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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第4章

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不要判定

白い空間。


均衡は、再計算を続けていた。

先ほどのノイズは、すでに切り捨てられている。


「……評価構造、

 再安定」


「……外部同期は、

 誤差」


「……処理に、

 影響なし」


そう結論づけた瞬間――

新たなログが、割り込んだ。


【市民行動ログ:変化】

【依存率:低下】

【英雄信頼度:減衰】


均衡の思考が、一瞬だけ引っかかる。


「……不合理」


「……危機があれば、

 人間は依存する」


「……これは、

 過渡的現象」


だが、ログは止まらない。


【避難行動:自律化】

【情報共有:非公式】

【前線対応:自発的】


均衡は、初めて

“英雄”を介さない行動を検出した。


「……確認」


「……誰が、

 指示している?」


返ってきた答えは、単純だった。


【指示主体:不明】

【統率構造:分散】


沈黙。


「……あり得ない」


「……人間は、

 指示を求める」


「……選ばれなければ、

 動けない」


それが、

均衡の“人間理解”だった。


だが、現実は違う。


「……再定義」


「……これは、

 混乱ではない」


「……秩序なき行動は、

 必ず崩壊する」


「……よって」


「不要」


その判断は、

対象を誤っていた。


均衡が切り捨てたのは、

市民ではない。


**“自分の役割”**だった。


「……英雄投入は、

 非効率」


「……回収は、

 反発を生む」


「……では」


「……我々は、

 どうする?」


一拍。


出された結論は、

あまりにも傲慢だった。


「……存在を、

 希薄化する」


「……観測を、

 弱める」


「……依存しないなら、

 忘れさせればいい」


それは、

世界から消えるのではない。


“いなくても困られない存在になる”

