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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第25章 平和な日常は続かない?

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選ばない者の、限界点

――まだ立たない。それでも、見えてしまう。



 夜だった。


 街の灯りは戻っている。

 人も、歩いている。


 だが――

音が、少なかった。


「……静かだね」


 ミリアが、窓の外を見る。


「復興直後って、

 もっと騒がしいはずなのに」


 レインは、地図から目を離さない。


「人が動いてないからだ」


「……また?」


「違う」


 ペン先が、止まる。


「今回は、

 “動かなくていい”と

 思っている」


 それが、

一番まずい。



 地図には、

幾つもの印が打たれていた。


 不可逆事案。

 戦域発生地点。

 英雄出動記録。


 全てが、

一つの円を描き始めている。


「……寄せてる」


 リュカが、低く言う。


「ヴァルグリム=ゼインは、

 盤面を“狭めてる”」


 エルドが、

静かに頷く。


「選択肢を、

 減らしている」


 それは、

ノーリトリートが

最も嫌うやり方だった。



「……ねえ、レイン」


 ミリアが、

少しだけ躊躇ってから言う。


「もしさ」


 言葉を選ぶ。


「次に、

 あの人が来た時」


 一拍。


「私たちが立たなかったら」


 部屋が、

一瞬静まった。


 レインは、

すぐには答えなかった。


 答えは、

もう見えている。


「……壊れる」


 小さな声。


「英雄が、

 蒼衡が、

 世界が」


 誰かが悪いわけじゃない。


 それでも、

壊れる。



「それでも、

 立たないって言える?」


 ミリアは、

責めていなかった。


 ただ、

確認している。


 レインは、

ゆっくり息を吐いた。


「……立てば」


 一拍。


「僕たちが、

 “選ぶ側”になる」


 それは、

世界の代わりに決めること。


 最適解を置くこと。


 後悔を、

世界から奪うこと。


 それだけは、

したくなかった。



 その瞬間。


 レインの視界が、

一瞬だけ歪んだ。


「……っ」


「レイン?」


「大丈夫」


 だが、

見えてしまった。


 次の盤面。


 英雄が、

守りきれない未来。


 蒼衡が、

切れずに崩れる未来。


 世界が、

“誰かに選ばせようとする”未来。


 そして。


 自分たちの名が、

 その中央に置かれる光景。



「……来る」


 レインは、

確信を持って言った。


「次は、

 “立つ理由”が

 用意される」


 ミリアが、

拳を握る。


「……拒否できる?」


「分からない」


 それが、

初めての答えだった。



 遠くで。


 ヴァルグリム=ゼインは、

同じ夜空を見ていた。


「……いい」


 低い声。


「ちゃんと、

 追い詰められている」


 英雄も、

蒼衡も。


 そして――

ノーリトリートも。


「次は」


 一拍。


「選ばないことが、

 罪になる」


 それが、

彼の用意した“次の盤面”だった。



 夜は、

まだ終わらない。


 だが、

前夜は、

 もう始まっている。


均衡が、守れなくなる言葉


――切れない敵は、最初から想定されていなかった。



 蒼衡《そうこう/アズール・バランス》の臨時会合は、

記録を残さない形で行われた。


 理由は単純だ。


 残せる結論が、

 まだ存在しなかった。


「……では」


 セイン=ヴァルクスが、

口を開く。


「現状確認から入る」


 誰も異論を出さない。


 異論を出すほど、

余裕がない。



「対象:ヴァルグリム=ゼイン」


 名を出した瞬間、

場の空気が硬直する。


「英雄が正面衝突し、

 致命打は与えられず」


「蒼衡は、

 切断判断に至らず」


「被害は、

 “想定内”だが――」


 リィネ=フォルテが、

言葉を止めた。


「……“収束していない”」


 それが、

最も不自然だった。



「切れなかった理由を、

 整理する」


 セインの声は、

冷静を装っている。


「第一」


 指を一本立てる。


「切った瞬間、

 世界が“勝った”と誤認する」


 ガラン=ディオルが、

低く唸る。


「……それ、

 最悪だな」


「第二」


「被害最小が、

 比較不能になる」


 未来分岐が、

すでに削られている。


 切る=最適解、

という前提が成立しない。


「第三」


 一拍。


「切ることで、

 次の盤面が

 より苛烈になる」


 均衡を守るための行為が、

均衡を壊す。


 それは、

蒼衡の存在理由そのものを

否定していた。



「……結論は?」


 ユール=セティアが、

静かに問う。


 セインは、

少しだけ目を閉じてから言った。


「現時点では、

 ヴァルグリム=ゼインは

 切断不能対象」


 はっきりとした断言。


 蒼衡が、

自分たちの剣を

引っ込める宣言だった。



「じゃあ、

 どうする?」


 ガランが、

率直に聞く。


「切れないなら、

 見てるだけか?」


「……それも違う」


