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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第4章

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強制権限

夜。


鐘が鳴り終わった直後――

空気が、裂けた。


爆音ではない。

衝撃波でもない。


ただ、街全体の魔力が一瞬だけ“止まり”、次の瞬間、別の流れで再起動した。


「……っ!」


ミリアが即座に剣を抜く。

理由は分からない。

だが、身体が理解している。


これは敵だ。


通りの中央。

何もなかった空間に、影が落ちる。


一人の男。


外套でも、鎧でもない。

装飾のない黒衣。

だが、立っているだけで、周囲の建物が軋む。


「……確認」


低い声。


感情がない。

抑揚もない。


「強制権限者、

 投入完了」


次の瞬間。


男の足元から、地面が崩れた。


爆発ではない。

破壊でもない。


存在を許されなくなったように、地面が消える。


ミリアが跳ぶ。


「――《裂閃れっせん》!」


レイピアが光を引く。

音速に近い突き。


だが――

当たらない。


男の姿が、わずかに“ずれる”。


回避ではない。

防御でもない。


攻撃の成立条件が、剥奪された。


「……物理干渉、

 無効」


男が、淡々と告げる。


次の瞬間、ミリアの背後が砕ける。

空気圧だけで、壁が吹き飛ぶ。


「っ……!」


着地と同時に、地面を蹴る。


「――まだ!」


剣閃が、三連。


《連閃・燕返えんがえし

重畳突じゅうじょうづき

空裂くうれつ


本来なら、魔獣ですら分断される連撃。


だが男は、一歩も動かない。


剣先が、男の身体に触れた瞬間――

音が消えた。


キン、でも、ガン、でもない。

“何も起きなかった”。


「……不成立」


男の右手が、軽く振られる。


それだけで、ミリアが吹き飛ぶ。


「――っ!!」


建物を三つ貫いて、地面に叩きつけられる。


「ミリア!」


リュカが叫ぶ。


だが、次の瞬間には、リュカの足元に黒い紋様が浮かぶ。


「……位相能力」


男が、視線を向ける。


「干渉制限」


紋様が収縮し、リュカの身体が固定される。


位相同調フェイズ・シンク》が、強制的に封じられる。


「……っ、

 動か……!」


「……対象は、

 前線外」


「排除対象ではない」


冷酷な判断。


そのとき。


「――そこまでだ」


レインが、前に出た。


魔力は放たない。

構えもしない。


ただ、視る。


模写理解アナライズ・コピー》が、

強制権限者の“前提”を捉える。


(……なるほど)


(……この存在は)


(……能力じゃない)


男の身体に走る構造。


・権限付与

・成立条件の優先上書き

・因果固定の強制通過


(……世界の

 “管理者権限”そのもの)


レインは、静かに言った。


「……君は」


「強いんじゃない」


男が、初めてこちらを見る。


「……当然」


「私は、

 最適だ」


レインは、続ける。


「……だから」


一拍。


「壊せない」


ミリアが、血を拭いながら立ち上がる。


「……でも」


「……止められる」


レインは、頷いた。


「ええ」


「理解した」


次の瞬間――

空間が、ひっくり返った。


強制権限者の足元に、

“地面がある”という前提が消える。


落下。

ではない。


立つ理由が、失われる。


「……?」


男が、初めて声を詰まらせる。


【成立条件:未定義】

【権限適用:保留】


均衡が、再び――

判断を止めた。


ミリアが、剣を構える。


「……今だ」


レインは、静かに言った。


「前線を、

 奪います」


強制権限者は、まだ立っている。


だが――

初めて“押されている”。


空間が、悲鳴を上げていた。


強制権限者は、まだ立っていた。


だが、先ほどまでと違う。

足元の感覚が、定まっていない。


「……成立条件、再照合」


無機質な声。

しかし、その声にわずかな遅れが混じる。


ミリアは、それを見逃さなかった。


「……今だ」


踏み出す。


踏越位オーバー・ライン


地面を蹴る、ただそれだけの動作。

だが次の瞬間、距離の概念が歪む。


一歩が、二歩分進む。

否、前線そのものを踏み越えている。


強制権限者が腕を上げる。


「……排除」


空間圧が、ミリアの進路を潰そうとする。

だが――


ミリアは止まらない。


「――《不退一閃ノー・リトリート》!」


突き。


技術としては、極めて基本。

一直線の前進突き。


だがそこには、退かないという前提だけが重ねられている。


圧が、裂ける。


強制権限者の胸元、寸前で停止するレイピア。


「……未成立?」


一瞬の判断遅延。


それだけで、十分だった。


「――《断戦ライン・ブレイク》」


ミリアが、踏み込みをさらに深くする。


“戦線”という境界を、剣で切るのではない。

身体ごと、割る。


前線が、崩れる。


空気が、音を立てて逃げる。

建物の壁が、耐えきれず砕け散る。


強制権限者が、初めて後退した。


「……前線、逸脱」


レインの視界で、構造が見える。


(……均衡は)


(……前線を

 固定点として

 扱っている)


(……だが)


レインは、静かに能力を動かす。


戦場演算バトル・カリキュレーター


魔力を出さない。

術式も展開しない。


ただ、戦場を計算する。


(……前線が動いた瞬間)


