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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第25章 平和な日常は続かない?

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正義は、選ばない者を許せるか

呼び出しは、簡潔だった。


 場所。

 時間。

 護衛なし。


 それだけ。


「……罠じゃないな」


 リュカが言う。


「罠なら、

 もっと分かりやすくする」


 レインは、

そう答えた。


 英雄は、

そういう存在だ。



 待ち合わせ場所は、

街の外れだった。


 戦域にもならず、

人もいない。


 ただ、

何も起きなかった場所。


 そこに、

英雄は立っていた。


 ヴァルハルト=レオン。


 剣は携えているが、

抜く気配はない。


「……来てくれたか」


「用件次第では、

 来ない理由もなかった」


 レインの返答は、

いつも通り淡々としている。


 だが、

英雄は見逃さない。


 その声が、

わずかに硬いことを。



「単刀直入に言う」


 ヴァルハルトは、

前置きをしなかった。


「次の事案で、

 君たちが動かなければ

 被害は止まらない」


 脅しではない。

 感情でもない。


 事実の提示。


「英雄でも、

 蒼衡《そうこう/アズール・バランス》でも

 届かない局面が、

 もう想定されている」


 レインは、

否定しなかった。


「……理解している」


「なら聞く」


 一歩、近づく。


「なぜ、それでも

 選ばない?」


 その問いは、

世界を代表していた。



 沈黙。


 風が、

二人の間を通り抜ける。


「……正義は」


 レインが、

静かに口を開く。


「選ぶことで、

 世界を前に進める」


「そうだ」


「でも」


 一拍。


「選ばれなかった側の後悔は、

 どこへ行く?」


 ヴァルハルトは、

すぐに答えなかった。


 それは、

彼自身が

何度も背負ってきたものだからだ。



「……英雄は」


 ヴァルハルトが言う。


「後悔を、

 背負う存在だ」


「分かっている」


 レインは、

頷く。


「だからこそ、

 僕は英雄にならない」


「逃げているように見える」


「そう見えるなら、

 それでいい」


 即答。


「逃げた結果、

 誰が後悔を引き受けるか」


「それを、

 世界に押し返しているだけだ」



 ヴァルハルトは、

しばらく黙っていた。


 やがて、

低く言う。


「……ミリアの件」


 一瞬、

空気が張り詰める。


「……すまない」


 英雄としてではなく、

一人の人間としての言葉だった。


 レインは、

目を伏せない。


「彼女は、

 自分で立った」


「止めなかったのは、

 僕だ」


 そこに、

責任転嫁はない。



「……なら」


 ヴァルハルトは、

はっきりと言った。


「次は、

 君が狙われる」


「理解している」


「それでも?」


「それでも、

 選ばない」


 即答だった。


 揺らぎはない。



 英雄は、

ゆっくり息を吐く。


「……厄介だな」


 それは、

最大級の評価だった。


「正義を否定せず」


「世界を壊さず」


「それでも、

 前に立たない」


 一拍。


「それは、

 英雄より重い立場だ」


 レインは、

否定しなかった。



「一つだけ、

 約束しろ」


 ヴァルハルトが言う。


「世界が、

 本当に壊れそうになった時」


「その時も、

 選ばないでいられるか?」


 レインは、

少しだけ考えた。


 そして、答える。


「……分からない」


 正直な言葉。


「だから、

 考え続ける」


「後悔しないために?」


「違う」


 一拍。


「後悔を、

 引き受け続けるために」



 英雄は、

それ以上何も言わなかった。


 剣も、抜かない。


 ただ、

背を向ける前に一言。


「……分かった」


「なら、

 俺は俺の役割をやる」


 それは、

敵対でも協力でもない。


