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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第25章 平和な日常は続かない?

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選ばれなかった者が、狙われる

――それは、正義でも盤面でもない。



 夜だった。


 街は、まだ完全には眠っていない。

 復旧の灯りが、ところどころに残っている。


「……一人で出るの、久しぶりだな」


 ミリアは、外套のフードを深く被った。


 任務ではない。

 警戒でもない。


 ただ、

様子を見に行くだけ。


 ノーリトリートとして、

介入する理由はない。


 だからこそ、

誰も止めなかった。



 通りは静かだった。


 人はいる。

 だが、

会話が少ない。


 英雄が守った街。

 蒼衡《そうこう/アズール・バランス》が

前に出た場所。


 それでも、

空気は戻っていない。


「……怖い、って感じじゃない」


 小さく呟く。


「どうしていいか、

 分からない感じ」


 それが、

今の世界だった。



 足音が、一つ。


 ミリアは、

反射的に振り向く。


 誰もいない。


「……気のせい、か」


 そう思った瞬間――

空気が、沈んだ。


 戦域ではない。

 結界でもない。


 ただ、

“逃げるという選択肢”が

 消えた感覚。


「……っ」


 ミリアは、

即座に武器に手をかける。


 遅い。


 背後から、

音がしなかった。



「……ああ」


 低い声が、

すぐ耳元で響く。


「やはり、

 一人だったか」


 次の瞬間、

世界が裏返る。


 地面が、

“上”になる。


「――っ!!」


 身体が、

路地の壁に叩きつけられる。


 防御が、

間に合わない。


 魔力が、

組み上がらない。


 奇襲だった。



 ミリアは、

歯を食いしばる。


 痛みは、ある。

 だが、

それよりも――


「……あなた」


 視界の端に、

黒衣。


「ヴァルグリム=ゼイン……!」


 彼は、

剣を持っていない。


 構えもない。


 ただ、

“そこにいる”。


「安心しろ」


 淡々とした声。


「殺しはしない」


 その言葉が、

逆に恐ろしかった。



 次の一撃は、

見えた。


 だが、

避けられない。


 空間そのものが、

ミリアの動線を否定する。


 骨が、

悲鳴を上げる。


「――ぐっ……!」


 地面に、

叩き伏せられる。


 息が、

できない。


 視界が、

滲む。



「……君は」


 ヴァルグリムは、

しゃがみ込む。


「正義ではない」


「英雄でもない」


「盤面を、

 動かす役でもない」


 一拍。


「だからこそ、

 一番厄介だ」


 ミリアは、

震える指で地面を掴む。


「……レインは」


 声が、

かすれる。


 その名を出した瞬間、

ヴァルグリムの目が、

わずかに細くなった。


「……やはり、そうか」



 彼は、

ゆっくりと立ち上がる。


「安心しろ」


 二度目。


「これは、

 彼への合図だ」


 ミリアの胸元に、

重い衝撃。


 何かが、

“折れた”感覚。


 音は、

遅れて来た。



 遠くで。


 何かが、

確実に壊れた。


 それが、

世界なのか。


 それとも――

レインの中なのか。


 ミリアは、

意識が落ちる直前、

思った。


「……ああ」


「……やっと、

 引っ張り出された」



 闇が、

降りる。


 到着は、早かった。


 だが――

間に合わなかった。


「……ミリア!」


 レインの声は、

自分でも分かるほど荒れていた。


 路地の奥。

 倒れ伏す身体。


 血の匂い。

 歪んだ空気。


 解析が、遅れる。


「……っ」


 《模写理解アナライズ・コピー》が、

反射的に走る。


 骨格損傷。

 内臓への衝撃。

 魔力循環の断裂。


 情報が多すぎて、

整理が追いつかない。


「……くそ」


 言葉が、

漏れた。


 それ自体が、

異常だった。



 ミリアは、生きている。


 それは、

一瞬で分かった。


 だが――

“無事”ではない。


「……レイン」


 かすれた声。


 それだけで、

胸の奥が軋んだ。


「喋るな」


 強すぎる語気。


 すぐに気づく。


 命令口調だ。


 ノーリトリートのレインが、

誰かに命令している。



 手が、震えていた。


 治癒魔法を組み上げる。

 防御結界を重ねる。


 だが、

完璧じゃない。


「……解析、

 追いつけ……!」


 《模写理解アナライズ・コピー》が、

一瞬だけ“途切れる”。


 理解者が、

理解に失敗する。


 それが、

何より恐ろしかった。



 エルドとリュカが、

遅れて駆けつける。


「……重症だ」


 エルドの声が、

低く沈む。


「命は、

 保っている」


「……後遺症は?」


 一瞬の沈黙。


「……否定できない」


 その言葉で、

世界が少し遠くなった。



 レインは、

唇を噛みしめる。


 怒りではない。

 悲しみでもない。


 混乱だ。


 世界を理解してきた。

 構造を見てきた。

 盤面を読んできた。


 それでも――

目の前の一人を、

 守れなかった。



「……ヴァルグリム」


 名を呼ぶ。


 声が、低く落ち着く。


 だが、

その落ち着きは

無理やり作ったものだ。


「……彼は」


 リュカが、

慎重に言葉を選ぶ。


「最初から、

 ミリアだけを狙っていた」


 奇襲。

 単独。

 非戦闘時。


 すべて、

ノーリトリートの“外”を

突いた手口。


「……盤面、か」


 レインは、

そう呟いた。


 ヴァルグリム=ゼインは、

