表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第25章 平和な日常は続かない?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

362/993

役割が、重すぎる

――世界が、気づき始める。



 異変は、説明できない形で広がった。


 戦場ではない。

 災厄でもない。

 敵影すらない。


 ただ、

判断が遅れる。


「……決裁が降りません」


 世界機関の中枢で、

報告が重なっていた。


「前例がない案件が、

 急増しています」


 前なら、

英雄を向かわせればいい。


 危険なら、

蒼衡《そうこう/アズール・バランス》が切る。


 だが、

その“前提”が崩れ始めていた。



「英雄を出すべきですか?」


 その問いに、

即答が返らない。


「……まだ、早い」


「切る判断は?」


「……保留だ」


 誰も、間違っていない。

 だが、

誰も“決められなくなっている”。


 理由は一つ。


 正義を振るえば、

 あの男が現れる。


 そして、

正義を振るった瞬間に――

彼は退く。


 結果だけが残る。



 英雄も、変化を感じていた。


「最近さ」


 ノイン=フェルツが、

ぽつりと言う。


「俺たち、

 “呼ばれてから動く”ことが

 増えてないか?」


 イリスが、静かに頷く。


「……以前は、

 先に気づいていた」


 今は違う。


 世界が決めきれず、

 英雄に判断を預けている。


 それは、

重すぎる役割だった。



 蒼衡も同じだ。


「切る理由が、

 増えすぎている」


 セイン=ヴァルクスは、

疲労を隠さなかった。


「だが、

 切れば切るほど、

 次が早くなる」


 均衡を守るはずの行為が、

均衡を摩耗させている。


 それに、

全員が薄々気づいていた。



 一方、

ノーリトリート。


 彼らは、

呼ばれない。


 命令されない。

 期待もされない。


 だが。


「……見られてる」


 ミリアが、窓の外を見る。


「最近、

 視線が増えた」


 レインも感じていた。


 英雄でもない。

 裁定者でもない。


 なのに、

**“最後に見る存在”**として

意識され始めている。


「……最悪だな」


 レインは、苦笑した。


「僕たち、

 安全装置として

 “認識”され始めてる」


 それは、

ヴァルグリム=ゼインが

言っていた通りだった。



 その夜。


 レインは、

一人で地図を広げていた。


 戦域の発生地点。

 不可逆事象の位置。


 全てが、

ある傾向を示している。


「……近づいてる」


 中心に。


 世界が、

 “役割を一つに集約しようとしている”。


 正義。

 悪。

 裁定。

 非裁定。


 どれも、

限界に来ている。



 遠くで、

ヴァルグリム=ゼインが

同じ空を見ていた。


「……そろそろだな」


 独り言。


 役割は、

永遠には続かない。


 正義が耐えきれなくなる前に、

悪は終わらねばならない。


 だが。


「……お前らがいる限り」


 ノーリトリート。


 受け取らず、

選ばず、

だが見続ける存在。


「簡単には、

 終われない」


 それは、

彼にとっても

想定外だった。



 世界は、

まだ壊れていない。


 だが、

支えすぎている。


 次に崩れるのは、

街でも人でもない。


 “役割そのもの”だ。


――頼られることは、裁定と同じだ。



 最初は、非公式な打診だった。


「……《非裁定ノーリトリート》に、

 一度、意見を聞けないだろうか」


 世界機関の会議室で、

その言葉が出た瞬間、空気が止まった。


 否定ではない。

 肯定でもない。


 ただ、

**“前例がない提案”**だった。


「意見、とは?」


 事務官の問いに、

発言者は少し言葉を濁す。


「判断材料としてだ。

 彼らは――その……

 極端な事例を、多く見ている」


 それは事実だった。


 英雄でもなく。

 蒼衡《そうこう/アズール・バランス》でもなく。

 世界機関でもない。


 それでも、

最後まで現場に立ち会っている存在。


「……それは」


 別の者が、低く言った。


「裁定を委ねるのと、

 何が違う?」


 誰も答えられなかった。



 同じ頃。


 英雄のもとにも、

似た空気が流れ始めていた。


「最近さ」


 ノイン=フェルツが、

装備を整えながら言う。


「出動前に、

 “あの人たちはどう見るか”