 並び立つ覚悟だった。



 その場に、

レインだけが残る。


 風が、

再び吹く。


「……来るな」


 小さく、呟く。


 ヴァルグリム=ゼインが。


 そして、

世界が。


 自分を、

逃がさない形で。


 ヴァルグリム=ゼインは、

円環状に刻まれた地図を見下ろしていた。


 都市。

 街道。

 避難経路。


 どれも、

間違っていない配置だ。


「……英雄は来る」


 独り言のように呟く。


「蒼衡は、

 切断基準を再定義する」


「世界機関は、

 “最終段階”を宣言する」


 全て、

これまで何度も見てきた流れ。


 正義は、

必ず動く。



「……だが」


 指先で、

地図の中心をなぞる。


「今回は、

 動かせない」


 英雄が守れば、

被害は拡散する。


 蒼衡が切れば、

連鎖が加速する。


 世界機関が選べば、

責任の所在が崩壊する。


「……完璧だ」


 低く、吐息。


 正解が、

一つも存在しない。



 彼が用意したのは、

“災厄”ではない。


 天変地異でも、

絶対悪でもない。


 選択を要求する状況。


「避難させるか」


「防衛するか」


「切るか」


「守るか」


 どれを選んでも、

別の何かが失われる。


 それが、

この盤面の核心だった。



「……ここで」


 ヴァルグリムは、

はっきりと理解している。


「英雄は、

 自分の後悔を選ぶ」


「蒼衡は、

 世界の後悔を選ぶ」


「世界機関は、

 “仕方なかった”を選ぶ」


 それは、

いつも通りだ。


 だが――


「……ノーリトリートだけが、

 選ばない」


 そこが、

最大の異物。



 彼は、

目を閉じる。


 思い出すのは、

奇襲の後の感触。


 ミリアは、

生きている。


 それでいい。


 だが、

レインは――

まだ壊れていない。


「……やはり」


 低く、呟く。


「人質は、

 個人では足りない」


 次は、

世界だ。



 ヴァルグリムが狙うのは、

都市の崩壊ではない。


 壊滅でもない。


 「今、選ばなければ

 次はもっと酷くなる」

 という段階的設計。


「逃げられないが、

 まだ戻れる」


 その曖昧さが、

人を最も苦しめる。


「……完璧だな」


 自嘲気味に、

そう言った。



 彼は、

分かっている。


 これを実行すれば、

自分は確実に“倒される”。


 英雄にか。

 蒼衡にか。

 あるいは――

ノーリトリートにか。


 それでも、

構わない。


「……役割だからな」


 だが、

一つだけ誤算がある。


「……お前は」


 レインの顔が、

脳裏をよぎる。


「まだ、

 正義を憎んでいない」


 それは、

この盤面にとって

危険な兆候だった。



 ヴァルグリムは、

静かに決める。


「次は、

 同時多発だ」


 英雄が一箇所に縛られ、

蒼衡が全体を見失い、

世界が判断を先送りする。


 その中央に――

ノーリトリートを立たせる。


 逃げ場を消す。


 だが、

強制はしない。


「……選べとは、言わない」


 一拍。


「選ばないことの

 結果だけを、

 見せる」



 遠くで、

警鐘が鳴り始めた。


 まだ、

誰も死んでいない。


 まだ、

世界は壊れていない。


 だが――

戻れない歯車が、

 回り始めた。


 ヴァルグリム=ゼインは、

その音を聞きながら、

静かに立ち上がる。


「……来い、レイン」


 低く、しかし確かに。


「お前が

 最後に残した空白を」


「俺は、

 埋めに行く」


 最初の警報は、

一つではなかった。


 都市部。

 郊外。

 街道沿い。


 同時刻、

複数地点で魔力異常。


「……同時多発」


 リュカの声が、

一段低くなる。


「英雄は、

 全部は回れない」


 それは、

誰にでも分かる事実だった。



 次に入った情報は、

さらに悪い。


「蒼衡《そうこう/アズール・バランス》が

 二分された」


 切断対象が、

同時に発生。


 どちらも、

“切るべき理由”がある。


「……世界機関は?」


「判断保留」


 リュカは、