(……権限の

 優先順位が

 ズレる)


レインは、呟く。


「……ミリア」


「……もう一段、

 行けます」


ミリアは、答えない。

代わりに、剣を引き絞る。


「――《前線穿断フロント・ピアース》」


突き。


今度は、止まらない。


レイピアが、強制権限者の胸を貫く。


血は出ない。

だが、空間が歪んだまま固まる。


「……成立、破棄……?」


強制権限者の声が、掠れる。


レインが、一歩前に出る。


成立破棄エスタブリッシュ・ノー


攻撃ではない。

否定でもない。


「それは成立していない」

という事実を、世界に通すだけ。


【権限判定:保留】

【成功前提:崩壊】


「……なぜだ」


強制権限者が、初めて問いを発した。


「私は、

 均衡だ」


レインは、静かに答える。


「……だからです」


「均衡は、

 前線を

 “選ばない”」


「……彼女は」


視線を、ミリアに向ける。


「選んで、

 立っています」


ミリアが、最後の一歩を踏み出す。


《不退一閃・極(ノー・リトリート/アルティマ)》


派手な光はない。

爆発もない。


ただ、退かないという意志だけが、前線を押し潰す。


強制権限者の身体に、

無数の亀裂が走る。


「……権限、

 維持……不能……」


崩れる。


音もなく、

光の粒子となって、散っていく。


戦場に、静寂が戻った。


ミリアは、剣を下ろし、息を吐く。


「……終わりましたね」


レインは、頷く。


「ええ」


「……前線は」


一拍。


「奪いました」


均衡は、また一つ、

想定外を刻まれた。


戦闘が終わったあとも、

街はしばらく沈黙していた。


爆発はない。

炎も、煙もない。


それでも、人々は理解していた。

何かが、確実に変わったと。


通りの中央。

瓦礫の隙間から、年配の男が顔を出す。


「……おい」


「……今の、見たか」


隣の女が、震える声で答える。


「……見た」


「……英雄でも、

 魔王でも、

 なかった」


「……ただ」


言葉を探し、

それでも続ける。


「……“立ってた”」


別の場所。


屋根の上から、戦いを見ていた若者が、拳を握りしめる。


「……逃げなかった」


「……守られてたんじゃない」


「……前に、

 立ってた」


それだけの事実が、胸に残る。


路地裏。


ミリアは、剣を地面に突き、肩で息をしていた。


「……さすがに」


「……ちょっと、

 きついですね」


レインは、すぐ隣に立つ。


「ええ」


「……強制権限者でしたから」


ミリアが、小さく笑う。


「……でも」


「……立てました」


レインは、頷いた。


「はい」


「……選んで、

 立っていました」


そのとき。


足音が、近づいてくる。


一人。

また一人。


市民だ。


最初は、距離を保っている。

恐怖と、警戒。


だが、誰かが一歩、前に出る。


「……あの」


若い女だ。

震えているが、目は逸らさない。


「……あなたたち」


「……逃げなかったんですか」


ミリアは、少し考えてから答える。


「……怖かったですよ」


「……でも」


「……立たないと、

 もっと怖いから」


女は、息を呑む。


その言葉が、

難しくも、立派でもないことに。


別の男が、口を開く。


「……均衡って」


「……守ってくれる

 もんじゃなかったのか」


レインが、静かに答える。


「……守るかどうかは」


「選ばせない

 という形でした」


「……でも」


視線を、街全体に向ける。


「……選ぶことは、

 奪われていました」


沈黙。


だが、それは拒絶ではない。


誰かが、呟く。


「……じゃあ」


「……これからは?」


ミリアが、前に出る。


「……私たちは」


「……代わりに

 決めません」


「……前に、

 立つだけです」


「……選ぶのは」


一拍。


「あなたたちです」


人々の間に、ざわめきが走る。


恐怖。

期待。

混乱。


だが、確実に一つだけ――

理由が残った。


高層。


円卓の前。


【強制権限者:戦闘不能】

【市民観測ログ:増加】

【理由伝播率:上昇】


「……敗北、か」


「いえ」


別の声が、即座に否定する。


「……“失敗”です」


「……保存も、

 強制も」


「……通らなくなり始めている」


沈黙。


「……次は?」


一拍。


「英雄を、

 出す」


その言葉に、空気が張り詰める。


「……だが」


「今度は、

 管理対象ではない」


「……“自発的英雄”だ」


均衡は、

まだ崩れていない。


だが――

揺れている。


宿へ戻る途中。


ミリアは、ふらりと体勢を崩す。


「……っ」


レインが、すぐに肩を支える。


「大丈夫ですか」


「……はい」


「……ちょっと」


顔が、近い。


互いに、気づいて、

少しだけ固まる。


「……私たち」


ミリアが、苦笑する。


「……ぼろぼろですね」


レインも、小さく笑った。


「ええ」


「……でも」


視線を合わせる。


「立ってます」


ミリアは、少し赤くなり、視線を逸らす。


「……はい」


街は、まだ静かだ。


だがその静けさは、

“選ばされる”静けさではない。


選び始めた者たちの、

 最初の沈黙だった。


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