 って聞かれた」


「……俺もだ」


 ヴァルハルト=レオンは、

苦い表情で頷いた。


 英雄は、

剣を振るう役割だ。


 判断を委ねられる存在ではない。


 だが、

世界は“答え”を欲しがっている。



 蒼衡《そうこう/アズール・バランス》も、同様だった。


「切るか否かの前に」


 セイン=ヴァルクスは、

記録端末を閉じる。


「ノーリトリートの線を

 確認しろと言われた」


「……それ、

 もう基準じゃないか」


 ガラン=ディオルが、

低く笑う。


 冗談ではない。


 切る側が、

“切らない存在”を

判断基準にし始めている。


 それは、

均衡の崩れだ。



 その夜。


 ノーリトリートの拠点に、

正式な連絡が届いた。


 文面は丁寧で、

強制力はない。


 だが、

明確だった。


現在進行中の不可逆事案について

貴パーティの見解を

参考意見として共有いただけないか


「……来たね」


 ミリアが、

静かに言う。


「予想より、

 早かった」


 リュカは、

文面を何度も読み返す。


「“裁定”とは書いてない。

 でも……」


「責任は、

 こっちに来る」


 エルドが、

短く結論を出した。



 レインは、

すぐに返事を書かなかった。


 しばらく、

紙の上にペンを置いたまま、

動かない。


「……どうする?」


 ミリアが、

恐る恐る聞く。


 レインは、

ゆっくりと顔を上げた。


「断る」


 即答だった。


「……理由は?」


「頼られた時点で、

 もう“非裁定”じゃない」


 その言葉は、

重かった。


「意見を出せば、

 世界はそれを

 “正解候補”として扱う」


「それは、

 選ばせることになる」


 それは、

ノーリトリートが

最初に拒んだ役割だ。



 ミリアは、

少しだけ俯いた。


「……でもさ」


「うん」


「断ったら、

 誰かが代わりに

 選ぶんだよ」


 それも事実だった。


 英雄か。

 蒼衡か。

 世界機関か。


 誰かが、

選ばなければならない。


 レインは、

その言葉を否定しなかった。


「それでも」


 一拍。


「僕たちは、

 引き受けない」


 後悔は残る。

 被害も出る。


 それでも、

代わりに選ぶことはしない。


「……冷たいね」


 ミリアが、

小さく笑う。


「そうだ」


 レインは、

否定しない。


「でも、

 冷たさを引き受けるのが

 僕たちだ」



 返信は、

簡潔だった。


当該事案について

非裁定ノーリトリート》は

見解を提示しない

判断は、世界の側で行ってほしい


 それだけ。


 理由も、

説明も書かない。



 数日後。


 世界機関内部で、

はっきりした言葉が交わされる。


「……頼れない」


「頼らせない、

 という意思だ」


「なら」


 一人が、

重く言った。


「我々が、

 全てを背負うしかない」


 それは、

正義にとっても、

秩序にとっても、

最も重い結論だった。



 遠くで。


 ヴァルグリム=ゼインは、

その報告を聞いていた。


「……なるほど」


 低い声。


「拒否したか」


 想定の一つではあった。

 だが、

最も厄介な分岐だ。


 世界が、

自分で選ばなければならなくなる。


 正義が、

前に出続けなければならなくなる。


「……なら」


 彼は、

静かに結論を出した。


「終わりを、

 早めるしかない」


 役割は、

限界に近づいている。


 次は――

誰かが壊れる。


 決断は、速かった。


 世界機関は、

非裁定ノーリトリート》の返答を受け取った翌日、

正式に方針を確定させた。


当該不可逆事案について

英雄部隊を主軸とした

強制的安定化措置を実施する


 慎重な言葉を選んでいる。

 だが、意味は一つだ。


 選ぶ。


 世界が、

自分の責任で選ぶ。



 英雄は、拒めなかった。


「……行くしかない」


 ヴァルハルト=レオンは、

剣を握り締める。


 誰かが止めなければ、

もっと壊れる。


 その判断は、

正しい。


 正しすぎる。


「今回は、

 退かない」


 それは、

自分自身に言い聞かせる言葉だった。



 蒼衡《そうこう/アズール・バランス》も、

同時に動く。


「……切る」


 セイン=ヴァルクスの声は、

迷いがなかった。


「被害最小を、

 越えてでも」


 それは、

彼らが最も避けてきた選択だ。


 だが、

世界が選んだ以上、

均衡を守るためには必要だった。



 戦域は、

即座に形成された。


 今回は、

戦域掌握ドミニオン・フィールド》ではない。


 より単純で、

より苛烈な形。


 力で抑え込む戦場。


「……来るぞ!」


 英雄が前に出る。


 蒼衡が、

背後を固める。


 連携は完璧だった。


 だからこそ――

壊れた。



 都市区画の一部が、

完全に機能を失った。


 建物は残っている。

 人も生きている。


 だが、

元の生活には戻れない。


 世界機関は、

即座にこう記録する。


安定化措置、成功

想定被害範囲内


 だが、

その文面を見た英雄は、

剣を下ろしたまま動けなかった。


「……成功?」


 誰に聞いたわけでもない。



 ノーリトリートは、

遠くからそれを見ていた。


 近づかない。

 介入しない。


 それが、

自分たちで選んだ答えだ。


「……私たちが、

 断ったからだよね」


 ミリアの声は、

震えていなかった。


 それが、

一番つらかった。


「そうだ」


 レインは、

はっきり答える。


「拒否した結果だ」


 世界に判断を返した。

 だから、

世界は判断した。


 誰も、

ノーリトリートを責められない。


 それが、

最も重い。



 その夜。


 世界機関内部で、

一つの文言が削除された。


最小被害


 代わりに、

こう書かれる。


不可避損失


 言葉が変わった瞬間、

世界の温度が一段下がった。



 英雄は、

その報告を見つめたまま、

しばらく動かなかった。


「……次も、

 俺たちが選ぶのか」


 誰も答えない。


 蒼衡も、

同じ沈黙を抱えていた。


「切った」


 ガランが、

短く言う。


「でも……

 何かが残った」


 均衡ではない。

 後悔だ。



 遠くで。


 ヴァルグリム=ゼインは、

その結果を聞いていた。


「……来たな」


 低い声。


「世界が、

 自分で壊した」


 それは、

彼の役割が

終わりに近づいた合図だった。


「……次は」


 一拍。


「もう、

 引けない」


 彼自身も、

その線を越えつつある。



 拠点に戻ったノーリトリート。


 誰も、

すぐには口を開かなかった。


 正しかった。

 だが、

救えなかった。


 選ばなかった。

 だが、

選ばせてしまった。


「……後悔、

 増えたね」


 ミリアが、

静かに言う。


「増えた」


 レインは、

否定しない。


「でも」


 一拍。


「引き受け続けるって、

 決めた」


 それが、

非裁定ノーリトリート》の

唯一の誓いだ。


 正義にならない。

 世界の代わりに選ばない。


 それでも――

拒否した結果から、

 目を逸らさない。



 この夜を境に、

世界は理解した。


 ノーリトリートは、

最後の答えではない。


 最後まで、

 答えを持たない存在だ。


 そしてそれは、

正義よりも、

ずっと重い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