項として残った。


次の街は、穏やかだった。


朝の市場には人が集い、露店の呼び声が重なり合う。

争いの気配も、疑いの視線もない。

一見すれば、どこにでもある平和な街だ。


「……静かすぎない?」


ミリアが、小さく言った。


「前の街の後だと、

 逆に気になりますね」


リュカは、歩きながら周囲を観察している。

人の流れ。立ち話の位置。

《戦域把握》が、違和感を拾い始めていた。


「……均されてる」


「え?」


ミリアが振り向く。


「事件が起きる前から、

 “起きないように”動いてる形だ」


レインは、露店の並びを見ていた。

模写理解アナライズ・コピー》が拾うのは、

敵意ではなく――判断の痕跡。


(……警戒してる)


(……でも、理由が共有されていない)


「……誰かが、

 先に動いてるね」


レインの言葉に、リュカが頷く。


「しかも、

 俺たちのやり方じゃない」


三人は、宿に荷を置いた後、街を一周した。

事件はない。

だが、“処理された後”の気配が残っている。


閉じられた倉庫。

移転した露店。

街を離れた数人の名前。


「……人が、いなくなってます」


ミリアが低く言う。


「消えた、というより」


リュカが補足する。


「“切られた”」


その言葉に、ミリアは顔をしかめる。


「……それ、

 助けたって言えるんですか」


「言えないな」


リュカは即答する。


「でも、

 街は静かだ」


レインは立ち止まった。


《模写理解》が、一つの共通点を浮かび上がらせる。


(……選ばせている)


(……市民自身に、

 “必要な判断”だと思わせて)


「……これ」


レインは、静かに言う。


「前の街で、

 俺たちが壊したやり方に近い」


「でも」


一拍。


「壊し方が、違う」


ミリアが、拳を握る。


「……気に入らないですね」


「だろうな」


リュカは、苦笑に近い表情を浮かべる。


「正しいことしか、

 してないからな」


正しい。

合理的。

被害最小。


否定しづらい。


だが――

レインは、その街の空気をもう一度吸い込んだ。


《模写理解》は、

“起きなかった未来”を拾えない。


(……選ばれなかった人)


(……切られた可能性)


(……もう、ここにはいない)


「……会うかもね」


レインが、ぽつりと言った。


「この街で、

 同じことをしてる人たちに」


ミリアが、即座に言う。


「そのときは?」


「話す」


レインは、迷いなく答える。


「……分かり合えなくても」


リュカは、遠くの通りを見つめた。


「いや」


「分かり合えないからこそ、

 ぶつかる」


街は、今日も平和だ。


だがその平和は、

誰かの“選択”の上に成り立っている。


それを、

三人はまだ知らない。


そして同じ頃――

この街のどこかで、

別の冒険者パーティもまた、

“正しい仕事”を終えようとしていた。


夜、宿の窓から街を見下ろすと、灯りは規則正しく並んでいた。

騒ぎもなく、怒号もない。

静かで、整っている。


「……綺麗ですね」


ミリアが、ぽつりと言う。


「うん」


レインは頷くが、視線は外れない。


模写理解アナライズ・コピー》が拾うのは、

人の感情ではなく――欠けた部分だ。


(……歪みはない)


(……でも、余白もない)


「……この街」


レインが言葉を選ぶ。


「最初から、

 “こうあるべき姿”が決められてる」


リュカは、壁に背を預けたまま言った。


「それを作った奴がいる」


「しかも、

 かなり優秀だ」


ミリアは腕を組む。


「敵?」


「まだ分からない」


リュカは即答する。


「少なくとも、

 悪意だけで動いてない」


それが、厄介だった。


そのとき――

通りの向こうで、短い悲鳴が上がった。


三人は、同時に立ち上がる。


現場は、路地裏。

倒れているのは、商人風の男。

大きな怪我はないが、顔色が悪い。


「……恐喝?」


ミリアが周囲を警戒する。


「いや」


リュカが首を振る。


「争った形跡が、ない」


レインは、男の手を見た。

震えが、もう止まっている。


(……判断された)


(……ここに“いてはいけない”と)


「……助けます」


ミリアが一歩踏み出そうとした、その瞬間。


「――待て」


低い声が、路地の奥から響いた。


影の中から、四人の人影が現れる。

統率された歩き方。

無駄のない配置。


ミリアが、息を呑む。


「……あ」


レインも、理解した。


(……同時に来た)


(……同じ事件を、

 別の結論で追ってる)


前に出た男が、淡々と告げる。


「その男には、

 これ以上関わるな」


「街の秩序を乱す要因だ」


ミリアの目が、鋭くなる。


「……それ、

 あなたが決めることですか」


男は答えない。

代わりに、一歩だけ前に出る。


その動きで、

リュカは確信した。


(……こいつら)


(……蒼衡)


セイン=ヴァルクスは、

初めてレインを正面から見た。


一瞬だけ、視線が交わる。


何も言わない。

だが――

互いに分かってしまった。


(……壊す側)


(……均す側)


レインが、静かに口を開く。


「……理由を、聞かせてもらえますか」


セインは、短く答えた。


「必要ない」


「すでに、

 最適解は出ている」


ミリアの手が、剣にかかる。


リュカは、一歩横に立つ。


「……なるほど」


「これは、

 話が長くなりそうだ」


路地裏の空気が、張りつめる。


まだ、剣は抜かれていない。

だが――

次に言葉を選び間違えれば、

 戦いになる距離。


街の灯りは、変わらず穏やかだ。


その下で、

二つの正義が、初めて向かい合った。


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