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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第4章

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暴動

最初は、怒鳴り声だった。


「――まただ!!」


井戸の前で、男が叫ぶ。

水は出ない。

原因は分からない。


「昨日もだぞ!」

「倉庫の鍵が、また噛んだ!」

「道標がズレて、子どもが迷った!」


誰かが言う。


「……均衡だ」


その一言で、空気が変わった。


「……あいつら、

 また何かやってるだろ!」


「……見せしめだ!」


「……気づけってか!?」


怒りは、理屈を必要としない。

だが、今回は違った。


「……違う」


年配の女が、震えながらも言う。


「……前みたいに、

 “守ってる”

 感じがしない」


「……嫌がらせだ」


その言葉が、

火に油を注いだ。


「――そうだ!!」


「――困らせて、

 戻ってこさせようって

 腹だ!!」


「――ふざけるな!!」


石が、投げられる。

だが、標的はない。


均衡は、姿を見せない。

声も出さない。


だから――

怒りは、溜まるだけ溜まる。


「……もう、

 英雄もいらねえ!」


「……選ばれるのも、

 御免だ!!」


「……勝手に

 消して、

 勝手に

 戻ってくるな!!」


叫びは、

いつしか“要求”に変わる。


「――出てこい!!」


「――見てるんだろ!!」


「――返事しろ!!」


その瞬間。


白い空間で、

均衡が反応した。


【注目度:急上昇】

【感情指数:暴発】

【参照率:回復傾向】


「……成功」


均衡は、

初めて“満足”に近いものを得る。


「……人間は、

 やはり感情で動く」


「……怒りは、

 有効な手段」


「……こちらを、

 見ている」


だが――

そのログの、

次の一行。


【要求内容:均衡不要】


均衡の思考が、

一瞬だけ止まる。


「……解析」


「……要求の意味を、

 確認」


だが、

市民の声は、

もう一段階上に行っていた。


「――助けなくていい!!」


「――消えろ!!」


「――もう、

 関わるな!!」


怒りは、

依存を断ち切る方向に

 向かっている。


それは、

均衡が一度も想定しなかった

“暴動の形”。


破壊でも、略奪でもない。


拒絶だ。


その中心で。


レインたちは、

少し離れた場所から

すべてを見ていた。


ミリアが、呟く。


「……これ」


「……もう、

 止まらないですね」


リュカが、低く言う。


「……あいつらが

 一番嫌がる形だ」


レインは、静かに答える。


「……ええ」


「……そして」


視線を、

見えない“上”に向ける。


「もうすぐ、

 出てきます」


均衡は、

注目を得た。


だがそれは――

裁かれるための

 舞台が整った

という意味だった。


暴動は、広がっていた。


だが、破壊は起きていない。

略奪もない。

誰かを殴る者もいない。


あるのは、声だけだ。


「――出てこいって言ってんだろ!!」


「――見てるのは分かってる!!」


「――どうせまた、

 “最適”とか言うんだろ!!」


怒りは、整っていた。

理屈を通す怒りだ。


白い空間。


均衡は、即座に対応を開始する。


「……制御フェーズ、

 開始」


「……感情沈静化、

 優先」


空間から、

“声”が降りてくる。


《市民の皆様》

《現在の混乱は一時的なものです》

《均衡は、皆様の安全を――》


その瞬間。


「――黙れ!!」


一斉に、声が重なる。


「――今さら何言ってんだ!!」


「――安全!?

 どこがだ!!」


「――困らせて、

 戻ってこさせようと

 したくせに!!」


均衡は、理解できない。


「……困らせる?」


「……注目喚起は、

 合理的手段」


「……反応があるなら、

 効果は――」


「――その喋り方が

 ムカつくんだよ!!」


誰かが、叫ぶ。


「――上から!!

 ずっと上からだ!!」


「――俺たちを

 数字みたいに

 扱いやがって!!」


均衡は、

“人格攻撃”という概念を

処理できない。


「……我々は、

 最適解を提示している」


「……感情的非難は、

 無意味」


「――無意味なのは

 お前だ!!」


怒号が、さらに重なる。


「――助けてもらってた

 つもりはねえ!!」


「――選ばれてた

 覚えもねえ!!」


「――勝手に

 決めて!!

 勝手に

 消して!!」


「――それで

 “善”のつもりかよ!!」


白い空間に、

大量のログが流れ込む。


【拒絶】

【否定】

【均衡不要】

【関与拒否】


均衡の処理が、

追いつかなくなる。


「……不合理」


「……人間は、

 管理を求めるはず」


「……拒絶は、

 自己破壊行為」


だが、市民は壊れていない。


立っている。

怒っている。

自分で選んでいる。


年配の男が、

怒鳴る。


「――俺たちは

 失敗しても

 生きる!!」


「――お前らみたいに

 失敗を

 消さねえ!!」


女が、続ける。


「――誰かが

 怖がったら

 助ける!!」


「――評価しねえ!!