一瞬だけ目を伏せる。


「責任の所在が

 確定できない」


 つまり――

誰も、選ばない。



 レインは、

地図を見つめていた。


 点と点が、

線になり始めている。


 英雄が向かう先。

 蒼衡が割れた先。

 世界が止まった場所。


 そして――

空いている中央。


「……なるほど」


 小さく、呟く。


「これが、

 ヴァルグリムの“完成形”か」


 誰もが動いている。

 誰もが正しい。


 それでも、

全体は壊れる。



「……レイン」


 ミリアが、

隣に立つ。


 まだ万全ではない。

 だが、

目は迷っていない。


「……行く?」


 問いは短い。


 レインは、

すぐには答えなかった。


 《模写理解アナライズ・コピー》が、

自動的に走る。


 因果。

 連鎖。

 回避不能点。


 どこか一つを選べば、

 別のどこかが確実に崩れる。


 それが、

今の盤面だった。



「……行く」


 ただし、

一言だけ付け加える。


「決めには行かない」


 ミリアは、

小さく笑った。


「うん」


 それで、

十分だった。



 ノーリトリートは、

中央へ向かう。


 英雄がいない場所。

 蒼衡が割れた隙間。

 世界機関が

 判断を置けなかった地点。


 そこには、

まだ何も起きていない。


 だが――

起きる予定の場所だった。



 到着した瞬間、

レインは理解する。


「……来る」


 次の一撃が。


 災厄ではない。

 爆発でもない。


 “選ばなかった結果”そのもの。


 複数の街で、

同時に避難が滞る。


 英雄は守っている。

 蒼衡は切っている。


 それでも、

“こぼれる”。



「……見えてるな」


 低い声。


 ヴァルグリム=ゼインが、

空間の向こうに立っていた。


 今回は、

奇襲ではない。


 正面だ。


「英雄も」


「蒼衡も」


「世界も」


 指を折る。


「全員、

 役割通りに動いている」


 一拍。


「それでも、

 全体は救えない」


 視線が、

レインに向く。


「……だから」


「お前だけが、

 ここに立っている」



 レインは、

否定しない。


「……そうだね」


 落ち着いた声。


「全体が、

 見えている」


「だが」


 一歩も踏み出さない。


「それでも、

 僕は選ばない」


 ヴァルグリムは、

初めて眉をひそめた。


「……理解しているはずだ」


「このままでは、

 被害は止まらない」


「分かっている」


 即答。


「だから、

 止めに来た」


「……?」


 その言葉は、

盤面に存在しなかった。



 レインは、

静かに手を広げる。


「英雄の代わりに

 決めない」


「蒼衡の代わりに

 切らない」


「世界の代わりに

 正義を置かない」


 一拍。


「ただ、

 ここに立つ」


 それだけで、

連鎖が一つ、止まる。


 理由は、

単純だった。


 誰も“判断を投げられなくなった”。



 ヴァルグリムは、

はっきりと焦りを見せた。


「……お前」


「それは、

 俺の想定にない」


「知ってる」


 レインは、

初めて微かに笑った。


「だから、

 ここに来た」



 盤面は、

完全には揃わない。


 だが――

崩壊も、起きない。


 中途半端。

 曖昧。


 それが、

ノーリトリートの立ち位置だった。


「……まだだ」


 ヴァルグリムは、

後退する。


「まだ、

 足りない」


 だが、

その声には確実に

焦りが混じっていた。



 彼が消えたあと、

レインは息を吐く。


「……疲れた」


 正直な一言。


「でも」


 ミリアを見る。


「これで、

 逃げ場はなくなった」


「うん」


 ミリアは、

静かに頷く。


「向こうも、

 私たちも」



 夜は、

まだ終わらない。


 だが、

一つだけ確かなことがある。


 選ばない者は、

 もう“外”ではない。


 それでも、

まだ選ばない。


 それが、

この物語の核心だった。

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