英雄も、蒼衡《そうこう/アズール・バランス》も

正面から相手にした。


 それでも、

撤退した。


 だが――

ミリアには、

 迷いなく踏み込んだ。



 理解が、

一つに収束する。


「……僕を、

 引きずり出すためだ」


 ミリアを傷つけた理由。

 殺さなかった理由。


 全てが、

そこに繋がる。


「……レイン」


 エルドが、

静かに言う。


「今は、

 感情で動くな」


「分かってる」


 即答。


 だが、

拳は握られている。



 ミリアが、

かすかに目を開ける。


「……ごめん」


 その一言で、

何かが切れた。


「謝るな」


 レインは、

即座に言った。


 声が、震える。


「……君は、

 何も間違ってない」


 それは、

世界に向けた言葉でもあった。



 遠くで。


 ヴァルグリム=ゼインは、

その反応を“感じ取って”いた。


「……いい」


 低い声。


「ようやく、

 触れた」


 盤面は、

確かに揃い始めている。


 だが――

まだ、完全ではない。


「……だが」


 一拍。


「決意には、

 なっていない」


 それが、

彼の焦りだった。



 レインは、

ミリアの傍で立ち上がる。


 まだ、

世界を壊さない。


 まだ、

正義にならない。


 だが――

立たない理由は、

 確実に削れた。


「……次は」


 低い声。


「逃がさない」


 それは、

宣戦ではない。


 決意の芽だった。


 治療室は、静かだった。


 魔導灯の光が、

ミリアの顔を淡く照らしている。


 呼吸は、安定している。

 脈も、落ち着いている。


 だが――

完治とは言えない。


「……峠は、越えました」


 治療師の言葉は、

慎重だった。


「ただし……」


 その先を、

レインは黙って待つ。


「神経系への損傷が、

 完全には回復しない

 可能性があります」


 言葉は、柔らかい。

 内容は、鋭い。


 “後遺症”。


 それは、

治ったあとも残る現実だ。



 ミリアは、

まだ眠っている。


 何も知らない。


 それが、

救いなのかどうかは分からない。


「……ありがとう」


 レインは、

頭を下げた。


 その動作が、

少し遅れていた。



 知らせは、

すぐに広がった。


 英雄は、

最初に反応した。


「……ノーリトリートが、

 狙われた?」


 ヴァルハルト=レオンは、

言葉を失う。


 戦場で斬り合う相手ではない。

 だが、

盤面を動かしてきた存在。


 そこに、

明確な攻撃が向いた。


「……それは」


 イリスが、

静かに言う。


「もう、

 “巻き込まれた”じゃない」



 蒼衡《そうこう/アズール・バランス》も、

すぐに事態を理解した。


「……一線を越えたな」


 セイン=ヴァルクスは、

短くそう言った。


「民衆への被害。

 英雄との衝突。

 そして――」


 一拍。


「ノーリトリートへの直接攻撃」


 それは、

盤面の完成を急いでいる証拠。


 ヴァルグリム=ゼインが、

焦っている。



 世界機関は、

初めて“名指し”をした。


現在発生している連鎖事案について

非裁定ノーリトリート》は

明確な攻撃対象となっている


当該パーティの安全確保を

優先事項とする


 それは、

保護の名目だった。


 だが――

同時に、期待でもある。


「……守られる側に

 なったか」


 レインは、

文書を見つめる。


 ノーリトリートは、

前線に立たない。


 だが、

前線そのものになりつつある。



 ミリアが、

小さく身じろぎした。


「……レイン?」


 目が、開く。


 意識が戻った。


「……ここ、どこ?」


「治療室だ」


 声は、

落ち着いている。


 無理をしている。


「……やっぱり、

 やられた?」


「……ああ」


 短い肯定。


 ミリアは、

少しだけ笑った。


「……ごめん」


 また、その言葉。


「言うな」


 今度は、

少しだけ柔らかく。


「……生きてる」


 それだけで、

十分だった。



 ミリアは、

天井を見つめる。


「……ねえ」


「?」


「私、

 もう一人で

 出ない方がいい?」


 その問いは、

痛かった。


 レインは、

一瞬だけ黙る。


「……状況次第だ」


 逃げではない。

 正直な答えだ。


 ミリアは、

それで納得した。


「……そっか」



 夜。


 レインは、

一人で地図を広げる。


 盤面は、

確かに揃い始めている。


 英雄。

 蒼衡。

 世界。


 そして――

ノーリトリート。


「……それでも」


 静かに、言う。


「世界の代わりには、

 選ばない」


 それは、

思想ではなく、

覚悟になり始めていた。


 ただし。


「……次は」


 一拍。


「守る準備は、

 する」


 それは、

これまでなかった一歩。


 立たない。

 だが、

無防備ではいない。



 遠くで。


 ヴァルグリム=ゼインは、

報告を聞いていた。


「……生きているか」


 一瞬だけ、

目を閉じる。


「……良かった」


 その感情を、

自分でも理解できずにいた。


 だが、

次の言葉は冷たい。


「……だが」


 一拍。


「まだ、

 揃っていない」


 ノーリトリートは、

前に出ていない。


 レインは、

選んでいない。


「……もう一段、

 必要だな」


 焦りは、

はっきりしている。


 次は、

さらに踏み込む。



 夜は、

静かに更けていく。


 だが――

前夜は、終わっていない。


 選ばないという選択が、

いつまで許されるのか。


 それを決めるのは、

もうレインだけではなかった。


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