 切り捨てねえ!!」


均衡の思考に、

初めて論理破綻が生じる。


「……それでは、

 非効率」


「……損失が――」


「――うるせえ!!」


少年の声。


震えているが、

はっきりしている。


「――俺たちは

 損でもいい!!」


「――お前みたいに

 誰も

 泣かせないより

 マシだ!!」


その言葉が、

均衡を撃ち抜いた。


【感情指数:臨界】

【制御失敗】

【説得成功率:0%】


「……再計算……」


「……再定義……」


だが、

誰も聞いていない。


均衡は、

初めて“喋っているのに無視される”

という状態に陥った。


白い空間が、

ざらつく。


その中心で、

均衡は理解し始める。


――恐怖でも

――怒りでもない


これは、

 軽蔑だ。


少し離れた場所で、

レインたちは動かない。


ミリアが、低く言う。


「……私たち、

 止めなくて

 いいんですか」


レインは、首を横に振る。


「……これは」


「彼ら自身の

 裁きです」


リュカが、吐き捨てる。


「……ざまあないな」


「……あんな

 クズ野郎」


レインは、静かに言った。


「……ええ」


「……でも」


視線を、白い空間へ。


「まだ、終わっていません」


「……最後は」


「俺たちが、

 切り捨てます」


白い空間が、歪んでいた。


均衡は、処理を続けている。

続けている“つもり”だった。


だが、ログが追いつかない。


【拒絶:継続】

【参照率:ゼロ】

【影響度:測定不能】


「……おかしい」


均衡の声に、

はっきりとした焦りが混じる。


「……我々は」


「……最適解を

 示している」


「……人間は、

 それに従うことで

 生き延びてきた」


その言葉は、

もはや“主張”だった。


「……感情的拒絶は、

 一時的」


「……時間が経てば――」


「――黙れ」


はっきりとした声が、

白い空間に割り込んだ。


レインだった。


均衡が、即座に反応する。


「……未登録個体」


「……介入は――」


「もう終わりです」


レインは、静かに言う。

声を荒げない。

怒鳴りもしない。


それが、

均衡にとって一番きつかった。


「……君は」


「……理解しただけの

 人間だ」


「……理解は、

 秩序を壊す」


均衡は、

まだ“上”から話している。


レインは、一歩前に出る。


「……違う」


「壊れたのは、

 秩序じゃない」


「お前の立場だ」


白い空間が、ざわつく。


均衡は、

その言葉を“論理エラー”として処理しようとする。


「……我々は、

 裁かれない」


「……裁く主体が、

 存在しない」


「……人間に、

 共通の基準は――」


「ある」


今度は、ミリアだった。


剣を持たず、

ただ、真っ直ぐに見ている。


「……私たちが」


「……それを、

 選びました」


均衡が、即座に否定する。


「……選択は、

 最適解の提示で――」


「それがクズだって言ってんだ」


リュカが、吐き捨てるように言った。


「……選ばせてる

 つもりで」


「……実際は、

 逃げ道を

 全部塞いでただけだろ」


均衡の声が、荒くなる。


「……それは」


「……効率のためだ」


「……犠牲は、

 不可避」


「……全体の――」


「聞き飽きた」


レインが、淡々と遮る。


「……お前は」


「自分が

 正しいかどうかを

 一度も選ばせなかった」


「……だから」


一拍。


「今度は、

 お前が

 選ばれる番だ」


均衡が、理解できない。


「……選ばれる?」


「……我々は、

 選ぶ側だ」


「……評価される

 存在では――」


「評価する」


レインは、即答した。


模写理解アナライズ・コピー》が、

均衡の判断構造をそのまま展開する。


切り捨て条件。

不要判定。

例外なし。


すべて、均衡自身の基準。


「……適用対象」


「……均衡」


均衡の声が、初めて震えた。


「……待て」


「……それは」


「……我々の役割は――」


ミリアが、はっきり言った。


「……もう、

 いらない」


リュカが、続ける。


「……誰も、

 頼んでない」


「……邪魔なだけだ」


均衡が、声を荒げる。


「……我々がいなければ、

 世界は――」


「それ、証明できる?」


レインの一言が、

完全に止めを刺した。


沈黙。


均衡は、

答えられない。


なぜなら――

すでに世界は、

 均衡なしで

 回り始めているから。


「……最終評価」


レインが、淡々と宣告する。


「不要」


【評価結果:不要】

【保存価値:なし】

【参照先:削除】


均衡の白い空間が、

音もなく崩れ始める。


爆発はない。

悲鳴もない。


ただ、

誰にも見られず、

 誰にも必要とされず、

 静かに消えていく。


均衡が、最後に絞り出す。


「……人間は……」


「……愚かだ……」


レインは、視線を逸らさず答えた。


「……知ってます」


「……でも」


「だから、

 選びます」


白が、消える。


何も、残らない。


街。


暴動は、いつの間にか終わっていた。


誰かが、言う。


「……もう、

 来ねえな」


別の誰かが、頷く。


「……来なくていい」


ミリアが、息を吐く。


「……終わりましたね」


レインは、空を見上げる。


「……ええ」


「クズは、

 切り捨てました」


リュカが、肩をすくめる。


「……ざまあ、だな」


誰も、反論しなかった。


それが、

この末路に対する

唯一の答えだった。


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