 セインは、

首を振る。


「我々は、

 均衡を守る存在だ」


「だが」


 一拍。


「均衡が、

 “選択そのもの”に

 負荷をかけ始めている」


 それは、

今まで想定されていなかった事態。


 切る・切らない、

その二択ではない。


 “切る側が存在すること”自体が、

 盤面を歪めている。



 沈黙。


 リィネが、

小さく口を開いた。


「……ノーリトリート」


 その名が出た瞬間、

誰も否定しなかった。


「彼らは、

 切らない」


「選ばない」


「……それでも、

 盤面を動かしている」


 それは、

蒼衡にはできないやり方だった。



「……頼るか?」


 ガランが、

冗談めかして言う。


 だが、

笑いは起きない。


 セインは、

ゆっくり首を振った。


「頼った瞬間、

 我々は均衡を放棄する」


 それは、

ノーリトリートが

拒否した役割と同じだ。


 選ばせる側が、

選ばない存在に

責任を渡す。


 それは、

最悪の逃避だった。



「……限界、か」


 ユールが、

静かに呟く。


「違う」


 セインは、

否定する。


「役割の限界だ」


 蒼衡は、

間違っていない。


 だが、

全てを覆う前提が

変わり始めている。



 会合の終わり。


 誰も、

すぐに立ち上がらなかった。


「……なあ」


 ガランが、

最後に言う。


「もし、

 均衡が壊れるとしたら」


 一拍。


「俺たちは、

 剣を振るえると思うか?」


 セインは、

すぐに答えなかった。


 その沈黙が、

答えだった。



 遠くで。


 ノーリトリートは、

まだ動かない。


 だが、

蒼衡は理解した。


 自分たちは、

 もう“最後の判断者”ではない。


 それが、

何より重い事実だった。


――役割は、永遠ではない。



 高い場所だった。


 街も、人も、

英雄も蒼衡《そうこう/アズール・バランス》も、

すべてが遠い。


 ヴァルグリム=ゼインは、

風の中に立っていた。


「……静かだな」


 破壊の後に訪れる静けさではない。

 判断が止まった後の沈黙だ。


 彼は、それをよく知っている。



 これまで、

何度も同じ仕事をしてきた。


 被害を出す。

 正義を前に出させる。

 覚悟を強制する。


 英雄が剣を振るい、

裁定者が線を引き、

世界が「守った」と思える瞬間。


 その時、

彼は退く。


 必ず、退いてきた。



「……だが」


 今回は、違った。


 英雄は、迷った。

 蒼衡は、止まった。

 世界は、決めきれなかった。


 正義が、

一つに収束していない。


「……これは」


 低く、呟く。


「役割不全だ」


 悪役は、

正義があってこそ成立する。


 だが、

正義が分裂し、

責任が分散し、

“選ばない存在”が現れた。


 それは――

想定外だった。



 彼は、手を見つめる。


 この手で、

どれだけの盤面を作ってきたか。


 民衆を傷つけ、

街を歪め、

恐怖ではなく

「覚悟」を引き出してきた。


 それが、

彼の存在理由だった。


「……お前たちは」


 脳裏に浮かぶのは、

非裁定ノーリトリート》。


 選ばない。

 引き受けない。

 だが、見続ける。


「……一番、

 やりにくい」


 怒りはない。

 憎しみもない。


 ただ、

計算が狂う。



 ヴァルグリムは、

小さく息を吐いた。


「……俺は、

 倒される役だ」


 それは、

揺るがない。


 英雄に倒される。

 裁定によって切られる。


 それで、

世界は一区切りつく。


 だが――

今は違う。


「倒されても、

 終わらない」


 その未来が、

見え始めていた。



 彼は、理解する。


 盤面を揃えすぎた。


 英雄を疲弊させ、

蒼衡を縛り、

世界を慎重にさせた。


 その結果、

“選ばない者”が

 最後まで立ち続けている。


「……皮肉だな」


 自分が作ったはずの盤面で、

自分の役割が揺らぐ。



 遠く。


 夜の街に、

小さな灯りが点る。


 人が、

まだ生きている証。


 それを見て、

ヴァルグリムは初めて

ほんのわずかに表情を歪めた。


「……次は」


 一拍。


「もっと、

 はっきり壊す必要がある」


 曖昧な被害では足りない。

 迷いを生む破壊では、

役割が果たせない。


 正義を、

無理やり前に出す。


 英雄が、

退けなくなる。


 蒼衡が、

切らざるを得なくなる。


 世界が、

“誰かに選ばせようとする”。



「……そして」


 低い声。


「それでも立たないなら」


 視線が、

さらに外側へ向く。


 英雄でもない。

 蒼衡でもない。


 最後まで立たない存在。


「……お前たちの番だ」


 それは、

宣戦布告ではない。


 工程の次だ。



 ヴァルグリム=ゼインは、

その場を離れる。


 迷いはある。

 だが、後悔はない。


 役割は、

まだ終わっていない。


 終わらせられない存在が、

まだ残っているからだ。



 夜は、

さらに深くなる。


 前夜は、

もう引き返せない。


 次に来るのは――

選ばないことが、

罪になる瞬間。


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