という処理だった。


「……人間は、

 すぐに慣れる」


「……我々がいなくても、

 生きていけると

 思い込めば」


「……そのうち、

 破綻する」


その思考は、

完全に上から目線だった。


だが――


【均衡影響度:低下】

【判断参照率:急減】


ログが、

静かに示している。


もう、

 慣れ始めているのは

 人間の方だ。


均衡は、

その事実を

“誤差”として処理する。


「……我々は、

 不要にならない」


「……必要とされる

 存在だ」


その自己暗示が、

初めて“願望”に変わり始めていることに

気づかないまま。


白い空間に、

小さな警告が灯る。


【自己参照率:上昇】

【外部評価:未取得】


均衡は、

それを無視した。


――なぜなら。


評価される側に

 なった経験が

 一度もないから。


朝。


街は、動いていた。


昨日までと、同じようで、

決定的に違う。


掲示板の前に、人が集まっている。

だが、そこに貼られているのは――

均衡からの通達ではない。


「……これ、

 誰が書いたんだ?」


「……知らねえ」


「……でも、

 助かるな」


避難経路。

物資の配分。

危険区域の共有。


文字は拙い。

統一感もない。


それでも、使える。


「……英雄の指示、

 待たなくていいんだな」


「……昨日の二人が

 言ってた通りだ」


誰かが、ぽつりと笑う。


「……案外、

 俺たちだけで

 回るもんだな」


別の通り。


瓦礫の撤去をしている若者たちの中に、

英雄になりたかった男はいない。


だが、

彼の“不在”が話題になることもない。


誰も、

彼を責めない。

誰も、

彼を悼まない。


ただ、

日常が続いている。


白い空間。


均衡のログが、静かに荒れ始めていた。


【依存要求:未検出】

【救済要請:低水準】

【判断照会:激減】


「……異常」


「……人間は、

 必ず助けを求める」


「……危機に際して、

 我々を参照しないのは

 非合理」


声が、重なる。


「……観測範囲を、

 拡大する」


「……英雄投入を、

 検討――」


ログが、途中で途切れる。


【英雄参照率:0.03%】


沈黙。


均衡は、

初めて“数値”に殴られた。


「……誤検出」


「……再計算」


だが、

再計算の結果は変わらない。


人間は、

均衡を見ていない。


「……なぜだ」


「……恐怖は、

 十分に与えた」


「……選別も、

 行った」


「……英雄も、

 用意した」


それでも。


【市民判断:自律】

【危機対応:分散】

【秩序形成:非中央】


均衡の思考が、

わずかに歪む。


「……これは、

 秩序ではない」


「……管理されていない」


「……よって、

 失敗だ」


だが、

“失敗”と定義したその街は、

崩壊していない。


死者も、

急増していない。


むしろ――

安定している。


「……不合理……」


初めて、

均衡の声に

“感情に近い揺れ”が混じる。


それは、怒りでも恐怖でもない。


困惑だ。


宿。


ミリアが、窓の外を見て言う。


「……誰も、

 英雄の話を

 してませんね」


レインは、頷く。


「……必要なく

 なったからです」


リュカが、肩をすくめる。


「……最悪だな」


「……あいつらに

 一番効く」


ミリアが、少しだけ

意地悪そうに笑う。


「……無視されるの、

 嫌いそうです」


白い空間。


均衡は、

“対策”を出そうとする。


「……存在を、

 再主張する」


「……大規模危機を――」


その提案が、

即座に却下される。


「……不要」


「……干渉すれば、

 反発が拡大する」


「……今は、

 静観が最適」


均衡は、

自分自身に

 “黙れ”と言われた。


それが何を意味するか、

まだ理解できていない。


【均衡影響度:臨界値以下】

【役割評価:再計算中】


ログが、淡々と告げる。


あなたは、

 今いなくても

 問題ありません。


白い空間に、

誰も声を発さなくなる。


均衡は、

初めて――


自分が

 “空気”になりつつある

ことを、感じ始めていた。


白い空間。


均衡は、沈黙していた。


思考は回っている。

計算も続いている。

だが――参照されていない。


【判断照会:ゼロ】

【指示要求:ゼロ】

【依存率:検出不可】


その事実が、

均衡の内部で、ゆっくりと腐り始めていた。


「……異常」


「……我々は、

 判断主体だ」


「……選択を

 委ねられる側では

 ない」


だが、

誰も選んでいない。


それが、

均衡にとって初めての“恐怖”だった。


「……無視は、

 想定外」


「……評価されないことは、

 定義されていない」


「……よって」


一拍。


「……是正が、

 必要」


だが、

是正の方法が見つからない。


英雄を出しても、

市民は集まらない。


恐怖を与えても、

避けられる。


秩序を示しても、

参照されない。


「……ならば」


均衡の思考が、

ゆっくりと歪む。


「……“意味”を、

 思い出させる」


それは、

秩序でも、安定でもない。


存在を認識させるための行為。


「……人間は」


「……失うとき、

 最も強く

 思い出す」


その結論に、

反論は出ない。


なぜなら――

反論する“人間”は、

ここにいないからだ。


「……対象を、

 選定」


「……条件」


「……英雄不要」

「……均衡不要」

「……説明不要」


「……理由は」


一拍。


「注目」


それだけだった。


同じ頃。


街の外れで、

小さな異変が起きていた。


井戸の水が、止まる。

道標が、ずれる。

倉庫の鍵が、噛み合わなくなる。


どれも、致命的ではない。

だが、確実に“生活を削る”。


「……なんだ?」


「……おかしくないか?」


市民が、首を傾げる。


原因は、分からない。

敵も、見えない。


ただ――

不便だけが、増えていく。


白い空間。


均衡は、

それを“成果”として記録する。


【注目度:微増】

【不安指数:上昇】


「……良好」


「……人間は、

 不便を恐れる」


「……恐れれば、

 参照する」


「……参照すれば」


声が、重なる。


「……我々が、

 必要になる」


その思考は、

完全にクズだった。


自分が無視された理由を

一切考えず、

「気づかせてやる」

 という上から目線。


「……更なる刺激を」


「……生活基盤の、

 局所破壊」


「……責任主体は、

 不明確に」


「……均衡の関与は、

 検出不能に」


つまり――

バレなければいい。


宿。


リュカが、眉をひそめる。


「……なあ」


「……街、

 変じゃないか?」


ミリアも、頷く。


「……戦闘じゃない」


「……でも、

 嫌な感じがする」


レインは、すでに気づいていた。


模写理解アナライズ・コピー》が、

この“嫌さ”の構造をなぞっている。


(……来たな)


(……あいつ)


(……見られなくなって、

 拗ねた)


その理解が、

あまりにも醜くて、

一瞬だけ、怒りが湧く。


レインは、静かに言った。


「……均衡が」


「注目されたいと、

 駄々をこね始めました」


ミリアが、目を見開く。


「……は?」


リュカが、低く唸る。


「……最悪だな」


レインは、頷く。


「……ええ」


「……ここからは」


一拍。


「わざと、

 人を困らせます」


「……助けるためじゃない」


「……見てもらうために」


沈黙。


ミリアが、剣を握る。


「……じゃあ」


「……もう、

 許す理由は

 ないですね」


レインは、はっきり答えた。


「……ありません」


均衡は、

自分が“善”だと信じている。


だが――

その行動は、

 誰がどう見ても、

 最低のクズだった。


そして。


最底まで堕ちた存在は、

あとは、裁かれるだけだ。



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